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銀河鉄道の夜大辞典 言葉集

■賢治の思い出の世界

銀河鉄道の夜という物語は、単なる空想の世界ではなく、
賢治自身の生活や経験がモチーフとなっている事柄が少なくありません。
この項では、賢治の生活が背景にあると思われる語彙を集めました。
作品における語彙の「賢治観」を知ることができます。

アレニウス /イギリス海岸 / 岩手軽便鉄道 / 落合

北上川 / 北十字 / 銀河 / 銀河鉄道 / くるみ

幻想第四次 / ケンタウル祭 / コロラド高原 / 金剛石

蝎の火 / 石炭袋 / 天気輪の柱/ 天上 / 電信ばしら

プリオシン海岸 / 南十字 / 模型 / 苹果


アレニウス

 【賢治の思い出】

 スウェーデンの天文学者、物理学者、科学者。大正期の日本天文学界への影響は大きい。『最近の宇宙観』(一戸直蔵訳、1920)には、童話[銀河鉄道の夜]の「一、午后の授業」中の牛乳と脂油による天の川のたとえ話にヒントを与えたと思われる部分がある。(参考:宮澤賢治語彙辞典31p)

いぎりすかいがん[イギリス海岸] 【賢治の思い出】

 花巻市の中心街から東北約2km、北上川と猿ヶ石川の合流地点に賢治が命名した地名。銀河鉄道の夜の西欧風の幻想汽車旅行の途中に登場するプリオシン海岸はまさにイギリス海岸である。ジョバンニとカムパネルラはくるみの化石を見つけたり、また、大学士のボスの発掘現場に立ち会ったりする。童話[イギリス海岸]でも生徒の一人が岩の中に第三期偶蹄類の足跡を発見する。
イギリス海岸のイメージは、賢治文学にさまざまに重要な影響を及ぼしている。一つはあえてイギリスの名を冠したエキゾチシズム。生徒たちを引き連れてくる「私」の明るく晴れやかな気分もこのエキゾチシズムと切り離せない。第二にイギリス海岸は、イギリスの白亜紀層=恐龍時代の地層と動物の足跡とが結びつき、それが進化論と密接に結びついた賢治独特の修羅意識とからまって、鮮明な強迫観念としてしばしば賢治文学に登場する。イギリス海岸が賢治文学に関わる第三点は天上世界への飛翔願望と結びついた天上の海岸、川岸のイメージである。賢治におけるイギリス海岸は、白い海岸、進化論的修羅、の二つの点から、天上(=天使=鳥)の白亜海岸のイメージが生じてくるのである。銀河鉄道の夜の天の川(プリオシン海岸を含む)の岸の描写、ジョバンニとカムパネルラという童子の設定にもこのイギリス海岸のイメージが少なからず影響を及ぼしているといえる。(参考:宮澤賢治語彙辞典41‐45p)
 (プリオシン海岸) 

いわてけいびんてつどう[岩手軽便鉄道] 【賢治の思い出】

 岩手軽便鉄道株式会社が経営した花巻から仙人峠までの軽便鉄道。賢治もたびたび利用しており、この経験は銀河鉄道の夜にも生きている。詩[岩手軽便鉄道の一月]に登場するほか、詩[「ジヤズ」夏のはなしです][冬と銀河ステーション]では「銀河軽便鉄道」と出てくる。(参考:宮澤賢治語彙辞典61p)

おちあい[落合] 【賢治の思い出】

 北上川と豊沢川の合流地点。賢治の生家に近い。1940(明治37)年夏、賢治が8歳の時、ここで子供の水死事件があり、その時の記憶が童話[銀河鉄道の夜]のカンパネルラ水死の描写に反映しているという指摘も多い。
 (北上川

