結論・おわりに
私たちは、地方交通を改善し、交通難民を減らすために、今まで解決案の提示や実地調査を行ってきました。
ところで、地方交通の改善には、大きく分けて二つの方法が挙げられます。
1.住民などの、利用者が「自主的に」交通手段に乗るようにする
2.公共交通自体の改善(使いやすくする、観光客を呼び込み設備投資のための財源を確保するなど)
1と2、どちらが実現性が高いのでしょうか。私たちは、圧倒的に、2だと考えます。
イソップ寓話に、「北風と太陽」という話があります。この話は、様々な場面のもとで、多様な解釈をもった教訓としてしばしば用いられます。
北風と太陽が、旅人のコートを脱がせられるか、という力比べをしました。
北風は、風を吹かせて旅人のコートを吹き飛ばそうとしました。しかし、旅人はコートを抑えたため、コートは吹き飛ばず、寒いと感じてさらにコートを着てしまいました。
太陽は、暖かくして旅人のコートを脱がそうとしました。暖かくした結果、旅人はコートを脱ぎ始めました。
北風と太陽の力比べは、太陽が勝ちました。
(出典:イソップ寓話より、私たちでまとめました)
北風は、旅人の行動を考えず、風を吹かせてコートを脱がそうとする、乱暴な方法を使いました。旅人は、苦痛を感じたでしょう。⇒失敗
太陽は、旅人の行動を考え、暖かくしてコートを脱がそうとする、優しい方法を使いました。旅人は、苦痛を感じていません。⇒成功
この話は、先ほどの1と2の比較に適用できます。
1は一見良い話に見えますが、危険な側面をはらんでいます。
1.利用者は、交通手段を維持するという大義名分のもと、不便な交通機関への乗車を強いられます。不便な交通機関を使用することで、移動時間が余分にかかるなど、生活の無駄も大きくなります。⇒失敗
2.利用者は、良い、安いものは利用するという一般的な消費者心理のもと、改善された交通機関に乗車できます。改善され、便利な交通機関に乗ることで、生活の質も向上します。⇒成功
住民が不便な交通機関を維持しようと積極的に乗車する、としても、長続きするでしょうか。普通に考えて、長続きしないでしょう。また、急場をしのいだとしてもその後の見通しが見えず、持続可能性に欠けます。
故に、利用者が頑張るよりも、交通機関を運行している事業者、自治体が「客に乗ってもらうために」改善の努力をすることの方が先になされるべきです。2番の方が、問題の本質的な解決につながるのです。
また、社会的問題に対して提言をするときに、「多数の人が○○問題に対して意識を向けるべき」といった結論に終着している事例が多く見られます。しかし、これは先述したように、実現性が極めて低いのです。実現性を高めるためには、物事の本質的な解決を目指し、具体的な政策、施策を考える必要があるのです。その方が、持続可能性に長けます。
故に、私たちは、サイトを閲覧してくださっている皆様に対し、「交通機関に乗りましょう」などといった、持続可能性に欠ける呼びかけはしておりません。
私たちは、不便な交通機関に対して、運行会社、自治体がどのような施策を行っていくべきなのかを研究しました。本ページでは、私たちがこのサイトで挙げた根拠をもとに、各交通機関別にまとめ、提言をします。
なお、本サイトでは、自動運転技術の進化などの未来の交通手段は考察外とし、既存の技術で交通改善を目指すこととしていますので、その点はご留意ください。
私たちが結論にたどり着くまでに行ったディスカッション:
ディスカッションの記録(参考)
コミュニティバス
コミュニティバスの運行で不便なことが生じている場合、「ルート変更」は不可欠であると考えます。
「ルート変更」のページでも挙げたように、循環ルートは所要時間が長いため、遠回りをしない直線的なルートに変更する必要があると考えます。この変更により、運行効率の上昇や、それに伴う収支の改善が見込めます。利用者目線では、分かりやすいルートになることで、利用へのハードルが下がります。
兵庫県「コミュニティバス・アセスメント指針」(平成20年3月)に、次のような記載があります。
○運行時間や運行距離が長いと、利便性が低下し、運行コストも嵩むため、可能で あればある一定の範囲内に抑えることが望ましい。
○県内の実績から収支率との関係をみると、収支率20%以上の路線のほとんどは、 概ね運行時間40分以内、運行距離20㎞以内であり、この範囲に抑えることが 望ましい
