第2章

6.宇宙ひも

球殼状タイムマシンとは別に、ゴット1947年- アメリカ合衆国の理論宇宙物理学者。プリンストン大学教授。ケンタッキー州出身。 宇宙ひも物理学、特に宇宙論で言及される時空の中の特殊な領域です。コズミックストリングとも呼ばれます。を利用したタイムマシンも提案しています。

宇宙ひもとは、宇宙の初期にできて現在では宇宙空間を漂っているかもしれない「ひも」状の奇妙な重力源のことです。

何度かの相転移物質がある相から別の相に移ることです。融解・蒸発、凝縮・凝固など。現象を経て現在の宇宙になったと考えられています。

自然界には「重力」や「電磁気力自然界に存在する四つの基本的な力の1つです。」の他、クオークハドロンを構成している基本粒子。全部で6種類。を結びつける「強い核力核子と核子の間に働く力。きわめて狭い領域だけに強い引力として作用し,核子を狭い空間内にまとめて1個の原子核ができるのは核力によるものとされています。」と、ニュートリノ中性微子とも。素粒子の一つ。レプトンに属し,電気的に中性,質量は1998年にその存在が確認されました。を結びつける「弱い核力」の4つの力も、もともと1つの力だったものが、宇宙膨張とともに相転移して分化していったと考えられています。

電磁気力と弱い核力を結ぶ理論は電弱統一理論素粒子の電磁相互作用と弱い相互作用(相互作用)をゲージ理論に基づいて統一的に記述する理論のこと!と呼ばれ、ワインバーグ米国の物理学者。弱い相互作用の研究に取り組み,クオーク模型との組合せにおける重要な考えを提出しました,クオークの役割を解明しました。サラムパキスタンの物理学者。ラホール大学,ケンブリッジ大学を出て,1951年ラホール大学,1954年ケンブリッジ大学,1957年ロンドン大学インペリアル・カレッジ教授です。グラショウ米国の物理学者。弱い相互作用の研究に取り組み,クォーク模型との組合せにおける重要な考えを提出しました,cクォークの役割を解明しました。の3人によって理論が完成し、実験で証明されています。

重力を除く3つの力をまとめる理論は力の大統一論(GUT;grand unified theory)素粒子の基本的な相互作用である電磁相互作用、弱い相互作用、強い相互作用を統一的に記述する理論のこと。ゲージ理論を土台にして作られた。と呼ばれています。 理論はあるが、まだ実験で証明されていません。

重力を含めた4つ力をすべて統一する理論は、力の大統一論(GUT;grand unified theory)と呼ばれるが、これらはまだ理論ができていません。

力の分化メカニズムは相転移現象で説明されます。

力の大統一論ならば真空の相転移であり、電弱統一理論ならばヒッグス素粒子エネルギー(ヒッグス場)の相転移です。

いずれも基本的なメカニズムは、南部陽一郎昭和後期-平成時代の理論物理学者。 20年「素粒子物理学と核物理学における対称性の自発的破れの発見」でノーベル物理学賞受賞した。 が提案した「自発的な対象性の破れ」の原理が元になって、宇宙ひもは、真空の相転移で発生する位相欠陥ホモトピー非同値な境界条件の存在に起因する偏微分方程式や場の量子論の解のことです。です。

相転移物質がある相から別の相に移ることです。融解・蒸発、凝縮・凝固など。モデルは、「真空の相転移現象のときに生じるエネルギー差が宇宙に急膨張を引き起こす」というモデルです。
急膨張によって、現在我々が観測できる範囲の宇宙が一様になり、相転移が終了してエネルギー差がなくなれば、急膨張も終了して1つの宇宙が出来上がります。
「その外側は、我々の知らない別の宇宙があるかもしれない」という結論です。
このような相転移は、宇宙全体に同時に発生ものではなく、時間も場所もばらばらに起こるだろうし、相転移の終わる状態もバラバラのはずです。
もちろん、近くの場所では別の状態で終了したとすると、その境目には「壁」のようなものができ、このような壁を位相欠陥(topological defect)と呼びます。

壁が2次元的ならばドメインウォール(domain wall)、壁が1次元ならばストリングプログラミング言語における、文字列型のデータ、または文字列型であることを示すステートメントのことです。(string)、壁が1点ならばモノポール磁気単極子ともいいます。N極またはS極の単独の磁荷をもつ粒子。1932年ディラックによってその存在が予言されたが,いまだ実験的には発見されていません。(monopole)と呼ばれます。
いずれも存在すれば、高いエネルギーの塊となります。 インフレーション膨張宇宙論の一つ。宇宙創世のごく初期に、指数関数的な宇宙膨張があったとする説。標準的な膨張宇宙論に存在する矛盾を解決すると考えられています。モデルは、急激な宇宙膨大をすることで、このような位相欠陥の存在確立を小さくします。
しかし、位相欠陥の存在がまったくゼロとは言い切れません。

