梱包の実験

●きっかけ
みなさんはAmazonや楽天などのインターネット通信販売サービス(ECサイト)を利用したことがあるでしょうか?自分は月に一、二度Amazonを利用していますが、 商品が発送されてくる度に商品の過剰包装に無駄を感じています。
ちょうど執筆現在の約一か月前(平成26年7月24日)に内閣府が発表した調査 (「循環型社会形成に関する世論調査」の概要)では、全国の20歳以上の日本国籍を有する者3,000人に対して行ったアンケートの有効回収者数1880名の内 の65.9%が通信販売での二重以上の包装を無駄と思っているという結果が出ました。

『循環型社会形成に関する世論調査』の概要
ネットショップ担当者フォーラム

そこで今回は
実際にECサイトの代表的存在のAmazonで商品を買い包装の無駄を算出し、その結果からよりよい包装の仕方を考えました。

<Amazonが小さい商品にもかかわらず大きな段ボールを使う理由>


Amazonで取り扱っている商品数は日々増加しています。
2013年2月当時で既に5000万種類の商品を取り扱っていて、それ故に商品の大きさも千差万別です。それぞれの商品に完全にぴったりのサイズの段ボール箱を用意していたらきりがありません。そこでAmazonは商品の梱包に使う段ボールのサイズに規格を決めて種類を少なくすることで包装作業におけるコストダウンを図りました。
Amazonの段ボールには「XL01」や「XY29」などのアルファベット二文字+二桁の数字がプリントしてあり、その計四文字が規格を表しています。ある個人の方のサイトの記事曰く、段ボール箱の規格には大きく分けて「XM系」「XL系」「XX系」「XY系」の四種類があり(封筒タイプには「XE系」もあるそうです)、それぞれに「01」から番号が振られており、その番号が大きくなる程箱のサイズが大きくなっています。
「XM系」は縦が約25cm横が約33cmで揃えられおり高さが3.0cm~17.0cmまで用意されていて、おなじく「XL系」も縦と横の長さは揃えられており高さが複数用意されているようです。

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段ボールの規格化によるコストダウン以外のメリットとしては運送会社側にとってトラックに積み込む際にある程度サイズが規格化されている方がどう配置するのかに困らないという意見も出ています。また消費者からの包装への肯定的意見としては、
「貧相な包装で商品が壊れて届くよりは過剰包装の方が安心だ」
「箱が小さいと運送途中や配送の中継センターで紛失する可能性がある。」
などがあります。

しかしこのようにAmazonが低コスト化、合理化を優先する反面、消費者は商品のサイズに合わない巨大な段ボールの扱いや処理に苦しめられていたり、運送会社が一度に配送しきれずにもう一台追加でトラックを手配する必要があったり、捉え方によっては、運送業者は空気を運んでいるとも考えられます。

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現在、家庭や工場や量販店などに配送された段ボールのうち95%以上が専門業者に回収されてリサイクルされています。しかし95%以上が回収されているとはいえ回収量が多ければ多いほどリサイクル工場で分解、製造する量も多くなり、より機械を動かす必要があり、結果的に地球温暖化につながります。それらは解決するには段ボールの流通量を減らす必要があります。

●調査
まずAmazonで行われている梱包方法を調査する上で輸送の際に壊れやすいもの代表例としてこのガラス製コップ5個セットを購入しました。


包装はこのようになっていて、いわゆるシュリンクラップ包装と呼ばれている包装の仕方です。

模式図を用いて説明すると
外側の段ボール箱の内部には一枚の段ボール板が入っておりその上に商品が置かれ、それらの段ボール板と商品を包み込む形でビニールが覆われています。


まず容積を算出すると

外側の段ボール箱
41.0cm×31.0cm×11.0cm=13981cm3 約14000cm3



コップセットの箱
31.5cm×13.0cm×6.5cm=2661.75cm3 約2660cm3

コップセットの箱÷段ボール箱×100
2661.75÷13981×100=19.038… 段ボールの約19%にしか商品が入っていないという事になります。逆に言えば残り81%の中で商品を衝撃から守っているという事です。

次に質量を計算します、
商品の箱:140g
コップ五個:168g×5=840g
計960g


外の段ボール箱+接着剤:291g
内側のダンボール板:62g
気泡緩衝材(通称プチプチ):21g
ビニール:12g
計386g
梱包材の重量÷総重量×100
386÷(386+960)×100=28.677≒29%
このように全体の重量の約三割が梱包に使われているという結果になりました。

そして包装のコストに関して計算します。
段ボールのまとめ売りをしているインターネット通販サイトで最も寸法の近い段ボールを選びました。
寸法は39.4cm×29.4cm×8.8cm、80枚セットで購入したとして4,720円で一枚あたりに換算すると約59円になります。
ダンボールワン s-80

