錬 金 術 と は  第一講


1−2 錬金術の基礎理論

 錬金術とは純然たる理論体系に基づいており、現在の科学の役割を果たしていた時代すらあった。しかも、実は錬金術の大前提となっている概念は、現在の原子核物理学と大きな違いが無い。(錬金術自体が化学と大差ない、ということではない。)

 この概念はヘルメス哲学を元としており、その根幹は物質の原一性(ユニテ)である。この原一性理論とは「物質は一つであり、それはさまざまな形を取ることができ、さまざまな形でそれぞれ別々の性質を持つのである。」ということだ。この大本の物質は第一質料呼ばれる。また、この理論は「万物が変化し続けても、何一つとして消滅することはない。」とも言える。これは化学の保存法則の一つである質量保存の法則と大きな違いがあるが、根本の物質が変化しないという点において、同一である。化学と錬金術の詳しい違いについては1−3 錬金術と化学で説明する。

 では、その物質の原一性について述べていこう。
 そもそも、この宇宙全てに存在するモノは神に創造されたもので、神は全宇宙をその自身に内包している。つまり宇宙の外側には神がいて、その神の存在する領域は誰にも創造されず最初からあった世界と言われている。(画像参照:画像はクリックで大きくなります)
 そして神に創造された被創造物は唯一であり、ただ特性によって分かれているだけで、人間・動物・植物・鉱物等、有形のモノは元は全て同じである。
世界の構造
 例えば、錬金術師が黄金錬成をしたとしたら、その時錬金術師は新しいモノを作っている訳ではなく、物質の形相を変化させているだけ、という事になる。
 では、全てが同一の物質からできているのならば、ある物質と他の物質を区別する要素はなんであろうか?
 それは三原質四元素である。この理論はアリストテレスにより提唱された。


 三原質とは、その物質の性質である。現代の化学のように物質ごと詳しく分けている訳ではなく、名称の通り全体を大きく三つに分割している。
 この三つは「硫黄」「水銀」「」であるが、ここで注意をしておきたい。これらは文字通りの物質を指すのではなく、物質の特性を名称化したものである。化学でも、酸性と塩基性(アルカリ性)の中和で塩(えん)が発生するが、これは食塩(NaCl)とは別物、という似たような考え方がある。
 硫黄は可燃性・腐食性などの能動的性質、水銀は揮発性・可溶性などの受動的性質を持ち、それぞれ正反対の性質を持つ。また、硫黄は男性的、水銀は女性的、という性的二元論にも通じる対応もある。
 塩は硫黄と水銀を結びつけるエーテル体で、下記の四元素と矛盾するようだが、第五元素とも呼ばれるが、塩は特には重要でなく、重要なのは硫黄と水銀の二元論である。
 また、「硫黄」を多く含む物質は金、「水銀」を多く含む物質は銀、「塩」を多く含む物質は水銀、と考えられていた。
 図表で表すと、下記のようになる。

_第一質料_/ 硫黄:男性:能動:熱:不揮発性
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ 水銀:女性:受動:冷:揮発性


 次に、四元素の説明に移る。これはその物質の状態であり、それぞれ「」「」「空気」「」の四つである。この名称も三原質と同じで、言葉通りではなく物質の状態を名称化したものである。
 「水」と「土」は可視で、「空気」と「火」は不可視であり、それぞれ熱・冷・湿・乾の性質を持つ。
 また、これらは下の様に周期的に遷り変り、これはプラトンの輪と呼ばれ、四元素はこの順序で遷り変る。また、逆にも遷り変りえる。

「火」→→(凝結)→→「空気」→→(液化)→→「水」→→(固体化)→→「土」→→(昇華)→→「火」

 四元素と三原質の関係は、上の図に下を付け足した様になる。

            _硫黄_/「土」 乾:冷:可視:固体
           / ̄ ̄ ̄ ̄\「火」 乾:熱:不可視:希薄
_第一質料_/__塩__
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
           \_水銀_/「水」 湿:冷:可視:液体
             ̄ ̄ ̄ ̄\「空気」 湿:熱:不可視:気体

 なお、これらを化学に対応させると、「水=液体」「土=固体」「空気=気体」「火=プラズマ」になるといわれている。


 全ての物質はこの三原質と四元素の比率により別の性質を示す。錬金術師はこの比率を変化させることで、ある物質を別の物質へ錬成しうる。
 そして、物質の変化、詰まる所この二つの要素を変質させる原動力は生気論が元となっている。
 前項で紹介したが、錬金術の目的は物質の純化、霊的な次段階への昇華である。錬金術師は物質が本来持つエネルギーを生命根源の力で、第一質量に働き掛け昇華させようとする。だがこれはファンタジーでいう魔力とかいう類の物ではない。これは燃料ではなく、着火剤と言うべきである。

金属と惑星の対応表
銅………… …………金星
鉄………… …………火星
錫………… …………木星
鉛………… …………土星
水銀……… …………水星
銀………… ……………月
金………… …………太陽
 また、七金属についても忘れてはならない。錬金術師達は状態により物質を七種類の金属に分けていた。これらは「」「」「」「」「水銀」「」「」であり、金と銀は完全な状態、その他は全て不完全な、錬金術師の例えで言うと「病気の状態」である。ちなみに全ての金属は占星術における惑星の記号と対応しており、占星術と結びついた発想も存在した。
 通常は「地球の胎内から生まれてくる物質は金属となり、本来全ての金属は完成形、つまり金として生まれる事になっている。だが様々な要因でそれは妨げられ、多くの金属は卑金属となってしまう。しかし、全ての金属は常に完成形になろうと働いているので、地中深くで長い年月をかけ徐々に変性する。」という理論が主流だが、十七世紀オランダの錬金術師グラウパーは「一度金に到達した金属はまた逆の順で鉄に戻る。そして鉄に戻った金属はまた金を目指す。」として金属の循環を説いた。
 金語句が地中で金属が変性する際、

 鉄→→銅→→鉛→→錫→→水銀→→銀→→金

 の順番で変性し、鉄が最も不完全であり純度もこの順序である。

 では、次はいよいよ化学と錬金術との関係について解説する。

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