研究内容
目次
01.研究の動機
私たちは日本の国際競争力がかつては1位だったもののここ20年間で低下していることを知り、日本の経済が低迷している原因や解決策を調べてみようと思いました。そこで、まずは先行研究から日本の経済の問題点について調べ、その問題点を解決するための方策を考えることにしました。
02.先行研究
使用データ:IMD「世界競争力年鑑」各年版
この図は日本の IMD の総合順位の推移を示しています。研究の動機で述べたように、確かに日本のIMDの総合順位は低下傾向にあることが分かります。
こちらはIMDが作成する国際競争力ランキングの評価指標です。私たちはビジネスの効率性について考えることにしました。理由はビジネスの効率性はほかの項目と比べて日本の弱みであり特に「労働市場」「マネジメント」「意識と価値」の項目が低いからです。
使用データ:東京商工リサーチ
このグラフは諸国の起業活動者の割合の推移を表しています。これを見ていただくとわかるように、日本の起業率は諸外国と比べて低いことがわかります。このような経済状況は保守的な経済と呼ばれています。
出典:中小企業庁ホームページ
こちらは日本での休廃業または解散と倒産に関するデータです。こちらのデータから、倒産に比べ休廃業・解散のほうが圧倒的に多いということがわかりました。そして、廃業事業者の損得比率に注目すると、廃業になった会社のうち、六割を超える会社が黒字であったものの廃業していることがわかりました。
出典:中小企業庁ホームページ
こちらは廃業した経営者に対して、廃業の可能性を感じ始めたきっかけを選択式で聞いた結果です。廃業の可能性を感じたきっかけとしては、「経営者の高齢化、健康(体力・気力)の問題」、「後継者難」が挙げられています。つまり、経営者自身の高齢化や健康問題と後継者不足とが、廃業の可能性を感じたきっかけとなっていたことが分かります。
使用データ:中小企業庁「2017年版中小企業白書」
こちらは起業に関する意識調査です。日本は上記の5項目において最も低いことが読み取れます。日本では起業意識が低く、起業へのハードルも高いことがわかります。これが日本の問題である保守的な経済の要因であると考えられます。
02-1.これらの先行研究から
これらの先行研究から私たちは二つの問題に目を付けました。一つ目は黒字廃業、二つ目は保守的な経済です。先程のビジネスの効率性という評価項目には労働力や経済社会改革の必要性の理解などという項目があったので、黒字廃業を減らし、保守的な経済から脱却することでビジネスの効率性が上がり国際競争力が上がるのではないかと考えました。
そのために私たちは事業承継というアイデアに注目しました 。
02-2.KEY WORD 事業承継
今ある会社を、その会社の資本やノウハウを利用しつつも、新しい経営者によって全く新しいものとする創造的な営みのことを指します。 ただ経営権を引き継ぐのとは違い、承継後は自由な経営が可能なことが多いです。事業承継には子供、社員、第三者などがありますが、先行研究により第三者が引き継ぐことが一番メリットが大きいと考えられます。そのメリットとは主に失業者が減ることと、経済の循環がよくなることであり、事業承継によってイノベーションが起こされるという起業に似た働きがあります。また、第三者承継で大きくなるメリットとは後者です。
事業承継についてもっと詳しく知りたい方はこちら03.データ分析
03-1.方針
先行研究を組み合わせて事業承継が日本の経済を改善するためのカギの一つであると考えた私たちは、事業承継の認知度が低いことなどが問題であると考えました。そのため事業承継の広報・促進を基本方針とし、そのためにその最適な対象者等を調べることにしました。
03-2.リサーチクエスチョンとその結果
以下の3項目をリサーチクエスチョンとして、データ分析を行いました。
問1 どのような人を対象にして促進すべきか
こちらは起業関心層に対するアンケート調査の結果です。これより「起業するかどうかはわからない」「起業するつもりはない」と回答した被験者の人数が多いことがわかります。全体の被験者である企業関心層630人のうち、半数近くが上記のように回答しており、起業に興味はありながらも明確な企業意思の無い人が相当数いることがわかります。
この図の被験者の中で「特に理由がない」と回答した人は 10.0%です。しかし、それ以外の回答の合計は 292%になり、平均すると一人当たり 3.24 個の要因が重なった結果起業に踏み込めないことがわかります。つまり、起業の経済的価値は高いものの、その障壁は複雑に絡み合っており、取り除くことは容易ではないことがわかります。このような結果と、事業承継と起業の類似性から起業関心層中の明確な起業意思がない人を対象に促進できるのではないかと考えました。
問2 どのような年齢を対象にして促進すべきか
計画
問1の結果から明確な企業意識がない起業関心者を対象にすることを前提にしました。