気泡緩衝材に関しては同じくまとめ売りをしているインターネット通信販売サイトで試算しました。
一巻60cm×42mが十巻で11000円なので一巻あたり1,100円、梱包で使用されていたのは60cm×60cmなので1,100×(60/4200)= 15.714≒16円
http://www.in-the-box.jp/

内部の段ボール板に関しても同様に
寸法は42.5cm×30.2cm、五十枚セットで1,440円なので一枚当たり約29円
http://www.in-the-box.jp/

そして、シュリンクフィルムは収縮した状態でやくA3二枚分なのでもともとの寸法を500mm×650mmと仮定してこちらの販売先より500mm×20mで税込736円なので 736×65/2000=23.92≒24円
http://www.jiviwnd.com/
接着剤に関しては詳しいデータが得られないので無視すると、合計で59円+16円+29円+24円=128円
コップの本体代金は942円に対して128円なので本体代金の13%に相当する金額が梱包に使われていると分かりました。

まとめると
まず容積に関しては、段ボール箱の19%が
次に質量に関しては、総重量の29%が梱包材に使われており
そしてコストに関しては、梱包材のコストは商品代金のコストの13%に相当する
というデータが得られました。

●実験
ここでは●調査で得られたデータを参考に班員それぞれが現在のやり方に代わる新しい包装の仕方を考えて、それらに対して実際に耐衝撃実験などを行いベストな梱包の仕方を見つけ出します。 今回は便宜上段ボール箱対商品の箱の比は百分率で表します。

今回班員四人が各々考えて作った梱包方法がこちらです。
解りやすいように左から順にNo.1,No2,No3,No4とします。

次にそれぞれについて詳しく見ていきます。
まずはNo.1ですが、段ボール製の箱とその蓋と段ボールを丸めて棒状にしたものが四本、これらを組み合わせて、箱の面とグラスが接触しないように隙間を埋める構造になっています。


続いてはNo.2 ダンボール製の一般的な形の箱と、グラスを支えるための穴の開いた段ボール二枚
これらを組み合わせて、グラスを内部でしっかり固定するような構造になっています。
またこの梱包方法は使用する段ボールが少ないのが良い点です。

続いてはNo.3
同じく段ボール製の箱に、新聞紙を巻いてクッション性のある筒状にしたのが複数個
これらを組み合わせて、グラスを箱の面に接触しない様に全体で支えた構造になっています。

そして最後はNo.4
これは他の三つとは違い箱が三枚の段ボール製のパーツで箱が形成されており、
外側に出っ張った段ボール自身がつぶれることで衝撃を吸収するように出来ています。


実験方法は、まずアスファルトの地面に50cmの高さから落下させ、割れなかった場合50cm刻みで割れるまで高さを上げていくといった形式です。
実際に実験した様子がこのようになっています。


結果はこのようになりました。
高さ/番号 No.1 No.2 No.3 No.4
50cm
100cm
150cm × × ×
200cm × × × ×

No.3が四つの中で一番衝撃吸収性が高い事がわかりました。
ここで、今回はさらに強い梱包方法を編み出すために、それぞれの箱を分解し、グラスがどのように壊れたかを分析し新たな梱包方法の制作に着手しました。

まずは、No.1。実験では150cmからの落下で壊れたものです。
これはグラスの底面が完全に崩壊していて、下からの衝撃に弱い事がわかりました。

次にNo.2これも実験では150cmからの落下で壊れたものです。
また壊れ方もNo.1と同じように底面が完全に崩壊していて、下からの衝撃に弱いのがわかります。

次はNo.3。これは唯一150cmの高さからの落下に耐え、200cmからの落下で割れたものです。
底面は一部が割れていますが、半分程は残っている状態です。梱包側の状態はグラスの底面が完全にひしゃげています。

そして最後はNo.4。
これは150cmからの落下で壊れてしまったものですが、壊れ方はNo.3と似たように底面の一部が壊れるといった状態でした。


これらを踏まえて新たに考え出した梱包方法がこちらです。
ex110 ex111
この梱包方法はNo.3とNo.4の構造を参考にして、両方の利点を合わせ持たせた構造になっています。
外側の段ボールはNo.4のように段ボール自体がひしゃげることで衝撃を吸収するようになっており、位内側の上面と底面にはNo.4よりの新聞紙よりも厚くなるように巻いた新聞紙のチューブがしきつめられています。

そこで実際にこの方法で落下実験を行った様子がこちらです。



このように見事に200cmからの落下にも耐え抜き、中身のグラスを守りました。

●まとめ
実験をする過程で、どのように条件を決めてどのように実験するのか話し合う時間も長く、またはじめて実験した時も失敗の連続だったり、良い結果が得られなかったりして実験を中止しようと思った時もありましたが、最終的にこのような結果が得られて非常によかったと思います。
正直梱包する手間や汎用性を考えるとAmazonの包装には負けてしまうと思いますが、それよりも地球温暖化が問題視されている現代ではより少ない量の段ボールで梱包する事の方が重要だと思いました。