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賢治は多彩な知識の持ち主です。
彼の幅広い分野にわたる知識が、物語をささえているのです。
こちらでは、脇役として物語を支えている動植物・鉱物の語彙を集めました。
葦 / アスパラガス / いちい / 銀杏 / 烏瓜 / 河原ナデシコ / かわらはこぐさ
雁 /
桔梗 / 菊 / 孔雀 / くるみ / 月長石 / ケール / 黒曜石 / 金剛石 / 鷺
桜 / 鮭 / サファイア / 水晶 / すすき / 砂 / つりがね草 / 鶴 / とうもろこし
トマト/
鳥 / 楢 / 野茨 / 白鳥 / 檜 / ひば / プラタヌスの木 / ポプラの木 /
ボス
鱒 / 松 / もみの木 / 栗鼠 / リチウム / りんどう / ルビー / 礫
あし[葦] 【植物】 天気輪の柱
イネ科の多年草。水辺に生える。春に角のような目を出す。育つと2〜3mほどの長さになる。
ジョバンニは黒い丘の上で、青い琴の星が、三つにも四つにもなって、ちらちら瞬き、脚が何べんも出たり引っ込んだりして、とうとう蕈のように長く延びるのを見た。
アスパラガス 【植物】 家 ケンタウル祭の夜
ヨーロッパ産のユリ科の植物。観葉種と食用種の二種類がある。ジョバンニの家にケールと一緒に植えてあるものは食用種、時計屋にある黒い星座早見を飾る葉は観葉種のアスパラガスのものである。
(家 ・ ケール ・ 時計屋 ・ 星座早見)
いちい 【植物】 活版所
イチイ科の常緑樹。とがった針葉を持つ。樹皮は赤褐色、赤い実をつける。実は甘く、食べることができる。ケンタウル祭の時には、いちいの葉を玉状に編んで作ったものを家に飾る。
いちょう[銀杏] 【植物】 北十字とプリオシン海岸
イチョウ科の落葉高木。高さ30mになる。白鳥の停車場の前の広場に植っている。「水晶細工のように見える銀杏の木に囲まれた、小さな広場。」等の描写がある。
からすうり[烏瓜] 【植物】 活版所 家 ケンタウル祭の夜 ジョバン二の切符
ウリ科のつる草。花は白く、秋には赤い実をつける。実の中をくりぬき、ろうそくを入れると、青いあかりとなる。ケンタウル祭のときには烏瓜の青いあかりを川に流す。
(ケンタウル祭)
かわらなでしこ[河原ナデシコ] 【植物】 ジョバン二の切符
ナデシコ科。ピンク色の花。5枚の花びらを持つ。花びらの先は細かく裂けている。
かわらははこぐさ 【植物】 鳥を捕る人
黄いろと青じろの、うつくしい燐光を出す。鳥捕りはかわらははこぐさの上に、両足をかっきり六十度に開いて立って、鷺のちぢめて降りて来る黒い脚を両手で片っ端から押えて、布の袋の中に入れた。
がん[雁] 【鳥】 鳥を捕る人
ガンカモ科の鳥。カモ類に比べて大型。鳥捕りが捕まえて売る鳥の一種。黄と青じろとまだらの鳥。
鷺よりも売れる。雁の方がずっと柄がよく、手数(手間)がないため。
まるでチョコレートのよう。味はチョコレートよりおいしいらしい。
古来、人の魂を運ぶ鳥とされ、『伊勢物語』をはじめ古典にも多く登場する。(参考:宮澤賢治語彙辞典154p)
ききょう[桔梗] 【植物】 鳥を捕る人 ジョバンニの切符
キキョウ科の多年草。物語の中では桔梗いろの空、という風に空の色の描写に用いられている。夏から秋にかけて青紫色の釣鐘状の花をつける。秋の七草の一つ。
きく[菊] 【植物】 天気輪の柱
キク科。秋になると、茎の先端に種々の色の花をつける。黒い丘に咲いている。
くじゃく[孔雀] 【鳥】 ジョバン二の切符
青じろく時々光ってはねをひろげたりとじたりする。ハープのような鳴き声。
