過労死

近年、過度な長時間労働などによる「過労死」が社会問題となっています。そこで、過労死等の防止策を推進し、過労死等がなく充実して働き続けることのできる社会の実現を目的として、2013年(2014年)11月に「過労死等防止対策推進法」が施行されました。

「過労死」とは、過労死等防止対策推進法第二条において

業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害をいう。

と定められています。一般的には過重労働による脳疾患心不全などの体調の急変に伴う突然死や過労に起因するうつ病などを指し、「KAROSHI」という表記で世界的に知られるようになっています。

過労死ライン

過労死ラインとは過度な労働により健康障害が生じた場合、労働環境との因果関係を認められ労働災害と認定されるか否かを判断するために設けられた、時間外労働時間の目安となる時間(80時間)を指します。この時間は、心・脳疾患を発症する前の2~6ヵ月間で月平均80時間を超える時間外労働を行っている場合に労働環境との因果関係が認められやすいということを表します。

また、発症1ヵ月前に100時間を超える時間外および休日労働が認められた場合でも、心・脳疾患発症との関連が強いと考えられています。

一般的には、6ヵ月間の平均で月45時間を超える時間外労働を行った場合に労働環境と健康障害の関連性は強まる傾向にあり、さらに時間外労働時間が長くなるにつれて因果関係は強まっていくとされています。

また、うつ病などの精神障害の場合は、発症1ヵ月前に160時間、3週間前に120時間を超える時間外労働があれば労働災害と認定される可能性が高くなります。さらに、上述した基準を満たしていなくても、パワハラ・転勤・2週間以上の連続勤務などの精神的苦痛となる要因が存在すれば過労死との関連性が高いとされます。

過労死に至る要因

まず、責任感の強い人は「自分が働かないと周囲に迷惑をかけてしまう」「もっと働いて会社に貢献しなければ」などと考え、心身の限界を超えるまで働いてしまう傾向にあるとされます。

また、過労によってうつ病を発症すると正常な判断力が失われてしまい、現状に違和感を覚えたとしても仕事を辞めるという選択ができないことがあるとされています。鬱が進行すると自殺願望(自殺念慮)が症状として表れる場合も多いとされています。

さらに、裁量労働制などの長時間労働の温床となりかねない制度を会社側がみだりに導入すると、長時間労働が正当化され過労状態に陥る恐れがあります。

心疾患

心疾患は心臓に異常をきたすことを指し、特に過労死した人々では心筋梗塞・虚血性心疾患などが死因となった場合がよく見られます。前兆として、

などが挙げられます。

脳疾患

脳疾患は脳内の血管に異常をきたすことを指し、最悪の場合死に至ることも多い病気です。通称「脳卒中」と呼ばれ、くも膜下出血・脳梗塞などに代表されます。 前兆として、

などが挙げられます。

精神障害

精神障害は過重労働や過労によるストレスで精神を患うことを指し、うつ病などが該当します。精神的なストレスで自殺に至ってしまったケースの一部でも過労死と認定される場合がありますが、過労以外の原因が存在した可能性もあるため一概に「過労死」と括ることは難しいとされます。前兆として、

などが挙げられます。

この他にも、過労による睡眠不足に起因する勤務中・通勤中の居眠り運転、入浴中の溺死など一見過労とは無関係と思われる事故も、根本的には過重労働が原因として過労死認定されることがあります。

過労死の防止策

まず、上述したような過労死の前兆が見られた場合は直ちに病院で診察を受けることが必要不可欠となります。心疾患の前兆は循環器内科、脳疾患は神経内科、精神障害は心療内科で診察を受けることができます。

また、労働環境の改善に努め不必要な長時間労働を是正することが重要です。しかし、労働環境の改善は時間を要することもあるため、早急に会社を辞めることも選択肢として考慮することが推奨されます。先述した過労死ラインなどを満たしていた場合、労災認定され傷病補償年金を受け取ることも可能です。

まとめ

過労死ラインとは過度な労働により健康障害が生じた場合、労働環境との因果関係を認められ労働災害と認定されるか否かを判断するために設けられた、時間外労働時間の目安となる時間(80時間)を指す。
過労死ラインなどを満たしていた場合、労災認定され傷病補償年金を受け取ることも可能。
過労死の防止のためには、労働環境の改善に努め不必要な長時間労働を是正することが重要。