上記より、収支率が良い路線は効率の良いルートを運行していることがわかります。また兵庫県が述べているように、冗長な(遠回りの)ルートを運行していると利便性が落ちることがわかります。皆さんが時間を気にするように、所要時間が増えると利便性が低下することは明らかです。
その上で兵庫県は、周回型(=循環型)のルート変更について、以下の図のような提案をしています。
図のようなルート変更は、コミュニティバスを効率的に運行するうえで不可欠です。持続可能な交通手段を創るためにも、ルート変更は不可欠なのです。
そしてルート変更を行った前提のもとでは、商店が出資したコミュニティバスを運行することが不可欠です。「コミュニティバス」の項でも述べた通り、コミュニティバスは「公共交通空白地域」の住民のために運行しているものです。本来、コミュニティバスは路線バスや鉄道と同じように、日常的に使う住民の足でなければいけないのです。
しかしコミュニティバスの運行ルートとして、病院や、公共施設を主として循環している事例が少なくありません。たしかに高齢者の方々は病院に行く足は必要であり、公共施設に行けなくなっては困ります。しかし、それらの公共施設に行く頻度は多いとは言えません。日頃外出する目的として、「買い物」が多いのではないでしょうか。
上の図は、国土交通省による外出の目的の統計です。これをみると、外出の目的の中で「日用品の買い物」「日用品以外の買い物」が「通院」よりも頻度が高いことがわかります。
また、近年地方に相次いで開業している大型ショッピングモールでは、「食事・社交・娯楽」も事足ります。
故に、コミュニティバスは買い物を一番に考えて運行するべきではないでしょうか。そこで、私たちは、大型スーパーや商店街などの「商店が出資するコミュニティバス」の運行を促進するべきだと考えます。「商店が出資」の項でも述べたように、商店が出資するバスでは、商店の駐車場等にバス停を設置でき、利用者にとっても利益となるだけでなく、ダイレクトにアクセスするバスによって集客の向上も図ることができます。また、バスと商店でタイアップしたクーポンや地域通貨を発行することによって、販売促進にもつながります。
さらに、コミュニティバスに大型スーパーなどのチェーン店が出資することは、近年重視されるようになった企業のCSR(企業の社会的責任)の観点でもメリットがあります。公共交通空白地域を無くす、持続可能な公共交通の運営として社会的責任を果たすことに繋がるのです。
このように、商店が出資するバスならば、運行する商店側とバスを利用する客側の利害が一致するため、利用者も充分に確保でき店側も利益を上げて安定した運行を行うことができます。
バス
まず、「分社化(子会社化)」は、対症的な対策としては効果を発揮します。しかし、不採算部門のみが切り離されてしまうなど、抜本的な対策ではないので持続性に欠けます。
分社化のメリットとして、地域に密着した運営ができる、ということを挙げました。しかし、分社化せずとも、地域に密着した運営は可能です。会社を分けるのではなく、それぞれの部門、地域で、地域に密着した施策を考え、柔軟に実行するべきです。
路線バスでは、それぞれのバス会社で貨客混載を推進することが良いと考えます。
「貨客混載」の項や「宮崎交通」「岩手県北バス」実地調査レポートでも詳しく取り扱っていますが、貨客混載は運送会社(ドライバーの削減や運送コストの削減が可能)にも、バスの運行会社(貨物収入が入ることでによる利益増加が可能)にもメリットがある方法です。故に、貨客混載を行える地域は積極的に実施し、路線の維持を目指すべきです。
また貨客混載は、コミュニティバスに商店が出資するのと同様に運送会社のCSRを果たすことにもつながります。
次に、「補助金」の項でも述べたように補助金は存亡の危機に立たされている交通には不可欠です。しかし、補助金は今のあり方から変える必要があります。
補助金について、まず補助金を拠出する基準を厳格化し「補助金を垂れ流している」と批判されている現状を改善すべきです。また、補助金を出した後も路線の利用状況、会社の財務状況を頻繁に確認して補助金なしで経営する策を模索すべきです。
また、前述した貨客混載を行う企業に補助金を拠出するという補助金の出し方も考えられます。そうすることで、貨客混載の推進につながります。