くるみ 【植物】【賢治の思い出】 北十字とプリオシン海岸 ジョバン二の切符
くるみの化石。プリオシン海岸の白い岩の中から発掘される。百二十万年ぐらい前のもの。
プリオシン海岸が、昔海岸であったことを証明するもの。ほかに貝がらやボスなどが発掘される賢治の世界観には時空の永遠性といった考え方があり、天の川(宇宙)は空間の、くるみの化石は時間の永遠性を表現したと考えられる。(参考:宮澤賢治語彙辞典617p)
(ボス)
げっちょうせき[月長石] 【鉱物】 銀河ステーション
車窓の外に広がる紫色のりんどうの花を、「月長石ででも刻まれたような」と形容する場面がある。ムーンストーン。正長石系の宝石。半透明乳白色で薄青色の輝きを放つ。紫のりんどうの描写に用いられ、これは天の川の星雲光によって朧ろになった様子を表現したものと思われる。(参考:宮澤賢治語彙辞典223p)
ケール 【植物】【食べ物】 家
ナタネ科。キャベツの一種。牡丹の葉に似ているため、葉牡丹ともいう。ジョバンニの家では、空き箱に、アスパラガスと共に植えてある。
(家 ・ アスパラガス)
こくようせき[黒曜石] 【鉱物】 銀河ステーション
銀河鉄道の地図の材料。夜のようにまっくらな盤であった。
溶岩の急激な冷却によって結晶できずに生じた天然ガラスの一種。
こんごうせき[金剛石] 【鉱物】【賢治の思い出】 銀河ステーション 北十字とプリオシン海岸
ダイヤモンド。4月の誕生石。和名の金剛石の名は仏典の「金剛不壊」(何者にも侵されない硬さ)に由来する。ジョバンニが目の前がぱっと明るくなったときに使った例えの一つ。「・・金剛石を、誰かがいきなりひっくりかえして、ばら撒いたという風に、眼の前がさあっと明るくなって・・」(銀河ステーション)また、光り輝く様子をあらわす時にも用いられる。「金剛石や草の露やあらゆる立派さをあつめたような、きらびやかな銀河の河床の上を水は声もなくかたちもなく流れ・・」(北十字とプリオシン海岸)
銀河鉄道の夜では盛んに天の川の川床の砂粒の表現に用いられるが、これは天の川が極めて遠い星々の帯のために、薄い白色に見えるためである。この描写中に「ダイアモンド会社で、ねだんがやすくならないために、わざと獲れないふりをして、かくして置いた金剛石を、誰かがいきなりひっくりかえして、ばら撒いたという風に」とあるが、世界市場の約80%が今もユダヤ系のデ・ビアス社に独占され、価格統制されている。宝石商になろうとしたことのある賢治はどうも反発を感じていたらしい。(参考:宮澤賢治語彙辞典274p)
さぎ[鷺] 【鳥】 鳥を捕る人
鳥捕りが捕まえて売る鳥の一種。作るのに手間がかかる。
三日月がたの白い瞑った眼をもつ。頭の上には槍のような白い毛がある。
固まったあとは、北の十字架のように光り、黒い脚をちぢめて、浮彫のようになる。
「天の川の水あかりに、十日もつるして置くかね、そうでなけぁ、砂に三四日うずめなけぁいけないんだ。そうすると、水銀がみんな蒸発して、喰べられるようになる」
「鷺が、まるで雪の降るように、ぎゃあぎゃあ叫びながら、いっぱいに舞いおりて来ました。」
さくら[桜] 【植物】 活版所
春になるとうす桃色の花を咲かせる。学校に植えられていることが多い。代表的な落葉樹。
校庭の桜の木の下に集まった生徒たちは、カムパネルラをまん中にし、青いあかりをこしらえる烏瓜を取りに行く相談をしていた。
(カムパネルラ ・ 烏瓜)
さけ[鮭] 【魚】 ジョバン二の切符
天の川の中を泳ぐ。兵隊達が発砲するときらっきらっと白く腹を光らせて空中に抛り出されて
円い輪を描いてまた水に落ちる。