きたかみがわ[北上川] 【賢治の思い出】

 岩手県最大の一級河川。賢治文学とのかかわりでは、特に猿ヶ石川との合流地点にあるイギリス海岸が、修羅意識、地質年代と結びついた時間認識、天上の海岸等、想像力の原点となる重要な位置を占めている。幼時体験した豊沢川との合流付近(落合)での子供の溺死事件は、やがて、童話[銀河鉄道の夜]の溺死のモチーフへと発展する。北上第七支流(猿ヶ石川のことらしい)は、南流する大河北上川のイメージと結びつき、南行する夜の軽便鉄道沿いを流れる銀河(天の川)のイメージとなる。(参考:宮澤賢治語彙辞典169,170p)

きたじゅうじ[北十字] 【賢治の思い出】 北十字とプリオシン海岸

 白い十字架。銀河の流れのまんなかの、ぼうっと青白く後光のさした一つの島の平らな島にある。
 すきっとした金色の円光をいだいている。

白鳥座の別称。天の川の中にあり、横には大きな暗黒星雲(→石炭袋)がある。アルビレオは有名な二重星。銀河鉄道の夜は白鳥座の描写が多い。また、この童話は出発点と終着点がいずれも十字であり、十字の近くの石炭袋を地上と通じる穴として使ったものと思われる。十字は宗教的な雰囲気の記号の役割も果たしている。また、アメリカの地名の頻出も、大陸横断鉄道をモデルとしたという理由のほかに、デネヴ近くの有名な北アメリカ星雲がヒントになった可能性がある。この童話の「ぼうっと青白く後光の射した一つの島」とは、暗黒星雲によって天の川が二分されていることを指す。(参考:宮澤賢治語彙辞典171,172p)
 (銀河 ・ 十字架 ・ 南十字

ぎんが[銀河] 【賢治の思い出】【銀河】  午后の授業 ケンタウルス祭の夜 銀河ステーション 
                          北十字とプリオシン海岸 ジョバン二の切符

たくさんの小さな星の集まり。天の川。川だと云われたり、乳の流れたあとだと云われたりする。
学校の先生は両面凸レンズの模型を使いながら、「天の川の形はちょうどこんななのです。このいちいちの光るつぶがみんな私どもの太陽と同じようにじぶんで光っている星だと考えます。私どもの太陽がこのほぼ中ごろにあって地球がそのすぐ近くにあるとします。みなさんは夜にこのまん中に立ってこのレンズの中を見まわすとしてごらんなさい。こっちの方はレンズが薄いのでわずかの光る粒即ち星しか見えないのでしょう。こっちやこっちの方はガラスが厚いので、光る粒即ち星がたくさん見えその遠いのはぼうっと白く見えるというこれがつまり今日の銀河の説なのです。」と説明する。星が集まるところほど、ぼんやりと白く見える。

賢治の意識の中には、宇宙=銀河系(玲琉レンズ)、銀河の窓=裂け目(石炭袋)、そしてその先の異空間、といった図式ができていたようである。当時の天文書多くは、天の川の中の暗黒星雲(星間物質が後方の光を遮断したもの→石炭袋)を、空隙、穴、裂け目、と表現していた。(参考:宮澤賢治語彙辞典189p)
牛乳 ・ 天の川 ・  ・ 石炭袋

ぎんがてつどう[銀河鉄道] 【賢治の思い出】 ジョバンニの切符

 ジョバンニやカムパネルラがのり、旅をする。石炭ではなくアルコールか電気でうごいてるらしい。すすきの風にひるがえる中を、天の川の水や三角点の青じろい微光の中をどこまでもどこまでも走っていく。ジョバンニの思い出のアルコールではしる汽車や賢治の思い出である岩手軽便鉄道などと関連性がある。
 
 宮沢賢治の代名詞といえるほどの賢治作品のシンボル。銀河系や天の川に代表される賢治の天体空間のシンボル「銀河」と、賢治が愛した岩手軽便鉄道のイメージの転成「鉄道」が合体したのが子どもたちにも魅力を与えてやまない「銀河鉄道」である。
 車窓に展開する壮大な異空間の幻想的なイメージと、車内での人間のドラマ、内外呼応する「銀河鉄道」は賢治の第四次元の動的世界そのものである。(参考:宮澤賢治語彙辞典190p)
 (汽車 ・ 岩手軽便鉄道

