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No、10

5、その頃の「私」と以前の「私」
では第一段落における、「私」の心情を把握するために、
「以前」好きだったもの、「そのころ」 好きだったものを
下記の表に並べてみましょう。
「以前」、「そのころ」、どんなものに惹きつけられたか、
しっかりと押さえておいてください。

以前心をひきつけられたもの
その頃心をひきつけられたもの
美しい音楽、美しい詩
丸善の小物(オードコロン、オードキニン、香水壜、
煙管、小刀、石鹸、煙草)
壊れかかった街、裏通り
花火、おはじき、南京豆
高価な舶来品
安価だが贅沢な、みすぼらしくて美しいもの
(幼児期を思い出させるもの)

 

今の「私」は「えたいの知れない不吉な塊」に
押さえつけられています。
「よそよそしい表通り」には洗練された華やかさ、
装いの華やかさなどを
誇らしく 示しているようなところがあります。
そんな場所では「不吉な塊」を抱えている
「私」の暗さが目立ってしまいよりいっそう居たたまらずさせてしまいます。
しかし「裏通り」や「壊れかかった街」は、 その生活臭や
荒廃、雑然といった様子が自分の「落魄れた」存在を溶け込ませてくれるように思え、
「私」の「美意識」 にも訴えかけてくるために
「私」の感情を慰めてくれるのです。
また、「花火」や「びいどろのおはじき」、
「南京豆」などは値段は安いですが、
遊び道具であり何のやくにもたたないため、
それを買うことで 貧しい「私」を
贅沢な気分にさせてくれます。
そしてそれらで遊んでいた頃のような
「幼い時の甘い記憶」をもよみがえってきます。
それらは「美しい音楽」や「美しい詩」のように
美を威圧的に誇る、 自身の美を偉そうに見せびらかすのではなくて、 むしろ「私」の無気力な感受性に
擦り寄ってくるから心が慰められるのです。