今回はそのデータがなかったため、誤差は予想されるものの仮に起業関心者層全体の年齢別データを使用しました。総和として経済に最も大きな影響を与える世代を対象にしたいということを前提条件としました。
そして最も大きな影響とは「その人が社長になってから引退するまでに生み出す富の総和が大きい×起業に関心がある人数が多い」と定義しました。
この数値はもしその年齢の起業関心者層全員が事業承継または起業によって社長になったときに生み出す付加価値の総和を表しています。
また、社長の引退年齢は65歳(現在の平均より)と仮定しました。その上で年齢別人口データ・年齢別起業関心率データ・社長の年齢別年商データを使用しました。
手順(男性の例で示しています)
①年齢別人口データに年齢別起業関心率データを掛け、年齢別の起業関心人口を算出する(20歳~65歳)
②年齢別年商のデータが少なかったため仮に3次関数で近似する
③a歳のときに引退までにどれだけ富を生み出せるかを求めるためa歳から65歳の範囲で定積分する(次式1)
* f:年齢別一人当たりの生み出す富 g:年齢別年商(近似した関数)
④定積分した値に年齢別起業関心人口をかけた積を「富を生み出す総和関数」と定義する
結果:男性女性とも、若い世代のほうが効果的であるということがわかりました。使用データ:人口推計(2022)総務省統計局
04.考察・実用
これらの結果から、起業する予定のない起業関心者をターゲットに促進するべきであるとわかりました。さらに、若年層をターゲットにすることで最大の経済効果が期待できることがわかりました。
04-2.そこで
私たちは若年層というキーワードを考えたときサイトやSNSの利用に注目しました。そこで私たちは若者の事業承継に接するハードルを下げるべく、SNSを事業承継の当事者同士が繋がる場として活用していきたいと考えました。
使用アプリ:X(旧Twitter) 研究方法:#事業承継 と検索し、投稿内容を独自の観点で分類 ※12月6日「話題のツイート」で検索 ※上から100件を検索 仮説:現在はSNS上で事業承継の合意をするための投稿は少ない
研究結果:100件中34件が私たちが推進しようとしているSNSで直接紹介するための投稿であった。したがって仮説は誤りであった。しかし、それらに関する投稿は注目度が比較的低く、上のほうにある啓発やイベント等の報告や予告が目立ってしまっていた。
そこで、#事業承継したい を新たに創出し、そのハッシュタグを検索することで事業承継されたい人としたい人を結び付けられるシステムの構築を目指すことにしました。
では、このシステムは従来の事業承継サイトと何が違うのでしょう。現在事業承継サイトは様々なものがありますが、現状ではそのアカウントを作るまででハードルが上がります。さらに、その使用費は高額です。その一方SNSは若者が普段使い慣れているアプリであり、ハードルが低いうえ、当事者同士の合意には費用が掛かりません。ただしデメリットとして法律の専門家などは別個必要とします。
最終的に私たちは私たちの研究結果を認知してもらい、#事業承継したい を認知してもらい、高齢であることが多い元社長のSNS利用を代行するための模擬サイトを構築することにし、このサイトを作りました。
05.結論・今後の展望
私たちの研究の目的は低迷しつつある日本の経済の問題について調べ、その問題を解決する手段を調べることでした。私たちは、先行研究から事業承継の有用性を確認したうえで、事業承継を推進していくべき対象者として、起業する予定のない起業関心者、その中でも若年層をターゲットにして推進していくべきであると結論付けました。
分析内容を推敲して事業承継の現在考えていない内容についても考慮したうえで模擬サイトを開発していきたいです。そして、その実用性を高めるため、実際にユーザを想定した調査を行い、データを収集していき、改良していきたいです。また、実際に社会で利用できるように詳細について検討していきたいです。
06.参考文献サイト
- IMD「世界競争力年鑑」2023 年版からみる日本の競争力 第 1 回:データ解説編総合順位は 35位 過去最低を更新
- 竹村敏彦(2014)“日本の国際競争力強化に向けた戦略と課題
- 中小企業庁:財務サポート「事業承継」
- 中小企業庁「2014年版中小企業白書」
- 中小企業庁「2017年版中小企業白書」
- 2020年度起業と起業意識に関する調査|日本政策金融公庫 総合研究所
- 2022年度起業と起業意識に関する調査|日本政策金融公庫 総合研究所
- 総務省「人口推計 2022年(令和4年)10月1日現在」
- 帝国データバンク「全国「社長年齢」分析調査(2022年)」
- IMD Business school「The 2022 IMD World Competitiveness Ranking」
- OECD Data 「Gross domestic product (GDP)」