伊藤忠商事さんへインタビュー


行った働き方改革について教えてください


大きく分けて、5つあります。

①朝型勤務

伊藤忠商事での勤務時間のグラフ 夜8時以降の残業を原則禁止とし、その代わり、朝9時までの勤務において、残業同様、賃金を25%割増とすることで、脱残業体質を図っています。また、朝食を配布しており、伊藤忠商事の子会社であるファミリーマートを中心とした商品を、無料で3つもらうことができます。おにぎりなどでそれを朝食とする人や、朝食は自宅で食べて、ジュースだけもらう人など、利用の仕方はさまざまで、社員の半分程度が利用しています。

②脱スーツデー

夏は毎日、冬は月曜日以外が、脱スーツデーにあたります。服装から柔軟性を取り入れて発想力を高め、セルフブランディング力を高めることで、人対人のビジネスにも通じる考え方を得ることを目標としています。また、セルフカラー診断や、伊勢丹協力によるスタイリング企画の導入といったことも行なっています。

③110運動

今はコロナ禍により、そもそも会が開かれることがないのですが、会食や飲み会は、1次会かつ夜10時までに終了するように定めています。お酒をたくさん飲むことはトラブルに繋がりかねませんし、次の日の仕事にも影響が出るためです。

④がんとの両立支援制度

たとえば、45歳以上の社員には検査を受けてもらったり、もしがんに罹ってしまった場合、保険適応外の治療の支援を行ったり、もしがんで社員が亡くなってしまった場合、大学までその社員の子どもの金銭の援助を行ったりしています。このように、予防・治療・共生のどの面においても、支援制度が充実しています。

⑤育児両立支援制度

伊藤忠商事では、法律で定められた基準を上回る制度を用意しています。たとえば、短時間勤務制度は、法律では満3歳までとなっていますが、伊藤忠商事では、小学校卒業まで所得可能です。やはり小学校低学年の子どもはまだ手がかかるということで、こういった期間設定となりました。男性の育児休業所得率も57%にのぼり、全国民間平均の6.16%を大きく上回っています。さらに、仕事に集中できる環境づくりを目指して、東京本社のすぐそばに、社員用託児所「I-Kids」をつくりました。

働き方改革を進めようと思ったきっかけ・理由を教えてください


働き方改革で目指すのは、「厳しくとも働きがいのある会社」となることです。
伊藤忠商事は、他の商社と比べると社員が1000〜2000人ほど少ないため、一人当たりの負荷が大きくなっており、効率よく働く必要があります。
その分、お給料の面でも還元していますが、ただ厳しいだけではなく、生き生きと健康で幸せに働いてもらうため、働きやすい環境を提供するという面でも還元するために、働き方改革を行なっているのです。

働き方改革を進めてよかったことを教えてください


働き方改革を行うことで、労働生産性がとても上がりました。働き方改革を行う前に比べ、約3倍に上がっています。さまざまな施策を通して、社員に、社員を大切にしていることが伝わったことが、労働生産性の上昇に繋がったのかなと思います。
また、仕事が終了した8時以降の時間で、英会話スクールやトレーニングといった、自己研鑽の時間を取れるようになりました。

働き方改革を進めるにあたって大変だったことを教えてください


朝型勤務の導入には、抵抗のある社員が多かったです。
伊藤忠商事では、朝型勤務を導入するまでは、10時〜15時をコアタイムとするフレックスタイム制を採っていました。しかし、そうすると、9時頃にお客様からお問い合わせを受けたとき、担当者がいないということが発生し得るのです。
こういったことから、朝型勤務を導入することになったのですが、社員が慣れるまでに、半年ほど掛かりました。 一気に起床時間が早くなりますし、また、生活残業という言葉があるように、20時に帰ることに抵抗を持つ社員が多かったからです。
やはり厳しさはあったと思いますが、間違いなく効率は上がりましたし、残業同様の手当も付けているので、だんだん得だと感じるようになった
のだと思います。

働き方改革において、コロナ禍による影響はありましたか?


コロナウイルスの流行によって、90%の社員が在宅勤務となりました。これによって困るのが、声かけができないため、残業を阻止できないということです。20時以降は原則禁止であるため、20時を超えて労働する社員はほぼいませんが、もともと18時までだった社員が19時まで、といったふうに、増加することになってしまいました。
ですが、在宅勤務も、一概に悪いとは言えません。バランスを取ることで、活かしていくことはできると思います。

この職業の今後について、思うことを教えてください


たとえばコストコのような、仕入れなどを自分で行ってしまうといったことが進んでいくと思われるので、トレーディングは減っていくだろうと思います。
ですが、事業投資は続いて行われると思います。そのため、これからは、投資の際に吟味するための、目利きの力が大切になってくるでしょう。
また、何らかの産業が衰えてしまうとき、他の何らかの産業は伸びているものです。総合商社は、全産業を相手にしているため、そういった場合は伸びている産業に力を入れ、どんどん作り変わっていくことで、長年必要とされてきました。今後もそうして必要とされるのだと思います。

よりよい働き方に向けて、提案やお考えがありましたら教えてください


今日、働きやすくなっている企業は、かなり増えていると思います。ただ、働くことが楽になることで、働くことが面白くなくなるようなことがあってはいけないと思います。その仕事で自分が幸せになれるのか、ノウハウが貯まるのかなど、仕事を決めるにあたって、働きやすさだけではなく、働きがいといった視点も持ってほしいです。
また、今日の日本では、終身雇用がベースとなっていますが、何十年も経てば、やりたいことも変わってくるはずです。そのため、自分の働き方などを見直すことができる仕組みが必要だと思います。もちろん、兼業といった働き方もあると思います。 「よりよい働き方」とは、誰にとってよりよいのでしょうか。人によって違うのではないかと思います。

まとめ

・働き方改革で目指すのは、「厳しくとも働きがいのある会社」となることで、実際、労働生産性が約3倍に上がっている
・これからの総合商社では、トレーディングの際の目利きの力が大切
・仕事を決めるとき、働きやすさだけでなく、働きがいといった視点も持ってほしいし、その視点は、仕事に就いてからも、定期的に意識してほしい

働き方改革

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