サファイア 【鉱物】 ジョバン二の切符
青色。アルビレオの観測所でくるくると回っている。白鳥座のアルビレオのそばにある五等星の青色の星をあらわしている。
すいしょう[水晶] 【鉱物】 北十字とプリオシン海岸
石英が結晶したもの。北十字の前では水晶の数珠をかけながら祈る旅人がいた。水晶細工のようにみえる銀杏、この砂はみんな水晶だ、などの表現があるように、輝く様子を例える場合にも使われる。石英のうち、結晶の外形の明確なもの、狭義にはさらに透明度の高いもの。賢治はただの水晶をはじめ、無色な宝石を作品にあまり使わない。これは一つには彼が色彩の比喩に宝石を使ったからである。水晶の用例はダイヤモンド(→金剛石)と重複する天の川中の星の比喩のほか、雫や笛、お宮、袈裟等の透明さの表現に使われる。(参考:宮澤賢治語彙辞典368p)
(金剛石)
すすき 【植物】 銀河ステーション 北十字とプリオシン海岸 鳥を捕る人 ジョバン二の切符
イネ科の多年草。秋の七草の一つ。風に揺られる姿は秋の風情を感じさせる。
青白く光る銀河の岸にひろがる。銀色にけむっている。風にさらさらさらさら、ゆられてうごいて、波を立てる。「ざわざわなる」「まるで息でもかけたよう」「いちめん銀や貝がらでこさえたよう」などと形容される。
すな[砂] 【鉱物】 北十字とプリオシン海岸 鳥を捕る人
水晶でできている。中で小さな火が燃えている。
つりがねそう[つりがね草] 【植物】 天気輪の柱
釣鐘状の花をつけた植物の総称。ホタルブクロ、ツリガネニンジン、ナルコユリなど。花期はそれぞれ、6〜7月、9〜10月、5〜6月なので、共に咲いているのが野ぎくであることを考えると、ツリガネニンジンのことを賢治は指したものと思われる。
(菊)
つる[鶴] 【鳥】 鳥を捕る人
鳥捕りが捕まえて売る鳥の一種。
とうもろこし 【植物】 ジョバン二の切符
葉はぐるぐるに縮れている。
葉の下には美しい緑いろの大きな苞が赤い毛を吐いて真珠のような実をつけている。
さやさや風にゆらぎその立派なちぢれた葉のさきからはまるでひるの間にいっぱい日光を吸った金剛石のように露がいっぱいについて赤や緑やきらきら燃えて光っている。
トマト 【植物】【食べ物】 家
ナス科の一年草。ジョバンニのお姉さんが家族のために作った食事の食材。ジョバンニは帰宅後、パンと一緒に食事をとる。その後届け忘れられた母親の牛乳をもらうため、再び外へと出て行く。
賢治自身トマトを好んで食し、自ら栽培した。荒地や開墾地でもよく育つからであろう。(参考:宮澤賢治語彙辞典506p)
とり[鳥] 【鳥】 鳥を捕る人
天の川の砂が凝って、ぼおっとできる。河原に下りてくるところをぴたっと押えると、かたまって安心して死んでしまう。押し葉にして食べる。鳥捕りのところには毎日注文がある。砂の上に降り立った鳥は、足が砂へつくや否や、まるで雪の融けるように、縮まって扁べったくなって、間もなく熔鉱炉から出た銅の汁のように、砂や砂利の上にひろがり、まわりと同じいろになってしまう。この物語には鳥が何種類か出てくる。天の川には白鳥座やわし座など鳥の星座がかかっている。ちなみに、鳥取りが出てくるのは白鳥の停車場を過ぎた後であり、インディアンにあう前にいなくなる。鳥の星座の付近で鳥取りはでてくることから、物語と星座との関連性が覗える。
なら[楢] 【植物】 天気輪の柱
ブナ科の落葉高木。産地にミズナラ、平地にはコナラが多く、一般にならといえばコナラを指す。大きいものでは高さ17mに達する。
のばら[野茨] 【植物】 ジョバン二の切符
バラ科の白い花。実は赤い。青年達が汽車に乗ったころ、苹果の匂いと共に野茨の匂いもした。