くるみ 【植物】【賢治の思い出】 北十字とプリオシン海岸 ジョバン二の切符

くるみの化石。プリオシン海岸の白い岩の中から発掘される。百二十万年ぐらい前のもの。
プリオシン海岸が、昔海岸であったことを証明するもの。ほかに貝がらやボスなどが発掘される

 賢治の世界観には時空の永遠性といった考え方があり、天の川(宇宙)は空間の、くるみの化石は時間の永遠性を表現したと考えられる。(参考:宮澤賢治語彙辞典617p)
 (ボス

げんそうだいよじ[幻想第四次] 【賢治の思い出】 ジョバン二の切符

 銀河鉄道の世界。ジョバンニは三次空間からこの世界に入り、再び三次空間に戻るが、戻る際にカムパネルラとはわかれてしまう。ジョバンニは黒い丘から気づくと銀河鉄道に乗っていた。彼が黒い丘(三次空間)に戻るのはサウザンクロスを過ぎ、カムパネルラと共に天の川にある石炭袋を見た後である。

 異空間。賢治の宇宙空間意識を支える重要概念の一。賢治作品ではしばしば死後の世界(冥界)の意味にも使われるが、銀河系の外にあるいは特定の惑星付近に、異空間が実在するとも考えていたようである。天文学的イメージとして、銀河系=現空間、銀河の窓=空の裂罅(石炭袋)、そして銀河系外=異空間、と賢治は考えていたようである。賢治が空の裂け目を好んで描いていたことはよく知られている。ひときわすぐれた夜空の眼視観察者であった賢治は、天の川(銀河)中の暗黒部分を絶えず神秘的な気持ちで眺め、わがものとしていたのである。童話[銀河鉄道の夜]の幻想終結部分の「カムパネルラが少しそっちを避けるようにしながら天の川のひととこを指さしました。ジョバンニはそっちを見てまるでぎくっとしてしまいました。天の川の一とこに大きなまっくらな孔がどほんとあいているのです。その底がどれほど深いかその奥に何があるかいくら眼をこすってのぞいてもなんにも見えずただ眼がしんしんと痛むのでした」の「大きなまっくらな孔」つまり「石炭袋」の底とは、異空間、即ち死者の国へ通じる底であり、「なんにも見えない」ジョバンニには、死者との「通信」が閉ざされていると考えてもよいだろう。ジョバンニの「僕ももうあんな大きな暗の中だってこわくない」の決意とは、「力にみちてそこを進むものは/どの空間にでも勇んでとびこんで行くのだ」(詩[青森挽歌])と同じ決意であろう。そして「石炭袋」の底に何も見ることができず、地上に帰ってくるジョバンニとは、「わたくしの感じないちがつた空間に/いままでここにあつた現像がうつる/それはあんまりさびしいことだ」(詩[噴火湾(ノクターン)])と感じざるをえない賢治自身の分身だったといえよう。(参考:宮澤賢治語彙辞典45‐47p)
 (天の川 ・ 銀河 ・ 石炭袋 ・ 南十字

けんたうるさい[ケンタウル祭] 【賢治の思い出】 ケンタウル祭の夜

 銀河のお祭り。ケンタウル祭の夜には烏瓜のあかりを川に流す。また、いちいの葉の玉を飾ったり、ひのきの枝にあかりをともす。子供たちは「ケンタウルス、露を振らせ。」と叫んだりもする。新しいシャツを着る子供が多い。ケンタウルス座はおとめ座の真南にあり、南十字の真北に位置する星座。

