巣の構成員

女王バチ


 左の写真の、ミツバチの先頭にいるのが女王バチです。女王バチとは巣の中にたった一匹いる卵を産むミツバチです。「女王」という名前の通り他の働きバチよりも大きく、寿命も長いです。また女王バチはお腹が黒く、長いです。
 最繁期の働きバチの寿命が1〜2ヶ月なのに対し、女王バチは2〜3年です。しかし、女王だからといって働きバチより立場が上なわけではありません。卵をどれくらい産むかも含め、巣についての決定権は働きバチたちにあることがわかっています。女王バチは働きバチによって来る日も来る日も卵を産み続けさせられる苦労人のようです。

女王バチの仕事

 女王バチは1日に2000個もの卵を産むことができます。働きバチが掃除した巣房にお腹を入れて卵を産みつけていきます。
 女王バチの主食はローヤルゼリーと呼ばれる栄養食です。発酵させた花粉(蜜パンと呼ばれています)を働きバチが下咽頭腺(かいんとうせん)という部分で加工して作られます。ローヤルゼリーには高い栄養があり、そのおかげで女王バチの寿命は長いのです。また、ローヤルゼリーには産卵を誘発させる成分が含まれています。働きバチによって作られ、これを飲まされることで産卵するのです。

女王バチの誕生

 女王バチと働きバチは、生まれた時は DNAも含め全く同じなのですが、巣の下部にある王台と呼ばれる特別な部屋に産み付けられた卵が、栄養たっぷりのローヤルゼリーを与えられ続けることにより女王バチに成長します。途中でローヤルゼリーから別の餌に変えられた幼虫は働きバチになります。
 王台で育った新女王バチは他の巣のオスバチと交尾をするため、護衛を引き連れて人生で一度の交尾飛行に出かけます。そこで数匹のオスバチと交尾をし、一生卵を産み続けられるだけの精子を自分の中に溜め込みます。交尾飛行を終えた新女王バチは巣に戻り、死ぬまで卵を産み続けるのです。
 女王バチは産む卵を精子と受精させるかどうか決めることができます。働きバチは受精卵から生まれ、オスバチは未受精卵から生まれます。オスバチの卵は交尾の季節に少し大きめの巣房に産みつけられます。巣房の大きさで未受精卵か受精卵か決めています。
 女王バチはフェロモンという匂い成分を出して、働きバチが卵を産まないようにしています。幼虫は、働きバチになることが決まった時点で産卵管が毒針に変化するのですが、たまに産卵管を持ったまま生まれるものがいます。女王バチがいなくなるとフェロモンが無くなるため、彼女らが卵を産み始めます。

女王がいなくなった場合

 女王バチは、交尾飛行中に鳥に食べられる、病気になってしまうなどの事故で突然死んでしまうことがあります。王台があれば王台から新女王が誕生するので問題ありませんが、王台がなかった場合、女王バチがいなくなってしまいます。
 セイヨウミツバチの場合、若い幼虫のエサをローヤルゼリーに変えて女王バチに育てあげます。これがうまくいけばそのコロニーは滅亡を免れることができます。 ニホンミツバチの場合は幼虫を女王バチに育てようとすることなく、すぐに働きバチたちが卵を産み始めてしまいます。しかし働きバチは交尾をしていないので未受精卵しか産むことが出来ません。未受精卵からはオスバチしか生まれないので新女王バチが誕生することはなく、コロニーを維持することが出来ません。コロニーは消滅してしまいます。
 このように、女王バチはコロニーにとっての生命線なのです。女王バチの元気がなくなると、働きバチによって殺され、新女王バチに置き換えられることもあります。



参考文献
Rowan Jacobsen『蜂はなぜ大量死したのか(原題 Fruitless Fall)』 文芸春秋、2009年
久志冨士男『ニホンミツバチが日本の農業を救う』 高文研、2009年
越中矢住子『ミツバチは本当に消えたか』 SoftBank Creative、2010年
フォーガスチャドウィック, スティーブオールトン, エマ・サラテナント, ビルフィツモーリス, ジュディー アール  『ミツバチの教科書(原題 The Bee Book)』 エクスナレッジ 、2017年
一般社団法人 日本養蜂協会 ホームページhttp://www.beekeeping.or.jp/