プロローグ
おめでとうございます
その文字が表示された瞬間、気が遠くなるかと思った。
画面には八個のゼロ。間違いない。
五億だ。
大みそかに悪酒で酔っぱらった大学の同級生とノリで買った一枚の宝くじ。当たるわけがないと苦笑いしながらも、確認の日をこの一週間なんとなく心待ちにしていた。様々な欲望が胸を駆け巡る。
ほしかった腕時計を買おうか。仕事を辞めても生きていける、これであの嫌味な上司ともおさらばだ。
うおおっと思わず腹の底から声が出て、友達に急いで連絡しようと思い、そこではたと手が止まる。いつか見たテレビの特集を思い出す。汗ばむ指でスマホを触り、ブラウザを開いてこう打ち込んだ。
「高額当選」
出るわ出るわ、すべてを失った人々が。金遣いが荒くなり、あっという間にすべてを使い果たした人。知り合いや恋人が金目当てにやってきて何も信じられなくなった人。中には、本人は何も言わなかったにもかかわらず、退職によってバレた人もいる。
なんだ、と全身から力が抜けて、ずるずるとソファーになだれ込んだ。これじゃ五億もないのと同然だ。金を使う代わりに暮らしをなくすだけだ。
だが、俺の今後の人生でこんな大金を手にする機会は二度とないだろう。使わずにいられるか?
そうだ。せっかくだからこの金を元手にひと暴れしてやるのだ。どうせたまたま手にしただけなんだから、なくなってしまっても一緒だ。つまらない人生に風穴を開ける、これはそのチャンスなのだ。
俺は光る画面に顔をより近づけ、深まっていく夜を尻目に案をリストアップしていった……
「五億、使ってみた。」