 初期形を見ると、「七星祭」や「星曜祭」に書き換えたりもしている。イタリアの古い都市国家フィレンツェ等、ヨーロッパに広く行われてきた、守護神、聖(洗礼者)ヨハネを祭る聖ジョヴァンニの祭(6月24日。異教徒時代の夏至の祭りを起源とする)の影響も考えられる。市民は白い着物をまとい、ラッパ等の楽器を鳴らしながら行列し宝石やガラス器等の宝物を街角に展示する。賢治の思想や好みの中には、カンパネルラの影響もあり、中世末期イタリアの都市共同体思想への憧憬も見られるが、彼のケンタウル祭も、日本の七夕祭とこのジョヴァンニの祭が結びついたのかもしれない。(参考:宮澤賢治語彙辞典230p)
 (いちい ・ 烏瓜 ・ 銀河 ・ 琴の星 ・ ひのき ・ 南十字

コロラド高原 【賢治の思い出】【場所】 ジョバンニの切符

荒れている高原。ジョバンニが、そうそうここはコロラドの高原じゃなかったろうかという場面がある。ここでインデアンに遭遇する。

関連詩[冬と銀河ステーション]で北上山地を走る岩手軽便鉄道を「冬の銀河軽便鉄道」とし、ビクターオーケストラの指揮者ヨセフ・パスターナックの名も登場することから、この高原は北上山地をモデルとしたことになる。賢治は猿ヶ石川に沿って走る岩手軽便鉄道を、しばしばアメリカ合衆国の高原列車に擬して、西洋音楽と結びつけて描いたのである。(参考:宮澤賢治語彙辞典271p)

こんごうせき[金剛石] 【鉱物】【賢治の思い出】 銀河ステーション 北十字とプリオシン海岸

 ダイヤモンド。4月の誕生石。和名の金剛石の名は仏典の「金剛不壊」(何者にも侵されない硬さ)に由来する。ジョバンニが目の前がぱっと明るくなったときに使った例えの一つ。「・・金剛石を、誰かがいきなりひっくりかえして、ばら撒いたという風に、眼の前がさあっと明るくなって・・」(銀河ステーション)また、光り輝く様子をあらわす時にも用いられる。「金剛石や草の露やあらゆる立派さをあつめたような、きらびやかな銀河の河床の上を水は声もなくかたちもなく流れ・・」(北十字とプリオシン海岸)
 
 銀河鉄道の夜では盛んに天の川の川床の砂粒の表現に用いられるが、これは天の川が極めて遠い星々の帯のために、薄い白色に見えるためである。この描写中に「ダイアモンド会社で、ねだんがやすくならないために、わざと獲れないふりをして、かくして置いた金剛石を、誰かがいきなりひっくりかえして、ばら撒いたという風に」とあるが、世界市場の約80%が今もユダヤ系のデ・ビアス社に独占され、価格統制されている。宝石商になろうとしたことのある賢治はどうも反発を感じていたらしい。(参考:宮澤賢治語彙辞典274p)

さそりのひ[蝎の火] 【銀河】【賢治の思い出】【他の物語】 ジョバンニの切符

 自分の体をみんなの幸せのために使って欲しいと願い、焼け死んだの火。その火は、ルビーよりも赤くすきとおりリチウムよりもうつくしく燃えている。
南天の空に赤く輝く星。アンタレス。アンタレスが赤いのは表面温度が太陽の半分の3000度ほどしかないためである。表面温度が高いほど星は青白く光る。S字型のさそり座の中央、心臓のところに位置する。
:尾にかぎがある。その針に刺されると致命傷を負う可能性がある。

 賢治が最も好んだ星座。賢治がこの星座を好んだのにはひとつにはアンタレスの赤さ、もうひとつは蝎の毒虫としての生き方にみせられたからであろう。ギリシア神話では狩人オリオンの高慢におこった女神ヘラにつかわされて、オリオンを毒殺したという。童話[銀河鉄道の夜]ではこれをふまえつつ、「わたしはいままでいくつのものの命をとったかわからない、そしてその私がこんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた(中略)神さま。私の心をごらん下さい。こんなにむなしく命をすてずどうかこの次にはまことのみんなの幸のために私のからだをおつかい下さい。」と、弱肉強食の世界からの救済を説くためのたとえ話として少女に語らせている。さそり座が銀河の中心の方向に近く、多くの暗黒星雲(→石炭袋)が存在することと結び付けたと考えられるほかの作品もある。さそり座が球状、散開、散光星雲をたくさんかかえているのは銀河の中心方向に近いためである。天の川も複雑に入りくんでいる。
 (石炭袋 ・ リチウム ・ ルビー

