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日本人と熱中症

地域別の分析

様々な気候が存在する日本。熱中症搬送者は、地域別にどのような特徴がある?

 私たちは、GISソフトであるMANDARA10(詳しくはこちら)を用いて、分析データを地図化しました。以下の地図は、入手したデータを可視化し、地域別の分析をより視覚的に伝えるため、独自に作成したものです。

 地域レベルで熱中症の分析を行うために、都道府県別に熱中症搬送者数を8年間分集計し、その合計値を地図にまとめました。
 熱中症搬送者数は、東京都、愛知県、大阪府、福岡県といった人口の多い都道府県を中心とする太平洋ベルトで多い傾向にあります。また、このような地域は、観光客も多く訪れるため、その土地の気候に慣れていない人への対策も必要だと考えます。
 また、コンクリートやアスファルトが多い都市部では、太陽からの直射日光だけではなく、熱せられた地面や壁からの輻射熱(ふくしゃねつ)も影響しやすいため、熱中症になるリスクは上がっていきます。このように、熱中症搬送者数が多いところには、ヒートアイランド現象も関係していると考えられます。

ヒートアイランド現象とは?

 都市の気温が周辺より高い状態のこと。気象庁によると、地表面がアスファルトやコンクリートに覆われ、水分が少ないために土などの地面に比べ出す熱が多くなり、気温が上がります。コンクリート建物は日中ため込んだ熱を夜間に大気に与え、気温の低下を抑えます。また、オフィスや家庭の冷房などの熱も影響し、首都圏では2度程度気温を上げると言われています。(東京環境科学研究所へのフィールドワークで伺ったお話しを参考にしました。)

 熱中症の搬送者数が多くなっている都道府県では、特に熱中症に注意!同時に、熱中症の搬送者数だけで、熱中症の危険度を判断するのは危険だと理解してもらうことも大切だね。

 次に、人口以外の要素と、熱中症搬送者の関係性を調べるため、母数を人口10万人に揃えて比較したものが下の地図です。
 地図から、西日本は人口10万人中450人以上の熱中症搬送者がいる県があるなど、熱中症による搬送率が高くなっていることが読み取れます。人口10万人あたり熱中症搬送者数のベスト5は、岡山県、和歌山県、高知県、鹿児島県、熊本県です。
 一方で、人口の多い東京都、神奈川、大阪府、愛知県、埼玉県などでは、熱中症による搬送率はほかの都道府県に比べて低くなっていますが、熱中症搬送者数の絶対数は多いため、油断はできません。

 地域別にグラフ化すると、やはり、四国地方・九州地方・中国地方の地域の順で人口10万人あたり熱中症搬送者数が多くなっています。また、西日本に比べて過ごしやすい夏のイメージのある北海道・東北地方でも、人口10万人あたり熱中症搬送者数が少ないとは言えません。

 次に、地域ごとの気候の特徴と熱中症の関連性に着目していきます。以下の4つの地図では、8年間分の都道府県ごとのデータの平均値を地図にまとめました。
 まず、6月(もしくは5月)から9月の1日ごとの平均気温の平均値を示したものです。西日本で平均気温が高く、東日本では平均気温が低いことがわかります。人口10万人あたり熱中症搬送者数が高い都道府県と平均気温が高い都道府県は、おおよそ一致しています。
 次に、6月(もしくは5月)から9月の1日ごとの最高気温の平均値を示したものです。平均気温と同様に西日本で5〜9月の最高気温が高いです。その一方で、平均気温より最高気温の分布の散らばりが大きく、京都府、岡山県などいわゆる盆地のある都道府県では、最高気温が高い傾向にあることが読み取れます。
 人口10万人あたり熱中症搬送者数が多いベスト5の都道府県のうち、岡山県、鹿児島県、熊本県は、最高気温が30度以上と高く、最高気温が高い都道府県と人口10万人あたり熱中症搬送者数が多い都道府県は、西日本でおおよそ一致しています。

 また、1m³あたりの水蒸気量である、絶対湿度を比較しました。6月(もしくは5月)から9月の1日ごとの絶対湿度の平均値は、西日本で高いことに加え、太平洋に面する関東地方南部でも高めであることが分かります。夏の平均気温が24度以上とある程度高く、降水量が多い沿岸の都道府県で絶対湿度が高いと分析できます。
 絶対湿度が高い都道府県と、人口10万人あたり熱中症搬送者数が多い都道府県は、西日本である程度一致していますが、岡山県や関東地方南部などでは一致していません。
 6月(もしくは5月)から9月の日平均WBGT(熱中症の危険度を示す指標)の平均値は、西日本、東海地方、関東地方南部で高くなっています。  
 日平均WBGTが高い都道府県と人口10万人あたり熱中症搬送者数が多い都道府県は西日本でおおよそ一致しています。

 「なぜ日最高ではなく、日平均のWBGTなのか」という疑問を持つ人もいるんじゃないかな。 私たちが日平均を使用した理由は、47都道府県で開示された気象データをもとに、WBGTを算出する際に、最高気温を記録したときの風速や全天日射量のデータを入手できなかったから。また、熱中症の搬送者は最高気温の時間帯だけで、発生するものではないため、日平均でも分析をして傾向をつかむという目的を達成できると考えたからだよ。


 以上の4つの地図から、西日本で、平均気温、最高気温、絶対湿度、日平均WBGTのいずれも高くなっているため、熱中症搬送率が高いと分析しました。
 次に、これまで述べてきた気象要素である平均気温・最高気温・絶対湿度・日平均WBGTのうち、何が最も指標として効果があるのかについて分析しました。次の図は、人口10万人当たりの熱中症搬送者数と4つの指標の関係性の強さを示す相関係数を比較したものです。
 最も相関が高いのは、気温です。WBGTの方が気温と比べると少し相関が低いです。WBGTは都道府県ごとの相関係数の差が最も小さく、地域差を生みにくい全国的に適応できる指標であると分析できます。また、熱中症には湿度も大きく関係しているため、絶対湿度について調べてみると、最高気温やWBGTと同じようなグラフの動きをしていますが、相関は低いことが分かりました。このことから、絶対湿度、つまり水蒸気量のみを指標として用いるより、気温との要素を組み合わせることで効果が高まると分かりました。

人口が多い東京都、大阪府、愛知県、福岡県などの大都市圏は、熱中症搬送者数が多い。また、大都市では、ヒートアイランド現象が熱中症のリスクを高めていると考えらえる。
・西日本は熱中症搬送率が高く、平均気温・最高気温・日平均WBGT・絶対湿度のいずれも、西日本で高い傾向にある
・熱中症搬送率との相関が高い指標は気温>WBGT>水蒸気量であり、WBGTは地域による搬送者率との相関の差が小さいという点で優れている