高度プロフェッショナル制度
高度プロフェッショナル制度は高度な専門知識を持ち、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象としています。労使委員会の決議と労働者本人の同意を前提として、健康・福祉確保措置や年間104日以上の休日確保措置などを講ずることで、労働基準法で定められた労働時間・休日・休憩及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しないことができます。よって、合法的に残業代を削減することが可能になるため「残業代ゼロ制度」にあたるという批判もあります。
この制度は、労働時間ではなく成果を出したか否かで給料が決定され、年収1075万円以上の労働者のみに適用されます。アメリカやイギリスなどでも採用されており、「ホワイトカラーエグゼンプション」と呼ばれることもあります。日本においても、第一次安倍政権で「ホワイトカラー・エグゼンプション」として法案提出が試みられたものの、労働組合や野党の批判を受けて成立には至りませんでした。
対象となる代表的な職業には、研究開発業務・アナリスト・コンサルタント・金融商品の開発・金融商品のディーラーなどが挙げられます。高所得な職種としてよく知られ、また高度な知識を有する職種である医師や公認会計士・弁護士は、労働時間を自由な裁量に任せることが難しいため制度の対象外となっています。
高度プロフェッショナル制度導入の流れ
①労使委員会を設置する
労働者代表委員が半数を占め、委員会の議事録が作成・保存されるともに、事業場の労働者に周知が図られていることが求められます。
②労使委員会で決議する
委員の5分の4以上による多数決が行われます。決議する事項として、以下のポイントが挙げられます。
対象業務
- 対象労働者の範囲
- 対象労働者の健康管理時間の把握方法
- 対象労働者に年間104日以上かつ4週間で4日以上の休日を与えること
- 対象労働者の選択的措置
- 対象労働者の健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置
- 対象労働者の同委の撤回に関する手続き・対象労働者の苦情処理措置を実施すること及びその具体的内容
- 同意をしなかった労働者を不利益な扱いをしてはならないということ
- その他厚生労働省令で定める事項(決議の有効期間など)
があります。
③決議を労働基準監督署長に届け出る
④対象労働者の同意を書面で得る
使用者は
- 同意をした場合には労働基準法第四章の規定が適用されないこととなる旨
- 同意の対象となる期間
- 同意の対象となる期間中に支払われると見込まれる賃金額
の3つの内容を明らかにした書面に労働者本人の署名を得ることで、労働者の同意を得る必要があります。
⑤対象労働者を対象業務に就かせる
運用の過程で使用者は、②の労使委員会での決議の内容の一部(対象労働者の健康管理時間を把握すること・対象労働者に休日を与えること・対象労働者の選択的措置及び健康・福祉確保措置を実施すること)について、所轄の労働基準監督署長に6か月以内ごとに報告する義務があります。 また、対象労働者は、同意の対象となる期間中に同意を撤回できます。
立場ごとのメリット・デメリット
労働者側のメリット
高度プロフェッショナル制度を導入することで、労働者は出勤・退社の時間を自由に決められるため、空き時間を労働だけでなく子育て・趣味・介護など家庭内の用事にも費やすことができます。そのため結果的に、仕事と生活が調和しワークライフバランスが実現されることが期待できます。
会社側のメリット
高度プロフェッショナル制度の下では、労働者は短時間の労働で成果をあげようとして労働意欲が向上するため、会社全体の生産性の向上が期待できます。また、残業代を支払う必要がないため、経費の削減に繋がります。
労働者側のデメリット
高度プロフェッショナル制度は、成果を出すことができたならば短時間労働が可能です。つまり、成果を出せない限りは労働時間が延びていく恐れがあるためサービス残業の横行につながる可能性があります。また、労働時間の制限がないことによる健康への悪影響も懸念されます。
会社側のデメリット
高度プロフェッショナル制度が適用される職種によっては労働者が上げた成果の評価基準が曖昧であるため、評価の結果に個人差が発生し労働者が不満を抱く可能性があります。
高度プロフェッショナル制度は高度な専門知識を持ち、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象としている。
高度プロフェッショナル制度において、労働時間は短くなる可能性も長くなる可能性もある。