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ミドリムシプラスチック

バイオプラスチックの利点

従来の石油から作られるプラスチックは、原油からナフサを精製し、それを熱分解してエチレン、ポリプロピレン、ベンゼンなどのモリマーを作り、高温・高圧の環境で重縮合させることで、ポリマーに合成していくことで作られます。製造には、原料だけでなく、高温・高圧の環境を作り出すのにも大量の化石燃料を使用するため、多くの二酸化炭素を排出し、地球温暖化対策の観点からは、決して理想的とは言えません。加えて、石油は資源量に限りがあり、このまま使用し続けていった場合、将来的には枯渇すると考えられています。

対して、バイオプラスチックでは、燃焼時に排出される二酸化炭素は原料が育つ過程で大気から吸収したものであり、二酸化炭素の排出は相殺されます。また、燃焼時にダイオキシンが排出されることもなく、低温での燃焼が可能です。原料となる資源の枯渇を心配する必要もありません。

ミドリムシプラスチックの製造

開発されているミドリムシプラスチックは、ミドリムシに貯蔵されるパラミロンという物質を主原料としており、パラミロンを解繊してできるβ-1,3-グルカンに、ミドリムシから作られるワックスエステルを加水分解して作られる長鎖脂肪酸を反応させ、長鎖アルキル基/アセチル基導入パラミロンという構造のプラスチックを作るという工程で製造されます。

従来のバイオプラスチックとの違い

トウモロコシなどから作られる従来のバイオプラスチックは、普及が進み生産が拡大するにつれて、バイオ燃料で解説している問題に似た問題が起きてきています。

これまで、バイオプラスチックの原料となるトウモロコシは、食料用の品種を使用するのを避け、飼料用として栽培されているデンコーンという品種を使用してきました。食用の品種を原料として使用した場合、バイオプラスチック需要の拡大によって食用トウモロコシの市場価格が上昇し、トウモロコシが食料として必要な人々に行き渡らなくなる可能性があるためです。しかし、バイオプラスチックの生産を拡大し続けると、比較的規模の大きい飼料市場であっても影響が出てくるのではないかという懸念がされています。

そういった問題を避けるため、セルロースやヘミセルロースからバイオプラスチックを作ろうとする研究も行われていますが、これらの技術には難しい処理が必要になります。

それに対して、ミドリムシプラスチックは上記のような問題がなく、生産の効率も比較的高いため、高い関心を集めています。

生分解性プラスチック

近年、海洋中のプラスチック問題が深刻化しており、この話題を耳にすることも多くなりました。プラスチックの多くは、自然界の中で分解されることはなく、燃焼されなければ、ほぼ永遠と残ります。世界全体でプラスチックごみの量は少なくとも800万トンはあるとされており、このまま増加が続けば、2050年には魚の量よりも多くなると予測されています。

こういったプラスチックごみの中は、紫外線によって脆くなり、粉々に分解されて海を漂い続けるものもあります。5mm以下からナノサイズまでになったものをマイクロプラスチックと呼び、こうしたプラスチックごみは環境ホルモンなどの有害物質を運んでいるものもあります。これらは生態系へ大きな影響を与えたり、マイクロプラスチックを食べた魚などを人間が食べることで、人体への悪影響を及ぼすと言われています。

このような問題を解決する手段の1つとして、生分解性プラスチックの使用があります。生分解性プラスチックには、微生物によって分解され、最終的には水と二酸化炭素になるという特徴があります。また、生分解性バイオプラスチックであった場合には、分解時に排出される二酸化炭素は生産時に大気から吸収したもので、トータルで見たときには二酸化炭素の増減はありません

また、生分解性プラスチックは石油由来よりも、バイオプラスチックのほうが製造しやすいといったこともあり、生分解性バイオプラスチックの普及は進んでいくと考えられています。

ミドリムシプラスチックにおいても、原料となるパラミロンと同じ、グルカンであるセルロースやデンプンから生分解性プラスチックを製造する技術はすでに確立されており、ミドリムシ由来の生分解性プラスチックの開発も可能であるとされています。

ミドリムシプラスチックの普及と現状

ミドリムシプラスチックの特徴

ミドリムシプラスチックの普及には、価格や物性などの「強み」がなければなりません。ミドリムシプラスチックは、他のプラスチックに比べて、耐衝撃性や曲げ強度は劣るものの、耐熱性においては、ABS樹脂、ポリ乳酸、ナイロン11などよりも高く、成形のしやすさに影響する、熱可塑性に優れています。

このような特徴から、ミドリムシプラスチックは、高温の発熱があるラップトップコンピュータや、スマートフォンなどの素材として注目したり、液晶パネルの保護フィルムとしての活用を期待したりする専門家もいます。

普及の現状

メリットを生かし、実際に実用化へ向けた研究・開発が行われています。

2020年8月、ミドリムシを利用した様々な事業を行っている、ユーグレナは、バイオ燃料を生産するため、ミドリムシから油分を絞った後の「しぼりカス」から製造する複合素材を開発したと発表しました。この複合素材は、ミドリムシの残骸と石油由来のポリプロピレンを50%ずつ混ぜてできています。この複合素材を使用することで、石油由来プラスチックの使用量を単純計算で半分にすることができます。また、100%の通常のポリプロピレンよりも曲げ弾性率最大曲げ応力が高くなっており、強さ・硬さにおいて優れているといえます。加えて、バイオ燃料の「しぼりカス」から製造することで、製造コストの削減にもつながります。

また、2020年7月1日から日本において開始されたレジ袋の有料化では、バイオマス素材が25%以上配合されているレジ袋は有料化の対象外となっており、このように政府などが政策的にバイオプラスチックを支援することも、ミドリムシプラスチックを含めたバイオプラスチックの普及の後押しになります。

2020年9月には、宮崎大学農学部の林雅弘教授(応用微生物学)が、ミドリムシから「パラミロンナノファイバー」(PNF)を生産する技術を確立しました。ナノファイバーとは、直径が1nm(ナノメートル)から100nmで、長さが直径の100倍以上の繊維状の物質のことで、繊維間の隙間を高い精度でコントロールできることを特徴としています。具体的には、おむつマスクフィルターなどに利用できるとしています。

林教授は世界で初めてユーグレナを工業レベルで培養し、商品として実用化した実績があり、ミドリムシにブドウ糖を与えることで光合成に頼ることなく、大量に培養することを可能とする技術などを確立しました。この技術は、愛知県の紙加工業「スバル」が2020年度から実証プラントを稼働させ、21年度には本格生産を始めるとしています。

ミドリムシプラスチックのこれから

ミドリムシプラスチックは色々な用途が検討され、実際に開発の動きや、実用化への動きがあります。しかしながら、石油由来のプラスチックとは価格の面では劣ることもあります。こういった、ミドリムシプラスチックの「弱み」はどのようにして解消していけば良いのでしょうか。

普及は難しいとする意見もある一方で、専門家の中には、プラスチックは「素材」であり耐久品であるため、バイオ燃料のようなものとは価値をはかる基準が異なるといった意見もあります。こうした主張では、「地球環境に優しい素材である」といったことが付加価値となり、価格の面での差は埋めることができるとしており、加えて政府などが支援を行うことで、普及を促進していくことも重要であるとしています。

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