ミツバチの天敵〜外からの天敵編〜
どんな生態?
秋になるとテレビでよくスズメバチ退治が放送されていますね。スズメバチは肉食なので、ミツバチを捕まえ、肉団子にして自分たちの食べ物としてしまいます。
スズメバチの中でも特にオオスズメバチという蜂は、スズメバチの幼虫のエサにするためにミツバチの巣を襲います。彼女らはミツバチを集団で襲い、巣ごと壊滅させてしまいます(他のスズメバチは外にいる働きバチを一匹ずつ捕まえて食べるのみです)。オオスズメバチはミツバチの巣を見つけると十数匹で攻めに来ます。巣の入り口の前でホバリング(空中に静止すること)をして、ミツバチの隙を見計らいます。そして自分に向かって特攻してきたミツバチを一匹ずつ噛み殺していくのです。セイヨウミツバチはスズメバチに対抗する手段を持っていません。なぜなら、セイヨウミツバチがもともと住んでいた地域にはスズメバチがいなかったため、セイヨウミツバチはスズメバチと戦う方法を知らないのです。放っておくと数匹のオオスズメバチに簡単にセイヨウミツバチの巣が全滅させられてしまいます。
対策
セイヨウミツバチなどの外来昆虫が日本で野生化しないのは、スズメバチの存在が理由だと言われています。どんなに繁栄しているセイヨウミツバチの群もオオスズメバチに襲われると壊滅してしまいます。対策としては、巣箱の入り口をオオスズメバチが入れない大きさにすることです。巣の出入り口の前にオオスズメバチが入れない大きさの囲いを付けている養蜂家もいます。また、巣箱に入ってこられないように穴が開いていないかどうかを定期的に点検することも必要です たとえ、穴が開いていなくても巣箱をかじり、穴をあけて侵入してくることもあるからです。 スズメバチを捕獲するわなを仕掛けることも効果的です。NHK北海道のHPによると、500mlペットボトルに、1.5cm四方の切れ込みを入れて内側に折り曲げ、中にはちみつと水150mlを入れます。これに紐をつけて吊るすとスズメバチが捕獲できます。女王バチが自ら狩りに出かける5月~6月ごろに設置すると、運が良ければ女王バチを捕獲でき、巣を作ることを防げます。ちなみにこの方法は普通の家でもスズメバチ対策として使えます。
ただし、夏になると働きバチが寄ってきてかえって危険なので設置は6月までにすることを推奨します。
玉川大学では市販の粘着性のネズミ捕りを使っていました。巣箱の上にネズミ捕りを乗せ、一匹のスズメバチの死体を張り付けておくだけで数十匹のスズメバチが引っかかるそうです(残念ながらミツバチも引っかかってしまいますが……)。また、バトミントンラケットでスズメバチを仕留めることもできるそうです。玉川大学の佐々木謙教授によると「案外スズメバチは動きが鈍い。テニス部やバトミントン部の素振りの方が素早い。」とおっしゃっていました。しかし、このようなスズメバチ対策をしても多くのミツバチがオオスズメバチに殺されていました。 オオスズメバチとミツバチの戦いは永遠に終わらないのです。
それに対して、ニホンミツバチはセイヨウミツバチとは違い、人間の助けを借りずにオオスズメバチを撃退することができます。二ホンミツバチらはオオスズメバチがやってくると大勢で巣の前に集まってオオスズメバチを威嚇します。オオスズメバチがその中の一匹に攻撃するとそれを合図として大勢のミツバチがオオスズメバチに突撃します。そしてオオスズメバチを囲んで熱殺蜂球を作ります。ミツバチたちが筋肉を震わせて体温を上げると蜂球の温度はどんどん上がります。オオスズメバチの耐えられる温度はミツバチのそれより低いことと、蜂球の中心で空気の循環が起こらず、二酸化炭素濃度が上昇することにより、平均して10分くらいでオオスズメバチは死んでしまいます。蜂球は30分ほど続けられています。 オオスズメバチを撃退することと引き換えに、蜂球に参加したミツバチの寿命は、半分に短くなってしまいます。
つまり、勇敢な働きバチは、自分を犠牲にして巣を守るのです。オオスズメバチからの巣の防衛は働きバチの寿命を短くしてしまい、もし防衛できても何匹かはスズメバチに殺されてしまうので、短期間に何度もスズメバチの襲撃を受けると巣を捨てて逃げてしまうことがあります。ただ、スズメバチはミツバチにとっては恐ろしい敵ですが、多くの虫を捕まえ、日本で外来種の昆虫が野生化することを防いでいます。つまりスズメバチは、農家にとって、害虫を捕まえてくれる益虫なのです。実際に、毒針のないスズメバチを畑に放ち、作物につく虫を取ってもらうという害虫駆除の方法も考案されています。
参考文献
一般社団法人 日本養蜂協会 ホームページhttp://www.beekeeping.or.jp/
越中矢住子『ミツバチは本当に消えたか』 SoftBank Creative、2010年
堀江武『図解でよくわかる 農業の基本』 誠文堂新光社、2015年
久志冨士男 『ニホンミツバチが日本の農業を救う』 高文研、2009年