■音素文字と音節文字
ここまで、世界での文字の発生ついて見てきました。これら文字は表音文字と言われ、ひとつの記号に一つの発音を記すものでした。(文字の誕生を参照)
表音文字は分類され、音素文字と音節文字に分かれます。このふたつは少しややこしいのですが、文字の歴史を知る上では欠かせない事柄です。
▲表音文字は音素文字と音節文字に分けられる。
音素文字とは
音素文字とは、ひとつの文字で1音素を表すものをいいます。音素とは発音の最小単位です。これに関しては詳細について議論が行われていますが、例えば日本語で「学校」と発音するときの「/gaQkoh/」(/Q/はつまる音)の/g/・/a/...それぞれの母音・子音を音素といいます。音素文字のうちアルファベットはその典型です。具体的な音素文字のうち現用のものでは、ローマ字・ラテン文字・アラビア文字・デーバナーガリ文字などがあげられます。ちなみに上の「学校」の場合、”がっこう”の”が”は/ga/に対応してるため、ひらがなは音素文字ではありません(後述)。
音素文字の歴史
前回のように紀元前3000年、エジプトでヒエログリフが誕生しました。それから7、800年たつと、ヒエログリフに子音・母音を表す文字が付け足されるようになりました。これによって借用語や固有名詞を記すことができるようになりました。これが音素文字の始まりです。
紀元前1400年ごろになると、原カナン文字が出現します。これはヒエログリフを起源としてできた文字で、22種類の文字を持つものです(この原カナン文字の誕生までに、シナイ文字・ワディ・エル・ホル文字といった文字が登場するのですが、研究が進んでおらず、よくわかっていません。)。原カナン文字はアルファベットの原型となりました。ここからアルファベットの歴史が始まるのです。
11世紀ごろには原カナン文字はフェニキア文字となります。フェニキア文字は原カナン文字をより簡単にしたものです。ここでフェニキア文字と現在使用されているギリシャ文字・ラテン文字を比較してみましょう。
フェニキア文字 |
ギリシャ文字 |
ラテン文字 |
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A |
A |
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B |
B |
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G |
C,G |
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D |
D |
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E |
E |
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U |
F,U,V,W,Y |
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H |
H |
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I |
I,J |
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K |
K |
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L |
L |
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M |
M |
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N |
N |
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O |
O |
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P |
P |
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※ |
Q |
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R |
R |
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S |
S |
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T |
T |
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X |
X |
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Z |
Z |
▲フェニキア文字・ギリシャ文字・ラテン文字の対応表。
お分かりになったと思いますが、現在のアルファベットは11世紀のフェニキア文字とそっくりなのです。そして現在のアルファベットは究極の省略形であることもよく分かると思います。こうしてヒエログリフから始まった音素文字は現在のアルファベットとして私たちの使用する文字になったのです。
音節文字とは
音素文字に対して、ひとつひとつの記号が一つの音節を表す文字を音節文字といいます。音節は音素と違ってあいまいなところが多いのですが、簡単にいうと”ひとまとまりに聞こえるフレーズ”です。日本語でいえば「りんご」であれば「り」「ん」「ご」の3音節、先の「学校」でいえば「がっ」「こー」の2音節になります。英語だと「computer」は「com」「pu」「ter」の3音節。と、要するに発音のまとまりを示すものです。
音節文字の歴史
紀元前1450年頃、地中海のクレタ島で使われていた文字に線文字Bがあります。これは完全に忘れ去られていた文字で解読法は不明でしたが、近年解読されて音節文字であったことが分かりました。しかし詳細は不明で、文字について詳しいことは謎に包まれたままです。
▲地中海とクレタ島の地図
次に代表的な音節文字は日本の仮名(ひらがな・カタカナ)です。日本には平安時代ごろまで中国大陸から輸入された漢字のみ存在していましたが、やがてその漢字が簡略化・表音化されました。それが仮名で、私たちが現在使っている仮名とほとんど変わることがありません。
▲対応している漢字とひらがな・カタカナは似ている。
音節文字は音素文字より種類が圧倒的に少なく、数えるほどしかありません。わたしたちが親しんでいるひらがなは、実は文字の歴史において特殊なもののひとつなのです。
その他の音節文字:ロロ文字(中国)・女書(中国)・ヴァイ文字(西アフリカ)・チェロキー文字(アメリカ)・その他
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