八章 「鳥を捕る人」
「ここへかけてもようございますか。」 「ええ、いいんです。」
●鳥捕りがジョバンニに初めて声を掛けた時、そしてジョバンニの返事。「がさがさした、けれども親切そうな、大人の声」と表現されている。
「あなた方は、どちらへいらっしゃるんですか。」 「どこまでも行くんです。」 「それはいいね。この汽車は、じっさい、どこまででも行きますぜ。」
●鳥捕りがジョバンニ達にした質問と、ジョバンニの答え。ジョバンニは「少しきまり悪そうに答え」た。その返事に対する鳥捕りの反応は、好感を持ったとも、少しからかっているともとれる。また、この台詞は鳥捕りが銀河鉄道について詳しく知っており、また彼が銀河鉄道を乗り降りしている可能性も示す。
「あなたはどこへ行くんです。」
●カムパネルラの鳥捕りに対する質問。「いきなり、喧嘩のようにたずね」たことから、きまり悪そうに答えたジョバンニを少しかばう様な台詞ともとれる。
「わっしはすぐそこで降ります。わっしは、鳥をつかまえる商売でね。」
●カムパネルラの質問に対する鳥捕りの答え。ここで鳥捕りの商売が判明する。
「何鳥ですか。」 「鶴や雁です。さぎも白鳥もです。」 「鶴はたくさんいますか。」
●ジョバンニとカムパネルラが鳥をつかまえる商売に関する質問をし、鳥捕りが簡単にどんな鳥を捕るのか説明する。
「居ますとも、さっきから鳴いてまさあ。聞かなかったのですか。」 「いいえ。」 「いまでも聞えるじゃありませんか。そら、耳をすまして聴いてごらんなさい。」
●鳥捕りには列車の中でも鳥の声が聞こえると言うが、ジョバンニとカムパネルラには鳥の声が聞こえない。鳥の声が聞こえないという二人に、鳥捕りからのアドバイス。
「鶴、どうしてとるんですか。」 「鶴ですか、それとも鷺ですか。」 「鷺です。」
●鳥をどうやって捕るのかジョバンニが鳥捕りに質問する。最初は鶴と言っていたのに、鳥捕りに聞き返されて鷺に変えていることから、ジョバンニがそこまで鳥捕りに興味があるとは思えない。
「そいつはな、雑作ない。さぎというものは、みんな天の川の砂が凝って、ぼおっとできるもんですからね、そして始終川へ帰りますからね、川原で待っていて、鷺がみんな、脚をこういう風にして下りてくるところを、そいつが地べたへつくかつかないうちに、ぴたっと押えちまうんです。するともう鷺は、かたまって安心して死んじまいます。あとはもう、わかり切ってまさあ。押し葉にするだけです。」
●鳥を捕るにはどうするか、その説明を鳥捕りがしている。
「鷺を押し葉にするんですか。標本ですか。」 「標本じゃありません。みんなたべるじゃありませんか。」
●捕った鳥をどうするか鳥捕りが説明する。前章のプリオシン海岸でもジョバンニとカムパネルラは標本にするかどうか同じ質問をしている。二人にとって何かを採掘したり捕ったりすると標本にするというのが基本となっており、それはジョバンニの父親が漁から捕ってきたものを標本として学校に寄贈しているためだと思われる。
「おかしいねえ。」
●捕った鳥を食べると聞いた時のカムパネルラの感想。普段食べない様な鳥を食べるのでおかしいと思ったのであろう。
「おかしいも不審もありませんや。そら。いまとって来たばかりです。」
●カムパネルラに「おかしい」と言われたので、鷺がどの様なものであるかを見せようとした時の鳥捕りの台詞。
「ほんとうに鷺だねえ。」
●鳥捕りの荷物から出された鷺を見て感心するジョバンニとカムパネルラの台詞。
「眼をつぶってるね。」
●鷺を近くで見た時のカムパネルラの感心の台詞。
「ね、そうでしょう。」
●鷺を実際に見せて、少し得意げになっている鳥捕りの台詞。
「鷺はおいしいんですか。」 「ええ、毎日注文があります。しかし雁の方が、もっと売れます。雁の方がずっと柄がいいし、第一手数がありませんからな。そら。」
