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各章の考察

■五章

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 ■背景描写のこまやかさ


背景描写のこまやかさ

 黒い丘にたどり着いたジョバンニは、気づくと銀河鉄道に乗っていた。黒い丘ではジョバンニが生活する町(三次空間)から銀河鉄道の世界(幻想第四次)への移行が自然に行われている。それは賢治の巧みな描写によるものであろう。
 この章は北の大熊星を目にするところから始まる。彼の周囲は丘も空も黒に覆われ、その中にある草花や星空が引き立っている。「まっくらな草や、いろいろな形に見えるやぶのしげみの間を、その小さなみちが、一すじ白く星あかりに照らしだされてあった」という光景は黒い銀河に輝く白い天の川を連想することができる。また、青く光る小さな虫や葉をジョバンニは「烏瓜のあかりのようだ」と思う。ちなみに、銀河鉄道の旅の途中では三角標のあかりも青白く光っている。
 町の明かりは海の底のお宮のけしきのように見え、子供らの歌う声などはかすかに聞こえるばかりである。黒い丘は町から離れた場所にあり、ジョバンニの意識の中からだんだんと町の様子は遠いものになっていく。そしてジョバンニは汽車の音を聞き、列車の中の様子を想像し、夜空を見上げる。彼の意識は生活している世界から離れ、銀河の世界に引き込まれていくのである。
丘についた時は北の大熊星や天の川を目にし、丘を後にする時(九章)は天の川と蠍の赤い星を目にしていることから、黒い丘では、ジョバンニにとっての、銀河鉄道の旅の始まりと終わりが背景描写によっても示されていることがわかる。
賢治は、他にも物語の細部にこまやかなメッセージを残しているだろう。探ってみてはどうだろうか。

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