また前提ではありますが、ソフト面での改良も必要不可欠です。コミュニティバスはナンバリング等で路線をわかりやすく区別しているケースがみられますが、路線バスは系統が複雑であったり、バス停の案内が不十分であったりといったことが少なくありません。
路線バスの運賃が乗る前に分からなかったり、乗車方法が分かりづらかったりすると、観光客などには使いにくく、バスを敬遠する理由となってしまいます。
故に、バス停の情報を充実させることは必要不可欠です。ハード面での設備投資と比べて、費用もかからずできるので、バス会社の努力で実施するべきです。
バス停自体は古いですが、紙を一枚掲示するだけで、情報提供性がグンと上がります。 |
上の写真は、神奈川県の神奈川中央交通藤沢営業所のバス停の路線図と案内です。すべてのバス停が記載され、運賃を乗車の前に知ることができるわかりやすい路線図です。
このように、バス停自体は古くても、紙を一枚製作するだけで情報提供性を高めることができます。
また、「実例」で取り上げた海老名―寒川線のように、実は観光名所へのアクセス性に優れていたりする路線もあります。本数が少ない鉄道路線のバイパスとなる路線もあります。そのような利用価値が高い路線は知られていないことが多く、非常にもったいないです。
先述した情報提供の強化とあわせて、バス停への広告的な張り紙を実施し、そのバス路線だけではなく、鉄道やコミュニティバスも含めた交通ネットワークとしての価値を高めるべきです。
鉄道
まず、鉄道路線を安定して経営する為には、観光化を行うことが重要だと考えます。観光化によって路線の魅力をアピールすることで利用者が増加すれば、結果的に利益を継続して上げることができます。例えば、実例で述べた「富士急行」は、観光化によって大きな利益をあげ、高頻度運行を行っています。これにより、地域住民の足を確保できています。
また、路線バスと同様に、貨客混載も可能ならば積極的に行うべき施策の1つだと考えました。バスにおける結論でも述べたように、貨客混載を行うことで貨物収入が得られるため、貨客混載は経営の苦しい地方の鉄道路線において必要な対策といえます。
さらに、短編成高頻度運転も交通難民の解消に大きく貢献する施策です。短編成高頻度運転を実行すれば電車の運行本数が増加するため、利便性の大幅な向上が期待できます。
また、上で述べた施策を行うための設備投資は、積極的に行うべきです。「効率化」の項でも述べたように、積極的な設備投資は、副次的効果を生むことがあります。
そもそもの「鉄道」という輸送形態を変えることも検討に値します。
利用者数が少なければ、思い切ってバス転換を検討すべきです。現状、バス転換した後に路線が廃止になってしまう例も多数あります。しかし、上の「バス」で述べたような貨客混載や補助金を活用すれば、鉄道をそのまま運行させるよりも持続可能性に長ける場合もあると考えます。
加えて、ライトレール化は条件によっては行うべきだと考えます。「ライトレール」の項でも挙げたように、具体的な条件として、
①元来その地域に廃線後の線路などが存在し、ライトレール導入の手間やコストが省ける
②沿線地域に住民が一定数おり、ライトレール化後も充分な集客が見込める
③自治体にライトレール化に関する資金援助を行う余裕がある
などが挙げられます。ライトレールは低コストかつ輸送力が大きいため、導入されれば地域交通の足として活躍する可能性があります。
最後に、第三セクター化する際には、ただ転換するだけでなく、上記のような施策を取るべきです。ただ第三セクター化するだけでは持続性に乏しく将来性がありません。第三セクター化しても廃線への道を歩むだけです。
第三セクター化すると、大きい会社から切り離され小規模な運営が可能になることが多く、新駅の開設や観光化が容易にできます。
したがって、第三セクター化する際には、ただ転換するだけでなく、上記のような施策を必ず取るべきです。
おわりに
サイトをご覧いただきまして、ありがとうございました。
私たちが、本やWebサイトを用いて調べ、私たちの足で実地調査に行き、導き出した結論を最後まで読んでくださり、とても嬉しく思います。
地方の交通問題は、非常に難しい問題です。今後、私たちが導き出した結論が役に立つかは分かりませんが、問題が解決の方向へ進み、「交通難民」が減ることを切に願います。
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