ワクチン
ワクチンとは
生き物が持つ免疫機能を利用して、感染症に対する免疫を人為的に獲得させるための医薬品のことで、特に抗生物質(細菌などの微生物の成長を阻止する物質)の効かない感染症に対して効果があります。
人間は、実際にウイルスや細菌などの病原体が体内に入ると免疫を獲得することができますが、それではそれぞれの病気に対して症状を伴ってしまいます。
しかしワクチンは、病原性(=病原体の病気を発症させる能力)のみを弱くして、生体が病原体を認識する部分(=抗原)だけを持っているものなので、これを体内に入れることで、大きな症状を伴うことなく免疫を獲得することができるのです。
これを利用し、感染症にかかる前にワクチンをあらかじめ接種することを予防接種といいます。その方法としては、経口投与・皮内接種・皮下接種・筋肉内接種などがあります。
ワクチンの名前の由来
ワクチンという名前は、ラテン語で雌牛を意味する単語「vacca」に由来すると言われています。
これは、世界で初めて作られたワクチンである天然痘に対するワクチンが、雌牛から得られたためです。
(世界で最初のワクチンについての詳細は、「免疫について」の「免疫×歴史」の記事を参照してください。)
ワクチンの種類
ワクチンは、生ワクチン、不活性ワクチン、トキソイドの3つのタイプが主に使われています。
生ワクチンは、病原体は生かしたまま病原性を弱めたもので、効果が早期に現れ、長期間有効なワクチンです。
不活性ワクチンは、病原性を無くした細菌やウイルスの一部を使うもので、感染症にかかるリスクがないワクチンです。
トキソイドは、病原体が出す毒素の毒性を無くし、生き物が免疫を作るための能力を持つワクチンです。
それぞれのワクチン
それぞれの感染症に対するワクチンは、「ワクチンの種類」で紹介した3種類に分けられます。
・生ワクチンに分類されるもの
麻疹(はしか)、風疹、水痘(水ぼうそう)、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、BCG(結核)など
これらは、接種後の軽い発熱や発疹を伴う可能性があるため、免疫力が低下している免疫不全の患者や、妊婦は接種しません。
・不活性ワクチンに分類されるもの
B型肝炎、インフルエンザ、日本脳炎、子宮頸癌など
これらは、免疫不全の患者にも摂取が可能ですが、持続性が弱いため、複数回の接種が必要です。
・トキソイドに分類されるもの
破傷風、ジフテリアなど
トキソイドは、細菌が作る毒素が病原性の本質である場合に用いられるワクチンです。
接種すべきワクチン
麻疹や風疹といったA類疾病に分類される予防接種は、定期接種と言われ、誰もが受けるべき予防接種であると法律で推奨されています。ワクチンの接種によって、大人になってかかると重症化しやすかったり、胎児に影響が出やすかったりする感染症の重症化を抑えることができるため、とても大切なことです。
住んでいる自治体によっては補助金が受けられる場合があるため、受ける際は自治体のホームページをチェックしましょう。
ワクチンの限界
ワクチンを接種した、すべての人に確実に免疫がつくとは限りません。
実際に血液を調べてみると、小さい頃に接種したはずなのに、今の自分の体には免疫があまりついていなかった!という例も多く見られます。
実際の例を見てみましょう。まずは、次の二つの表を見てみましょう。
この表は、血液検査をしてわかった免疫のつき具合を表しています。それぞれの病気の下のEIA価の値が大きいほどよく抗体がついていることを表しています。
〇状況
被験者のAさんとBさんは共に大学生で、幼い時に 水疱瘡−水痘帯状ヘルペス-おたふく風邪-ムンプス のワクチンを接種済みです。
Aさんは水疱瘡に感染したことがありますが、Bさんは感染したことがありません。
Aさん、Bさんともに、おたふく風邪には感染したことがありません。
〇分析
Aさんの方が、明らかにBさんよりも水疱瘡に関する免疫を保持していることがわかります。一方、おたふく風邪に関しては水疱瘡ほどの差はありません。
次の表を見てみましょう。
〇状況
Aさん、Bさん共に、少ない値を示した感染症に対する免疫のワクチンを、追加で接種しました。
〇分析
Bさんの水疱瘡の免疫の値が、Aさんほどではないものの以前より高くなっています。
また、おたふく風邪に関する数値も、2人とも以前より増えていることがわかります。
〇二つのデータの分析とまとめ
一度かかったことのある感染症の免疫は、しっかりとついていました。しかし、もし十分に免疫がついていなくても、ワクチンの接種によってその値を高めることは可能です。
調べたところ、もちろん個人差はあるらしく、一度の接種で抗体がつく人や、何度打ってもなかなかつかない人もいるようです。
そのような背景も含めて、血液検査を通して、自分にしっかりと抗体がついているのかを調べてみることも大切だと言えます。
※表のデータは、被験者の両人に趣旨を説明した上で許諾をもらい、個人情報に十分配慮をして掲載しています。