ゴット1947年- アメリカ合衆国の理論宇宙物理学者。プリンストン大学教授。ケンタッキー州出身。が注目したタイムマシンは、宇宙を漂っているかもしれない位相欠陥のストリング、宇宙ひも(cosmic string)を利用するものです。
存在すれば、太さは、原子核原子の中心をなすものです。陽子と中性子からなり、原子番号と同じ数の正電荷をもっています。原子の質量の大部分を占めるものです。核(10マイナス15乗)よりも小さいが、長さは宇宙全体に渡るくらいあり、重さは1cm当たり1億トンの1億倍もあるような、想像を絶する物体になります。 が提案した「自発的な対象性の破れ」の原理が元になって、宇宙ひも物理学、特に宇宙論で言及される時空の中の特殊な領域です。コズミックストリングとも呼ばれます。は、真空の相転移で発生する位相欠陥です。 宇宙空間に「宇宙ひも」の位相欠陥があれば、これは張力で支えられる奇妙な重力源となります。

宇宙ひもの周囲を1周すると、360度ではなく、それよりも小さい角度になるという角度欠陥が観測されると考えられています。
紙の一部を切り取ってつなぎ合わせると、漏斗液体を口の狭い容器に移したり,こし分けたりするのに用いる容器。〈じょうご〉ともいう。になるが、宇宙の一部に突然このような切り貼りされた空間が出現するようなイメージです。

光が宇宙ひもの両側を通過すると、角度欠損の影響によって、重力レンズ大きな重力場を通ってくる光が曲げられること。凸レンズを通過したときのように曲がることからこの名がある。のように曲がって進むことになります。
だから、宇宙ひもそのものは見えなくても2つ同じ天体が近くに見えるならば、宇宙ひもによる重力レンズ現象といえるかもしれません。

実際、2003年に、そっくりな2つの楕円銀河銀河の分類の一つ。渦状構造や腕をもたず楕円状の光塊に見える。半径も質量も小さい。が2つの銀河の形も距離も明るさもスペクトルもほとんど区別がつかないほどなので、もともと1つの銀河が重力レンズ現象を起こして見えているものと考えられました(レンズ天体を意味するCSL-116と命名)。

そして、このようなレンズ現象を起こす候補として宇宙ひもが考えられました。


ところが、2006年になってハッブル宇宙望遠鏡宇宙を観測するために、1990年に米国がスペースシャトルを使って高度610キロの地球周回軌道に打ち上げたによって詳しい観測がされると、この2つの銀河は、軸の方向が異なっているためにレンズ効果とは考えられず、「とてもよく似ているが2つの似た銀河がペアで存在していた」という結論が下されました。

宇宙ひもによる角度欠損の部分は、時空が切り取られたような構造だが、近くを飛ぶロケットにとっては連続的な空間なので変わったことは起こらなく、単に飛行距離が短くなったと感じるだけです。

図のように、星から星へのたびを考えてみます。


本来は、ABを結ぶ直線経路が最短であるが、宇宙ひもがあればその近くを通る経路1が最短経路になることもあり得えます。
Aから経路1を飛んだロケットがBに着いて、直線経路方向にAを振り返ると、まだAにいて出発していない自分の姿を見るかもしれないが、このような状況では、単に遅く届いた光を見ているだけで、過去への旅とはいえないでしょう。
実際には経路1を通る光が同時刻の基準になり、星Aから見ればロケットは時間をかけてBにたどり着いていることになります。

そこで、ゴットは、宇宙ひもが周りの時空を引っ張りながらロケットの進行方向に対して逆向きに光速で運動している状況を考えました。
宇宙ひもの近くにいる観測者の時間は進まない、だからAが宇宙ひもの運動とともに後ろ向きに去っていくときにロケットで出発すれば、A上の時計が進まない間にロケットは角度欠損を利用して星Bにたどり着きます。
今度は逆向きの宇宙ひもがあって、星Aがそのひもとともに光速で戻ってくるような状況があれば、再びロケットはBからAに角度欠損を利用してたどり着きます。
ロケットはAからBを往復して旅してきているのに、時間が進まない空間にいた星Aの人に出会うことになります。
つまり、出発した直後の自分に声をかけることができるということです。

ゴット1947年- アメリカ合衆国の理論宇宙物理学者。プリンストン大学教授。ケンタッキー州出身。 の提案は、「2本の宇宙ひもが反対方向に運動しながら接近する場合があれば、その周囲をロケットで回ることで、ひもとともに動かされる星のもとへ同時刻に戻ってこられる」ということです。
宇宙ひもの周りの角度欠損を利用することで、ロケットがひもの運動の影響を100%受けることから逃れています。

この提案の優れている点は、ロケットは光速以下のスピードでよいし、正のエネルギーの物質だけを仮定しているので、通常の物理法則の範囲内の話になっていることです。
同時刻に戻ってこられる旅ではあるが、立派に「過去に戻る旅」といえます。
閉じた時間世界線(CTC)が存在するのです。

ゴッドがこのアイデアを出した後、カトラーは、2つの宇宙ひもの近くのどこまでがCTCを許すのかという領域も明らかにしています。
それによると、あまり宇宙ひもに近づきすぎるとタイムトラベルは不可能だが、ある程度の限られた時間ならば十分に可能だ、ということです。

しかし、ゴットのアイデアは、まだ発見されていない宇宙ひもを利用しているところが苦しいところです。
しかも「2本の無限に長い平行な宇宙ひもが光速で運動している」状況が必要でもあるます。
宇宙ひもを人工的に作ったり、制御したりすることは、現在の人類では不可能です。
無限に長い宇宙ひもが交差するような瞬間があるかどうかは、宇宙初期の偶然性に頼る他にないし、どうやって見つけるのか、どうやってその近くを飛行すればよいのか、現実性を考えると、難題は多いものです。


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