せきたんぶくろ[石炭袋] 【賢治の思い出】 ジョバンニの切符

 暗黒星雲の呼び名。そらの孔。天の川に見られる大きな闇。カムパネルラはそちらを避けるようしている。ジョバンニも、石炭袋のほうを見てぎくっとした。その底がどれほど深いかその奥に何があるかいくら眼をこすってのぞいてもなんにも見えずただ眼がしんしんと痛むだけである。
 
 南十字近くのものがいちばん有名だが、北十字近くのものにも呼ぶことがある。暗黒星雲とは星間物質の集合体で、後方の光を遮るため暗く見える。一般に銀河の赤道面に集中して現れるため、天の川(銀河系を真横から眺めた姿)の中央部分に、暗黒部分が多く存在する。銀河の中心方向である射手座方向の天の川は、特に複雑で、実際よりはるかに少ない光しかわれわれには届いていない。石炭袋が暗黒星雲だと一般に知られたのはそう古いことではなく、かつては空の孔だと考えられていた。
 賢治は南北両石炭袋を異次元世界に通ずる穴(孔)、すなわち冥界と現世を結ぶ通路として作品を構成したことになる。(参考:宮澤賢治語彙辞典395p)
 (天の川 ・ 北十字 ・ 銀河 ・ 十字架 ・ 南十字

てんきりんのはしら[天気輪の柱] 【賢治の思い出】 天気輪の柱

 黒い丘の頂にある。天気輪の柱の下にきたジョバンニは、冷たい草に体を投げ出した後、銀河鉄道の世界へと旅立った。

天気輪。別名地蔵車。東北地方の風習で、寺や墓地、村境などに柱を立てて、晴れや雨など農耕に幸いする天候を祈り、また亡者の菩提をとむらう仕掛けをしたもの。石づくりの柱の手の届く部分をくりぬき、円い鉄の輪をはめ込み、願いを込めてその輪を回したという。人間の天上志向のシンボル、ないしは神霊が地上に降り立つところ、あるいは天と人間の交信を図り、かつ地霊や人間の霊魂の形代と考える風習の分布は広い。
柱の中の円い輪の仕掛けは、賢治の輪廻円環の思想の一つのシンボルと見ることもできる。この童話では時計屋の店先でジョバンニが我を忘れて見とれる時計や、円い黒い星座早見盤、豆電球、といった風に円形のイメジャリーが大切な役割をしていて、やがては苹果、銀河宇宙という円形のイメージとも照応する。(参考:宮澤賢治語彙辞典483p)
 (銀河 ・ 銀河鉄道 ・ 黒い丘 ・ 星座早見 ・ 時計屋 ・ 苹果

てんじょう[天上] 【賢治の思い出】 ジョバンニの切符

 天の世界のこと。生前に善い行ないをしていた者が生まれるとされる理想の世界。しかし、天上も人間の世界と同様に、いまだ生死にとらわれた迷える世界であり、六道の一つに数えられる。

でんしんばしら[電信ばしら] 【賢治の思い出】 ジョバンニの切符

 旅の終盤、石炭袋近くの海岸にあるのをジョバンニは見る。「向うの河岸に二本の電信ばしらが丁度両方から腕を組んだように赤い腕木をつらねて立っていました。」

死者との「通信」の可能性を模索する賢治にとって、原子よりさらに小さい電子は現実と異空間とを結ぶ媒体とも考えられていた。(参考:宮澤賢治語彙辞典370p)

