競馬を選んだ場合


「おかしいな、結構な確率で当たってたはずなんだけどな」

俺の言葉を聞いて友人は枝豆を食べながら苦笑いをした。俺にあのゲームを勧めた友人だ。いくら賭けたかは伝えていないが、とにかくコツコツ一番の馬に賭けても儲からなかったことは先ほどからずっと喋っている。

「というかそもそも、競馬の楽しみ方を間違ってますよね」

「なんだよ、楽しむっていうか金儲けてみようと思ったんだよ」

「そもそも僕にとって競馬っていうのはいわば推しのコンサートで、推しを応援して盛り上がるために行ってるんです。馬券は推しへの応援の気持ちを込めた、いわばお布施なんで、儲ける儲けないとかじゃないんですよ。配信者に投げ銭するのと一緒です。 そもそもお金を目的とするなら競馬ほど非効率なものはありませんよ」

「どういうことだ?」

説明して差し上げます。そう言って奴は眼鏡を押し上げ、得意げな顔をした。

こいつはオタクでどうしようもなく変人だが、頭は俺よりすこぶる回る。

W大学で経済学をやって、今もかなりの給料を稼ぐエリートだ。

「あなたが賭けた2019-2021の全52レースで、一番人気の馬が勝った確率は50%ですね。
これだけ聞くと五割を超えているので、プラスにはならずとも損をすることはなさそうです。

しかし実際にはマイナス。なぜか?
それは、そもそも競馬っていうのは勝ったときに税金がかかるからです。

もちろん額にもよりますが、例えば千万を賭ければ、当たったものから数百万はまずなくなると見ていいでしょう。

しかし、この二年の一番人気の馬が勝った際の平均倍率は2.1倍。そこから先ほど述べた税金の差し引きが起こりますから、結果儲からないのです。

つまり一回の勝利に対して許される負けは一回以下で、それを上回ってしまえば0どころかマイナスになるってことですよ」

「な、なるほど……」

税金か。いつも勝った後は嬉しくて大して気にしていなかった。むしろ勝ったんだから全然儲かったつもりでいたのだが、それは大きな間違いだったのだ。目からうろこが落ちたような気分だった。

「だから言ったでしょ?競馬は楽しむものですって。リスクがない、安定して利益を出す、そんな必勝法は存在しません。そもそもそれがあれば競馬は成立しませんよ。

お布施くらいの気持ちで推しを応援していれば外れてもどうとも思いません、ということでこちら私の推しの先週の雄姿なのですが……」

「あーわかったよ!見るよ!見ればいいんだろ!」

ぐいぐいと押し付けられるスマホを覗き込んで、この二年で初めて俺は馬券じゃなくて馬を見た。

【競馬ルート 完】最終結果:3億7675万




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