はくちょう[白鳥] 【鳥】 鳥を捕る人
鳥捕りが捕まえて売る鳥の一種。
ひのき[檜] 【植物】 活版所 ケンタウルス祭の夜
ヒノキ科。高さ30mにもなる常緑高木。建築用材として重宝される。町の家では銀河のお祭の日、ひのきの枝にあかりをつける。賢治の作品には楢や柏と同様多く登場する。賢治の檜は、街道筋や丘等に立ち、黒く天に向かって伸び、何か悪だくみでも企てているように擬人化されたりする。(参考:宮澤賢治語彙辞典591p)
ひば 【植物】 ケンタウル祭の夜
ヒノキ科の常緑高木。一般にはアスナロと呼ばれることが多い。アスナロの由来は「明日はヒノキになろう」からなるといわれている。ヒノキの園芸種にはチャボヒバ、イトヒバと呼ばれる一種もあり、檜と檜葉は混用されたりもしている。賢治の作品に登場する檜の多くは、現実にはこの檜葉のことであろう。(参考:宮澤賢治語彙辞典591p)
プラタヌスのき[プラタヌスの木] 【植物】 ケンタウルス祭の夜
スズカケノキ科の落葉高木。街路樹として有名。電気会社の前に六本あり、中にたくさんの豆電燈がついている。木の枝に包まれた電燈のある街並みはまるで人魚の都のように見える。
ポプラのき[ポプラの木] 【植物】 ケンタウルス祭の夜
町はずれにあり、幾本も幾本も高く星空に浮んでいる。
ボス 【動物】 北十字とプリオシン海岸
いまの牛の祖先。白い岩の中に埋もれている、大きな大きな青白い獣の骨。
横に倒れて潰れたという風になって、半分以上掘り出されている。発掘には鶴嘴、鑿、スコープなどが使われる。学術上の牛の属名。原牛。原牛は中世までいたといわれているが、その骨が今もアジアやヨーロッパで発見されている。(参考:宮澤賢治語彙辞典640p)
ます[鱒] 【魚】 ジョバン二の切符
天の川の中を泳ぐ。兵隊達が発砲するときらっきらっと白く腹を光らせて空中に抛り出されて
円い輪を描いてまた水に落ちる。鮭に似ているが、鮭よりは少し小型である。
まつ[松] 【植物】 天気輪の柱
マツ科の常緑高木。一般にはアカマツ、クロマツ、ゴヨウマツ、ハイマツ、などの総称。丘陵地に多いアカマツは岩手県の県木とされている。
もみのき[もみの木] 【植物】 ジョバン二の切符
マツ科の常緑樹。たくさんのたくさんの豆電燈がまるで千の蛍でも集ったようについている。
クリスマスに飾り付けをする木。クリスマスツリー(クリスマストリイ)。
りす[栗鼠] 【動物】 ジョバン二の切符
サウザンクロスの近くに生息。黄金の円光をもった電気栗鼠。くるみの木のそばにいる。電気栗鼠とは、敏捷なリスの動作をたとえた賢治らしい造語。(参考:宮澤賢治語彙辞典733p)
リチウム 【金属】 ジョバンニの切符
蝎の火、蝎座のアンタレスをリチウムを燃やした炎にたとえている。「ルビーよりも赤くすきとおりリチウムよりもうつくしく酔ったようになってその火は燃えているのでした」リチウムは銀白色の柔らかい金属。炎色反応は紅色である。
(蝎の火 ・ ルビー)
りんどう 【植物】 銀河ステーション 北十字とプリオシン海岸
リンドウ科の多年草。秋に碧紫色の美しい花を咲かせる。月長石ででも刻まれたようなすばらしい紫色の花。まるで狐火のよう。
(月長石)
ルビー 【鉱物】 ジョバンニの切符
蝎座の赤い星、アンタレスをルビーにたとえている。「ルビーよりも赤くすきとおりリチウムよりもうつくしく酔ったようになってその火は燃えているのでした」
(蝎の火 ・ リチウム)
れき[礫] 【鉱物】 北十字とプリオシン海岸
すきとおっている。水晶や黄玉や、くしゃくしゃの皺曲をあらわしたのや、稜から霧のような青白い光を出す鋼玉やらでできている。