はじめに
救急医療というと、救急車に乗ったりヘリコプターに乗ったりしているのをイメージする人が多いと思います。また、いつもいろいろな現場に行って、忙しくて走り回っているというようなイメージを持つ人もいるかもしれません。救急医療について少し知っているという人ならば、救急医は各科専門医に患者さんを渡す窓口の医師であり、最後まで患者さんを見ない、といった誤ったイメージを持っている人がいるかも知れません。実はそんなことはありません。救急医のやりがいの1つとして「重症患者さんの命を救うため、初期治療から集中治療、そして退院まで自分たちで決めた一貫した治療を行うことが出来る」という点があるそうです。
皆さんもこのような救急医療について学んでみましょう!
救急医療
交通事故による外傷、狭心症や急性心筋梗塞による心肺停止、アナフィラキシーなど、予期せず発生したけがや病気に対応する医療全般のことを指しています。救急医療の実施には、救急指定病院が必要です。
狭心症 ・・・心臓の筋肉自体に酸素や栄養を供給する冠動脈の内側にコレステロールがたまり、血管が狭くなることで血液の流れが悪くなり、心臓に十分な酸素を供給できなくなる病気。締め付けられるような胸の痛みを感じることが多く、人によっては喉や頬、左肩の痛みを感じることもあります。
急性心筋梗塞・・・急激に血管がプラーク(コレステロールが蓄積してできた血管のコブ)や血栓などでつまり、冠動脈内の血液がなくなってしまい、心筋に栄養と酸素が十分に届かず、心筋そのものが壊死した状態になってしまうこと
アナフィラキシー・・・アレルギー反応でも特に重篤な状態で、アレルゲンなどの侵入により皮膚、呼吸器、消化器、循環器、神経などに全身性にアレルギー症状があらわれて生命に危機を与え得る過敏反応のこと
救急指定病院
救急指定病院は「救急病院」、「救急告示病院」とも呼ばれています。
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①救急医療についての相当の知識および経験を有する医師が常時診療に従事している
②X線装置、心電計、輸血および輸液のための設備、その他救急医療を行うために必要な施設および設備を有する
③救急隊による傷病者の輸送に容易な場所に所在し、かつ、傷病者の搬入に適した構造設備を有する
④救急医療を要する傷病者のための専用病床、または、当該傷病者のために優先的に使用される病床を有する
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この4つの指定条件を満たす、都道府県知事が告示し、指定した病院のことを救急指定病院と言います。
つまり、救急指定病院は一刻を争う事態の患者を受け入れ、「常に必要な治療をする設備や体制が常に整っている環境」だと都道府県知事のお墨付きをもらっているといえます。
救急医療体制
救急医療病院は一次救急医療機関、二次救急医療機関、三次救急医療機関の3つに分けられ、後ろに進むほどより高度な診療機能を有しています。このような区分けをすることで、重症度や緊急性に応じた効率的な医療提供が可能になっていると考えられます。
救急車で搬送する場合
→救急隊員判断のもと、適切な治療と思われる医療機関に、受け入れ要請をしています。
自力で動ける or 同伴者の付き添いがあって医療機関を受診した場合
→医師が診察した上で対応、あるいは適切と判断された医療機関へ取り次ぎをしています。
3段階の救急医療体制
初期(一次)救急医療機関
自力で通院できて、入院や手術が不要の、外来で診療可能な患者を受け入れ&対応する医療機関です。夜間や休日・祝日など、医療機関が診療していないときに市が運営をしていて診療を行う、「休日夜間急患センター」、「救急(休日)歯科診療室」、地域の在宅当番医制に参加する診療所が対応しています。 在宅当番医制・・・当番医院を決めて休日に救急患者の対応をする制度
二次救急医療機関
自力で医療機関を受診できず、救急車で運ばれてきた患者を受け入れ、初期対応を行い状況に応じて、自施設で可能な範囲で手術や入院治療を実施する機関です。必要に応じて三次救急医療機関に紹介する役割も担っています。二次救急医療機関は各都道府県が進める医療計画に基づいて都道府県知事が告示・指定をしています。☆二次救急は同一地域内の救急指定病院と共同で病院群輪番制や協力病院当番制をすることで救急対応を行なうのが特徴です。
病院群輪番制・・・救急車で直接搬送されてくる、またはかかりつけの診療所など初期救急医療機関から転送されてくる重症救急患者に対応するための医療機関を整備している制度
協力病院・・・病院と老人ホーム、病院同士、または病院と診療所などと協力契約を結んだり、お互いの互助関係になる病院のこともいう。
三次救急医療機関
一次救急医療機関や二次救急医療機関で対応できない重篤患者や、特殊疾患患者を受け入れています。救急医療センターと、その中でも特に高度な診療機能と設備を備えている高度救命救急センターが三次救急を請け負っています。特に高度救命救急センターは厚生労働大臣が告示・指定するもので、交通事故による怪我が全身に及んでいる、全身熱傷、四肢切断、急性中毒などの患者を受け入れています。一部では「最後の砦」と言われていて、生命の危機にある患者をいつでも受け入れられるように、救急医療を専門としている医師や看護師などが24時間体制で働いています。また、三次救急医療機関は、医療従事者が救急医療を実践的に学ぶ教育機関としての役割を担っています。救急医療の現状
厚生労働省のデータによると全国の救急医療センターの数について、平成18年は189箇所、平成24年は249箇所、平成30年では291箇所と年々増加しているが、二次救急医療機関は平成18年は3214箇所、平成24年は3259箇所、平成30年では2851箇所とほぼ横ばい、または減少傾向にあります。二次救急医療機関は救急搬送の受け入れが集中する病院とそうでない病院に二極化しており、人口密度が高くなるほど患者の受け入れが多い傾向にあると考えられます。
新型コロナウイルスによる院内感染が発生すると、医療機関の診療機能はストップせざるをえなくなり、周辺の医療機関への負担が増えるでしょう。それにより、地域における救急医療体制に与える影響は少なくないと考えられます。
⇧図1(厚生労働省より引用)⇧
⇧図2(厚生労働省より引用)⇧
救急医療の課題
現在の救急医療制度は、超高齢社会が進む現状にはそぐわないシステムではないかと疑問視する声があがっています。また、拘束時間の長さと業務に対する責任の重さに対して、賃金が見合わないという意見も出てきています。もちろん働き方改革の波は病院にも届いているため、後者は改善に向かうのではないかと考えられます。
しかし、救急医療体制そのものと現場で働く医療従事者の待遇改善は、今後さらなる変化が必要だと考えられます。
