2-6. 摩擦力(2)
先生 さて。
最大摩擦力を超えた力を受けて物体が滑り出した、面と接触しながら動いている物体が、
面から受ける力を『動摩擦力』と呼んでいるんだ。
一弥 動いていても摩擦は掛かるんですか?
先生 もちろん。物体を床に引きずって動かしたら擦るでしょ。その力を『動摩擦力』というんだ。
柚莉亜 それが、引きずりにくさに関わってくるってことなんですよね?
先生 そうだね、動摩擦力が大きいとすぐ止まってしまう。動摩擦力は進行方向と逆向きにはたらく力だからね。
先生 静止摩擦力は滑らせようとする力と同じ大きさだったけれど、動摩擦力はどうかな?
柚莉亜 これも同じじゃないかなぁ?
先生 じゃ、滑らせようとする力が0だったら動摩擦力は0になる?
柚莉亜 滑らせようとする力がないってことは、動いていないということだから、摩擦は掛からないですよね?
先生 さて、君は『滑らせようとする力がない』ということを勘違いしているようだ。
先生 物体が力を受けない、もしくは受けている力が釣り合っていると、物体はどうなるんだったかな?慣性のところで学んだよね?
柚莉亜 静止?
一弥 いや、確か『等速直線運動』でした。
『静止』と『等速直線運動』は、本質的には変わらないはずですから……。
先生 そのとおり。
先生 では。もし、力が働かないで等速直線運動している物体の下に、いきなりざらざらした摩擦のある床が現れたら?
カーリングの競技場に、砂を撒いた時を想像してみよう。
一弥 摩擦力が大きくなるから、物体の速度は低下し、いずれは停止するはずです。
……我々の眼から見た場合。
先生 そう言うこと。もともと前進させようとする力が働いていない状態でも、動摩擦力は働くんだ。
つまり、『引っ張っていないと動摩擦力だけが働いて止まる』ということが起こる。
動摩擦力は引っ張っているか否かに関係がないんだ。
柚莉亜 そっかぁ。
先生 そして、いろいろ実験された結果なんだけれど……。
最大摩擦力のときと同じように、垂直抗力に比例して、接触面積には無関係だとわかっているんだ。
一弥 なるほど。
先生 そして、これもまた接触面の状態によっても変わる。
先生 さて、さっきの最大摩擦力のときは、それで検証する事柄が全部だったけれど、
動摩擦力のときにはもう一つ、物体と面との間に関係することがあるね。さて、何だと思う?
柚莉亜 運動の向き?
先生 うーん、向きかぁ……。
じゃあここでは、物体の底面と床の面はそれぞれ一様なものだということにしておいて。そうすれば向きは関係ないよね。
柚莉亜 じゃ、運動の速さ?
先生 そう、二つの面の間の速さの関係は、動摩擦力にどう関係するのか検証しなくてはだめだね。
それでは、次の問題を考えてみてね。
QUESTION

動摩擦力と運動の速さの関係は?

(1)関係ない

(2)早いほど運動摩擦力は速さに比例する……つまり、物体が速くこすれるほど強くこすれる

(3)逆に、運動摩擦力は速さに反比例する……つまり、物体が遅くこすれるほど強くこすれる

柚莉亜 わたしは(2)だと思う……
一弥 では、僕も同じで。
先生 それでは、実験してみようか?
先生 まず、机に手を置く。そして横に往復させる。
そのとき、「下に押す力は変えないで」速さだけ変えてみよう。手のこすれ具合はいかが?
柚莉亜 よくわからない。
先生 うん、先生も違いはよくわかんないなぁ。
先生 実は、よくわかんないってことはつまり、ほとんど違いがないってことなんだ。よって結局答えは(1)。
つまり、動摩擦力は速さに関係ない。
先生 精密な実験をしてみても、速さと動摩擦力は関係ないことがわかっているんだ。
先生 さて、これらのことから、最大摩擦力のときのように、
『動摩擦力は接触面の状態によって変わるが、垂直抗力に比例する』と言えるね。
先生 最大摩擦力のときのように式に表してみようか。
先生 比例の式なので、さっきのように比例定数が必要だね。
その比例定数を『動摩擦係数』と呼んでいて、これも接触面の状態によって決まるんだよ。
先生 それをさっきと同じ文字を用いて『μ′』(ミューダッシュ)と置くと、 (動摩擦力)=μ′*N(垂直抗力) と表されるね。
柚莉亜 ′(ダッシュ)が、静止摩擦力で学んだ、「最大摩擦力」と区別している記号になるわけですね。
先生 そういうこと。
柚莉亜 だから、本質的にはあまり変わらないの?
先生 そうだね。2つの接触面の状態で決まる定数であることは一緒かな。ただ、その大きさが違うんだ。

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