実験で楽しくなる力学教室
Chapter 1
Chapter 2
Chapter 3
速度
速度の合成・分解
加速度
運動の法則
重力加速度と無重力
等速直線運動
等加速度直線運動
放物運動
終わりに
3-1. 速度
速さ
速度
日常では『
速さ
(speed)』という言葉と『
速度
(velocity)』という言葉は区別して使わないものだけれど、 力学上では
別の意味
と決められているんだ。
別の意味?
では、図で説明しよう。
まずx軸だけの直線上で考えてみようね。
例えば、「A地点からB地点へ移動するのに、t[s(秒)]かかった」という場合。
「
距離
」について調べてみると、原点0からA地点までの距離がa[m]、B地点までの距離がb[m]だから、 このときA―B間の距離は
(b-a)[m]
と表すことが出来るね。
うん。
では、このことを「
位置
」という別な視点で考えてみよう。
「位置といっても、A地点はAに決まってる」と言わず、
基準点を決め
て、その「
基準点から見てどこにあるのか
」を考えるんだ。
この基準に、「観測者」がいるとするよ。
まず、この基準。この場合もちろん原点0だね。
ここから、「x軸の正の向き」に「a[m]」だけ行った所がA地点ですよ。
同様に、「x軸の正の向き」に「b[m]」だけ行った所がB地点ですよ。
……と言えるわけだね。
観測者が原点0に立ってるって考えればいいんですか?
そうだね。
さてここで、観測者から見た「
位置
」は、「
向き
」と「長さの
大きさ
」とで表された。
位置ベクトル
変位
このように「向き」と「大きさ」を持った量のことを
ベクトル
と言うんだったね。
基準から見た「位置」を示すときは、このような「
位置ベクトル
」と呼ばれるベクトルを用いるんだよ。
このとき、OからAまでのベクトルを
または
OA
、というように表す。
では、ここで「A地点からB地点へ」。つまり、
AB
というのを表してみよう。
ベクトルの足し算でやったとおり、
OB=OA+AB
となるので、
OA
を移項すると
AB=OB-OA
だ。
ここで、
AB、OB-OA
は「A地点からB地点への位置の変化」を表している。
このベクトルを
「変位」
と呼んでいるんだ。
へんい?
そう。
この場合の変位「OB-OA」は、「x軸の正の向き」に「(b-a)[m]」の大きさを示すベクトルだ、と言えるね。
ベクトルと言うことは、「向き」と「大きさ」の両方を持っているということだ。
そして、
変位の大きさのことを距離と言う
んだね。
さて……。「AB間の距離」と、「A地点からB地点への変位」が求められたね。
ここからが、力学上の決まり。「速さ」と「速度」の違いは何かというと、
「
速さ
」は、単位時間(一秒とか、一分とか、一時間とかの基準)あたりの「
移動距離
」
「
速度
」は、単位時間当たりの「
変位
」
ということになるんだ。
『速さ』はどれだけ進んだか、とただそれだけだけど、『速度』はそれにプラス、方向も考えなきゃならないんだね。
「単位時間あたりの○○」を求めるには、○○をかかった時間で割ってやるとよいね。
だから、例の場合だと、「速さ」は1[s]あたりに進んだ距離だから、
[m/s]となるわけだ。
○○って何?
例えば、距離とか、速さとか、変位とか、時間と共に変わる量だね。
つまり、力学上では「速度」はベクトルだから、表す時は必ず「向き」を言わなくてはならないし、
その「速度の大きさ」のことを「速さ」と呼んでいるということなんだ。
……だから、
速さが等しくても向きが違えば速度は違う
ということになるね。
さて、今A―B間の速さ・速度を求めたけれど、このやり方だとA―B間にある
場所それぞれでの速さ・速度と等しいとは限らない
。
どういうことです?
例えば、君の家から学校までの400mの道のりを、自転車で100秒かけて行くとしよう。
出発する時はだんだん速くなっていくし、途中曲がり角があれば向きが変わる……つまり、速度が変わる。
そして止まる時もだんだん遅くなるよね。
でも、この場合は平均して4[m/s]で走りました、と言えるね。
ええ。
だから、さっきの方法で求めたのは、「
A―B間の平均の速さ・速度
」と呼んでいるんだ。
その途中途中で向きとか速度とかは変わるけど、全てを平均したらこうなったということなんですね。
では、それぞれの場所での速さ・速度ってどうやって求めるんだろう?さっきの図をもう一度見てみよう。
x軸だけで、左右に曲がることはなかったということとして考えてみるよ。
そして、ここにそのときの運動の様子を記録したグラフがある。
これは、最初はゆっくりとした速度で自転車を漕いでいて、途中でスピードが乗ってきて加速したけど、
最後には力尽きて減速してしまった人の様子を表したグラフと考えて欲しい。
……。
……。
C地点のあたりとD地点のあたりでは、同じ時間あたりに進んだ距離だだいぶ違うね。
Dの方が速いというわけだ。
でも、全体で見ると、(b-a)[m]進むのにt秒かかっているわけだから、平均の速さは
[m/s]。
では、出発直後の点Cの時の速さはどう求めたらいいだろう?
わからないです。
じゃあ、この図を見て欲しい。C地点の周りの部分を緑色にして、拡大してみたんだ。
ここらは、平均の速さは、Xc/Tc[m/s]となって、だいたい一定だね。
平均の速さが一定
ということは、その値が
その地点地点でそれぞれスピードメーターが示している速さ
だと言えるわけだ。
このTcとXc、もっと狭くしてみると、さらにその値は正確に一定となる。
そして、その値をC地点での
瞬間の速さ
と言うんだ。
「点○○を速さ○[m/s]で通過した」などと出てきたら、それは瞬間の速さを表しているよ。
"その地点、その地点でそれぞれスピードメーターで示している速さ"を平均したのが、"平均の速さ"ってことですね。
そういうこと。
こうやって、調べる範囲をとても狭く(ほとんど0まで)して、「変化の仕方」を求めることを微分すると言い、
ニュートンとライプニッツと言う人が同じ時期に発見したんだ。
速度、速さの量記号はvやV
が使われるのが一般的だよ。
まぁ、微分は高校数学でやる内容だから、今は覚えなくても大丈夫。
そんなものもあるんだな、くらいでOK。
・速度は大きさと向きを持ったベクトルの量。
・速度の大きさを速さという。
・速さの(速度の大きさの)単位は[m/s]。