●「鷺なんぞ喰べるだろう」と思ったジョバンニが聞いた質問。それに答えた鳥捕りは、鷺よりもっと良い雁の説明をする。
「こっちはすぐ喰べられます。どうです、少しおあがりなさい。」「どうです。すこしたべてごらんなさい。」
●鳥捕りが雁をちぎって、二人に食べることを勧める。雁はお菓子の様な味であったとジョバンニは言う。
「も少しおあがりなさい。」 「ええ、ありがとう。」
●雁をもっとすすめる鳥捕りだが、ジョバンニは遠慮する。「もっとたべたかった」と思いつつも遠慮するところが、ジョバンニが鳥捕りに対し不信感を抱いていることが伺える。
「いや、商売ものを貰っちゃすみませんな。」
●ジョバンニが遠慮した雁を向うの席の人にすすめた鳥捕り。鳥を頂く時のその人の台詞。
「いいえ、どういたしまして。どうです、今年の渡り鳥の景気は。」 「いや、すてきなもんですよ。一昨日の第二限ころなんか、なぜ燈台の灯を、規則以外に間〔一字分空白〕させるかって、あっちからもこっちからも、電話で故障が来ましたが、なあに、こっちがやるんじゃなくて、渡り鳥どもが、まっ黒にかたまって、あかしの前を通るのですから仕方ありませんや。わたしぁ、べらぼうめ、そんな苦情は、おれのとこへ持って来たって仕方がねえや、ばさばさのマントを着て脚と口との途方もなく細い大将へやれって、斯う云ってやりましたがね、はっは。」
●鳥捕りと鳥をあげた向うの席の人との会話。鳥捕りは向うの席の人のことを知っている模様。向うの席の人も鳥捕りと同じ、銀河鉄道を乗り降りしている可能性がある。
「鷺の方はなぜ手数なんですか。」 「それはね、鷺を喰べるには、」「天の川の水あかりに、十日もつるして置くかね、そうでなけぁ、砂に三四日うずめなけぁいけないんだ。そうすると、水銀がみんな蒸発して、喰べられるようになるよ。」
●鷺に関する質問をするカムパネルラ、そしてそれに対して鷺の説明をする鳥捕り。
「こいつは鳥じゃない。ただのお菓子でしょう。」
●カムパネルラの雁の味に対する感想。ジョバンニと同じことを思っていた。
「そうそう、ここで降りなけぁ。」
●カムパネルラに「お菓子だ」と言われた直後に言った鳥捕りの言葉。慌てて二人の前から消え汽車から降りたり、燈台守がにやにや笑っている様子からも、鳥が本当にお菓子(鳥がお菓子に変えられた)であることが伺える。
「どこへ行ったんだろう。」
●突然居なくなった鳥捕りに対して、何故行ってしまったのか悩んでいるジョバンニとカムパネルラの言葉。
「あすこへ行ってる。ずいぶん奇体だねえ。きっとまた鳥をつかまえるとこだねえ。汽車が走って行かないうちに、早く鳥がおりるといいな。」
●消えてしまった鳥捕りを発見した時のジョバンニとカムパネルラの台詞。鳥捕りの鳥をつかまえる時の姿勢を見た時の感想。
「ああせいせいした。どうもからだに恰度合うほど稼いでいるくらい、いいことはありませんな。」
●鳥を捕まえた鳥捕りの、満足そうな台詞。「からだに恰度合うほど稼いでいるくらい」しか捕っていないので、鳥の商売はそんなに儲からないと予想できる。
「どうしてあすこから、いっぺんにここへ来たんですか。」
●突然また乗車した鳥捕りに、驚いたジョバンニの台詞。
「どうしてって、来ようとしたから来たんです。ぜんたいあなた方は、どちらからおいでですか。」「ああ、遠くからですね。」
●ジョバンニの質問に対する鳥捕りの答え。ジョバンニを驚かせたことに対してまた得意げになっているのであろう。そして、二人がどこから来たのかという自身の質問に対して、「遠くから」と自ら答えている。これもまた、彼が銀河鉄道に詳しいということを示している。彼は銀河鉄道の常連客で、見慣れない客は皆乗ってきた死者であり、地上から来ているということを分かっているのではないだろうか。
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