裁量労働制
裁量労働制は、働き方改革の一環として行われている政策の一つです。効率的な労働を促し、労働者が挙げた成果が正当に評価されることを目指した制度で、出退社時間や勤務時間は定められないことなどが特徴です。
「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律要綱」において、『高度な知識等を必要とし、その性質上従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定められる業務』について適用されると定められて」います。(「女性白書2018 女性の人権と憲法 ‐ 改憲の動きの中で」日本婦人団体連合会 2018年 ほるぷ出版) つまり、裁量労働制は全ての職種に適用されるものではなく、また職種の違いから「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類に分類されます。
専門業務型裁量労働制
「専門業務型裁量労働制」は業務の性質上、業務時間や勤務形態などについて雇用者側が細かく指示することが困難であるが故に労働者自身の裁量に委ねられる部分が多く、柔軟な対応が必要とされる職種が対象です。デザイナー・研究者・編集者・弁護士・システムコンサルタント業務・番組プロデューサーなどが挙げられます。
専門業務型裁量労働制の対象となる19業務
・新商品、新技術の研究開発または人文科学・自然科学の研究の業務
・情報処理システムの分析または設計の業務
・新聞・出版の事業における記事の取材・編集の業務、放送番組の制作のための取材・編集の業務
・新たなデザインの考案の業務
・放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサーまたはディレクターの業務
・コピーライターの業務
・システムコンサルタントの業務
・インテリアコーディネーターの業務
・ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
・証券アナリストの業務
・金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
・大学での教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
・公認会計士の業務
・弁護士の業務
・建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
・不動産鑑定士の業務
・弁理士の業務
・税理士の業務
・中小企業診断士の業務厚生労働省ホームページより引用
専門業務型裁量労働制を適用する際の手続き
専門業務型裁量労働制を適用する際は、企業側と労働者が以下の事柄について労使協定を結び、労働基準監督署に提出する必要があります。
①対象業務
②対象業務の遂行手段や方法、時間配分などに関し労働者に具体的な指示をしないこと
③労働時間としてみなす時間
④対象労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
⑤対象労働者からの苦情処理のために実施する措置の具体的内容
⑥協定の有効期間(3年以内とすることが望ましいとされる)
⑦上記、④および⑤などに関する記録を、⑥の期間およびその後3年間保存すること
企画業務型裁量労働制
「企画業務型裁量労働制」は、企業の管理部門・間接部門と言われる事業運営上で重要な部分に携わる業務について、業務時間の配分やワークスタイルの決定を労働者の裁量に委ねる制度です。人事・広報・経営企画・経理・営業企画などが該当します。
企画業務型裁量労働制を適用する際の手続き
企画業務型裁量労働制を適用する際には、まず労使委員会を設立する必要があります。その上で、委員の5分の4以上による多数決で以下の事柄について決議し、その決定事項を所轄労働基準監督署に提出することが求められます。
①対象業務の具体的範囲
②対象労働者の具体的範囲
③労働時間としてみなす時間
④対象労働者に適用する健康・福祉確保措置の具体的内容
⑤対象労働者からの苦情処理のための措置の具体的内容
⑥本人の同意の取得・不同意者の不利益取扱いの禁止について
⑦決議の有効期間(3年以内とすることが望ましいとされる)
⑧上記、④、⑤、⑥などに関する記録を⑦の期間およびその後3年間保存すること
みなし残業
上記のように、裁量労働制では企業側によって規定された労働時間は存在しませんが、予め「1日または1か月で〇時間働いた」と仮定しておく「みなし時間制」が採用されています。例えば、事前にみなし時間を1日7時間にしたとすると、実際には9時間働いても5時間働いても「7時間働いた」と処理されます。さらに、最終的にみなし時間を超えて働いたとしても、超過時間の残業代は支払われないと規定されています。
*深夜・休日労働に対しては法律で定められた割増賃金が支払われます。
よって、みなし時間が実際の労働時間と大きく異なると労働者の労働環境・待遇の悪化に繋がりかねないため、従来の労働環境などを考慮して企業側と労働者間で適切なみなし時間を設定する必要があります。
また、みなし時間にも労働基準法の規則は及ぶので、みなし時間が法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える場合は36協定を結んだ上で、割り増し賃金(残業代)を支払う必要があります。
裁量労働制のメリット
企業側のメリット
人件費の管理がしやすい・人件費の削減ができる
裁量労働制は「みなし時間制」などを適用するため、適用対象となる労働者の人件費はほぼ一定であると考えられます。よって、実労働時間に拘わらず事前に定めたみなし時間に対応した給料を支払えば良いため、残業代などを考慮する手間が省けます。
さらに、みなし時間を超えて残業を行った場合でも、深夜・休日労働でないならば残業代を支払う必要がないため、経費の削減に繋がると言えます。
労働者側のメリット
短時間労働が可能になる・働き方の自由度が増す
裁量労働制では、企業側の定めた基準に基づくのではなく、労働者自身が自らの裁量で業務を行うことが可能になります。 つまり、短時間で効率的に成果を挙げることで長時間労働と同等の収入を得られるため、労働者の仕事に対するモチベーションが上がることが考えられます。
また、趣味や家族に費やす時間、つまりプライベートにも充分に時間を割くことが可能になることが期待できます。
裁量労働制のデメリット
企業側のデメリット
労働体系の管理が難しい
裁量労働制では各労働者が各自の労働スタイルを確立できるが故に、同じ職場で働く労働者同士であっても労働形態が全く異なる可能性があります。つまり、複数人でミーティングを行うなど、必然的に時間制約が生まれる業務に全員が揃うとは限りません。この場合、結果としてチーム内で統率がとれず、むしろ労働効率が落ちる恐れがあります。
労働者側のデメリット
労働環境がむしろ悪化する恐れがある
裁量労働制では深夜・休日労働以外は残業代は支払われないとされているため、企業側が悪用すると少ない人件費で多くの成果を出させることになりかねません。このような悪例が実際に起きた場合、慢性的な長時間労働と成果に見合った給料の未払いが発生し、労働者の待遇悪化に繋がる恐れがあります。
効率的な労働を促し、労働者が挙げた成果が正当に評価されることを目的としている。
この法律が悪用され、労働環境が悪化する可能性がある。