プリオシンかいがん[プリオシン海岸]  【賢治の思い出】【場所】 北十字とプリオシン海岸

 白い岩でできた銀河の岸。瀬戸物のつるつるした標札がたっている。
 百二十万年前、第三紀のころは海岸であった。
 地層の年代を証明するため、白い岩から採掘が行われている。

 プリオシンとは地質年代の一つ、第三紀の鮮新世(約1200万年前〜200万年前)。賢治はイギリス海岸(鮮新世の凝灰岩質泥岩の露出)について同名の童話の中で「その根株のまはりから、ある時私たちは40近くの半分炭化したくるみの実を拾ひました。」と説明している。このイギリス海岸のくるみの化石出土のイメージと、天の川=水の流れが結びついて、天の川上のプリオシン海岸が成立したのである。(参考:宮澤賢治語彙辞典617p)
 (くるみ

みなみじゅうじ[南十字] 【賢治の思い出】【場所】 ジョバン二の切符

 サウザンクロス。青年達が降りる場所。天上へ行くことができる。旅人たちは十字架に向かって祈る。十字架の近くの天の川をひとりの神々しい白いきものの人がわたっていた。見えない天の川のずうっと川下に青や橙やもうあらゆる光でちりばめられた十字架がまるで一本の木という風に川の中から立ってかがやきその上には青じろい雲がまるい環になって後光のようにかかっている。

 賢治の創作期は、第一次大戦前後に当り、太平洋のドイツ領地域への日本の南方進出が行われた。北原白秋、萩原朔太郎にも南洋憧憬を見いだすことができる。南十字星はそうした南洋憧憬の象徴でもある。この星座の近くには天の川の暗い部分、石炭袋(暗黒星雲)がある。(参考:宮澤賢治語彙辞典673p)
 (北十字 ・ 十字架

もけい[模型] 【賢治の思い出】 午后の授業 

 先生が銀河の説明に使用した中にたくさん光る砂のつぶの入った大きな両面の凸レンズ。

両面の凸レンズれは賢治が熟読していたというA・トムソン『科学大系』(北川三郎他訳、1922)中のトムソンの銀河モデルを受けたものである。幾何学的に天の川の見え方の違いを示している点も一致する。(参考:宮澤賢治語彙辞典189p)
銀河 ・ 

りんご[苹果]  【賢治の思い出】【宗教の世界】【食べ物】 天気輪の柱 ジョバン二の切符

 ジョバンニは汽車の旅人達がむいて食べているように思う。車内では、黄金と紅でうつくしくいろどられた大きな苹果を、青年達がやってきた後、燈台看守がくばっていた。むかれたきれいな苹果の皮は、くるくるコルク抜きのような形になって床へ落ちるまでの間にすうっと、灰いろに光って蒸発してしまう。また、頬がほんのりと赤くなった様子をあらわすのにも用いられる。
 賢治の作品の中では、天体と苹果を結び付けて考え、銀河系の形状(太い凸レンズ)を苹果のイメージと重ね合わせることも多くある。

 日本の明治期の西洋リンゴはエキゾチックな、神秘的な新種であった。これには西洋のリンゴにまつわる神話や伝説の数々、わけても旧約聖書「創世記」のアダムとイヴの知恵の木の実として伝えられた、知識教養の面からの影響も手伝っていたと思われる。リンゴを知恵や愛、不死や豊麗のシンボルと考えてきたヨーロッパ古来の伝承に通じ、それは「世界」を意味したキリスト教の絵画や彫刻(マリアやマリアに抱かれたキリストがリンゴを手にしたのがよくある)のイメージにも通じる。賢治の作品には、新鮮な苹果の味覚の表現も多く、それにもまして匂いの表現が多い。(参考:宮澤賢治語彙辞典742p)



----------------------------その他の世界----------------------------

銀河の世界 / 賢治の思い出の世界 / 宗教の世界 / ジョバンニの思い出の世界

動植物と鉱物の世界/ 場所の世界 / 他の物語の世界

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