ドイツ
ドイツは、ヨーロッパ中央部に位置する連邦共和制国家で、アメリカ、中国、日本に次ぐ、世界第4位のGDPを誇る経済大国としても知られます。16年在任したメルケル首相が退任を表明し、次の首相を選ぶ選挙となた2021年の総選挙では、中道左派のドイツ社会民主党(SPD)が、メルケル首相の所属する中道右派、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)に僅差で勝利し、SPDと第3党の緑の党、第4党の自由民主党の3党が連立交渉を行っています。選挙前までは、CDU・CSUとSPDによる大連立政権となっていました。
選挙・政治制度
ドイツの政治制度は、議院内閣制となっており、国家元首として儀礼的・形式的な大統領が存在します。議会は二院制で、国民からの選挙で議員が選出される連邦議会と、各州(ラント)から議員が任免される参議院があります。連邦議会の任期は4年で、選挙権年齢と被選挙権年齢はともに18歳です。大統領は、連邦会議によって選出されます。連邦会議の構成員は、連邦議会議員とその議員数と同数の州議会から比例代表で選ばれた代表です。被選挙権は、連邦議会の選挙権を持つ40歳以上のドイツ国民とされています。任期は5年で、再選は一回までです。
ドイツの連邦議会選挙は、「小選挙区比例代表併用制」を採用しており、一見日本でも採用されている「小選挙区比例代表並立制」と似たような名前ですが、実際の内容は大きく異なります。有権者には、各選挙区の候補者を選ぶ「第1票」と政党を選ぶ「第2票」の2票が与えられています。この票によって、下記の複雑な制度に基づいて議席が確定していきます。
①各州で投じられた第2票が連邦全体で集計され、これに比例して各政党に議席が配分されます。これを上位配分といいます。計算方式は、2009年以降、サン・ラーグ/ジェーパーズ式が用いられています。連邦全体での有効票の5%を得票できず、かつ、小選挙区選挙でも3議席以上を獲得していない政党は、この時点で議席配分を受けられません。これを阻止条項といいます。
各政党が連邦全体で獲得した議席数が確定すると、その政党が州で獲得した第2票の数に応じて、サン・ラーグ/ジェーパーズ式に基づいて各州に獲得議席が配分されます。これによって、各政党がそれぞれの州で獲得する議席数が決定します。これを下位配分といいます。
②各小選挙区で勝利した候補者に議席が割り振られます。
③第2票によって分配された議席数から、小選挙区で当選した候補に与えられた議席数を引いた議席数が、政党が事前に提出する州の候補者名簿の上位順に割り当てられます。
④もし、ある州で①で配分された議席数よりも多い候補者が小選挙区で勝利した場合、超過分は取り消されず、超過議席として小選挙区で勝利した全ての候補者が当選します。そのため、議員数が定数の598を超えて当選するといったことが起こる可能性があります。
2008年までの仕組みは上記の通りです。しかし、この仕組みにおいては、超過議席の存在によって、①で配分した各党の議席の比率が歪められる可能性があり、このことについてドイツの連邦憲法裁判所は2008年および2011年に2度も違憲判決を下していました。そのため、現在では、従来の「超過議席」を維持しながら、最終的な議席数が①で配分した各党の議席比率になるように調整する追加の議席(調整議席)をさらに配分するという仕組みが採用されています。
ドイツの選挙活動では、日本の公職選挙法のように厳しく広範囲な法的規制は存在しません。ただ、投票期間中に投票所内・入口周辺で投票人に影響を与える一切の行為・証明活動や、投票を終えた投票人に投票先を質問し、その結果を公表することは禁されています。選挙ポスターは投票日の6日前から掲示され、日本のような候補者名の連呼はなく、政党の政策中心で集会への勧誘や政策ビラの配布、支持者や党員による戸別訪問などが行われています。供託金制度はなく、それどころか政党に属さないで小選挙区に立候補した候補には、有効な第1票の10%以上を得票している場合、1票につき2.8ユーロの国庫助成金を得ることができます。ただし、選挙区に立候補するにはその選挙区の有権者200人以上の推薦が必要です。
充実した政治教育
ドイツでは、第一次世界大戦敗戦後のヴァイマル共和政時代に、ナチスの暴走を止めることができなかったという経験があり、政党については基本法(ドイツの憲法のような存在)や法律によって規則が作られています。基本法2条では、「自由で民主的な基本秩序を侵害若しくは除去し、又はドイツ連邦共和国の存立を危うくするものは、違憲である」という政党条項があり、違憲かどうかの判断は連邦憲法裁判所が行うものとしています。過去には、ドイツ共産党(KPD)や、ドイツ社会主義帝国党(SRP)が違憲とされ、解散させられています。近年ではネオナチ政党であるドイツ国家民主党(NPD)について、2017年1月17日、連邦憲法裁判所が現段階では未だ政党条項に抵触するに至っていないと判断しました。
こうした状況に対して、1976年全国の著名な政治教育学者がシュトゥットガルト近郊のワイン産地として知られるボイテルスバッハに集まり、政治教育の理念における最低限の合意を目指して議論をし、いわゆるボイテルスバッハ・コンセンサスを発表するに至りました。これは、現在でもドイツでの政治教育における基本三原則とされています。内容の要約は以下の通りです。
①教師の意見が生徒を圧倒してはならない
期待される意見を持って、生徒の意見を圧倒してはならない。これは自らの判断を妨げることにつながり、政治教育ではなく教化である。
②政治的論争のある話題は、論争があるものとして扱う
論争のあるものは論争があるものとして扱わなければならない。多様な視点や別の選択肢は隠されてはならない
③自分の利害・関心に基づいた政治参加能力を獲得させる。
生徒は、自らの利害や関心に基づいて政治的判断をし、どのように意見を反映させられるかについて追求できるようにならなければならない。
上記が、ドイツでの政治教育3原則です。ドイツではこの原則に基づいて、自らが考えた上で、政治や社会に参加できるよう、政治教育が行われています。
ドイツにおいて、政治教育を実施する機関は下図のように大きく4つに分けられます。
その中でも、大きな役割を果たしているのは、連邦政治教育センターです。定期的に刊行物をWebサイトで公開しているほか、学校で使われる教材も作成しています。学校では、他の教科と合わせた複合的な教育が行われており、歴史や宗教/倫理、地学など実社会に関わる様々なことを学ぶことで、政治的な判断を色々な視点から行えるようになります。他の民間政治教育団体の活動では、全ての市民を対象とすることはできないのに対し、学校で政治教育を行うことで、ほぼ全ての市民を対象とできることも学校での政治教育のメリットです。
このような取り組みもあり、ドイツでは投票率が日本に比べて非常に高く、2017年の選挙で76.2%、1972年の選挙においては91.1%を記録しています。また、石油大手シェルが2015年に行った調査では、15歳から25歳の回答者のうち、72%が「選挙に投票することは市民としての義務」と回答しており、「ドイツの民主主義に満足しているか」との質問に対しては、77%が「とても満足」若しくは「満足」と回答しました。
このように、政治教育を充実させるなどし、国民が政治に関心も持つようになっている国もあります。
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