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各章の考察

■四章


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 ■ジョバンニと生徒たち


ジョバンニと生徒たち


 帰宅早々母親に話し掛け、活版所や牛乳屋では礼儀正しくあいさつをするジョバンニ。しかし、生徒たちの前になると、ほとんどはなすことができないでいる。
町でザネリとすれちがった時は「ザネリ、烏瓜ながしに行くの。」と云ってしまわないうちに、先にザネリに「ジョバンニ、お父さんから、らっこの上着が来るよ。」と叫ばれてしまう。「何だい。ザネリ。」と叫び返す言葉もザネリの耳には届かない。
 次に六七人の生徒らに会った時は、逃げることもできたが、そうせずに彼らのほうへ歩いていく。しかし、この時も「川へ行くの。」と、云おうとするが、少しのどが詰まったように思った時に先にザネリに「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」と叫ばれてしまうのである。続いて他の生徒に叫ばれたジョバンニはまっ赤になって、言い返すことなどできなくなってしまう。ジョバンニは、云いたいことはあっても、生徒たちの前では云うことができないのである。
 なぜ口を開けないのか。その原因はジョバンニが生徒たちのからかいの的となっているためであろう。生徒たちは、ジョバンニに会うたびに「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」と冷やかすように云う。らっこの上着とは北の方へ漁に出ているジョバンニのお父さんがもって帰ってくるといわれているものである。
ジョバンニは母親と父親の話をした時、「お父さんが監獄へ入るようなそんな悪いことをした筈がないんだ。」と強く主張した(三章)。それは、母親が、「ああだけどねえ、お父さんは漁へ出ていないかもしれない。」と含みのある云いかたをしたためであった。北の漁と、監獄という場所。この物語を読む限りではお父さんがどこにいるのか、はっきりとはわからない。しかし、ジョバンニや母親が監獄という言葉を頭に置いているのは事実である。このことを生徒たちもなんらかのかたちで耳にしているからこそ、「らっこの上着が来るよ。」という冷やかしの言葉が生まれたのだろう。
ジョバンニがはっきりと言い返すことができないのは、みんなとの距離ができてしまっていることに加え、お父さんのことが関係しているためだといえる。

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