農薬のきまり : 農薬の規制
農薬の規制
「農薬のきまりは誰が決めているの?」
農薬は、農家がそれぞれの判断で利用しているように思うかもしれませんが、そうではありません。農薬の安全性を確保するための制度として農薬取締法と食品衛生法というものがあります。
これらによって、基準が設定され、農薬の使用種類や量などが制限されています。
関東農政局浜松地域センターより引用
まず、農薬取締法は、環境省と農林水産省が管轄しています。 環境大臣が毒性や環境への影響をもとに農薬の登録の可否を判断するための農薬残留濃度の基準を設定し、農林水産大臣がそれに基づき使用を許可する登録します。これによって申請された農薬は製造、使用できるようになります。農林水産省は、農薬の登録の他に、販売者の取締や規制も行っています。つまり、農薬取締法は生産段階での安全確保を中心とした法律です。
一方で食品衛生法は、厚生労働省が管轄しています。 主な内容は、残留農薬基準の設定、食品検査、輸入・販売の規制です。つまり、食品衛生法は、流通・販売段階での安全確保を中心とした法律であることが分かります。
このように、農薬には様々なきまりがあり、各段階でチェックされ、作物は私達のもとに届くのです。
「きまりはどのように設定されているの?」
きまりの基準には、主に3つの数値があります。
1無毒性量
実験を行い人体に悪影響が認められなかった量
2許容一日摂取量
毎日摂取しても問題がないとされる量 (食品安全委員会が設定)
3最大残留基準値
農薬が残留しても問題のない最大上限値 (厚生労働省がこの数値から残留農薬基準を設定)
これらの数値をもとに農林水産省が農薬使用基準を定めています。 これらは、様々な実験を通して決められています。
〈数値の決められ方〉
①実験で、実際に農薬をネズミなどの動物に与えて異常の出ない量を調べます。
②実験のデータから人間に影響が出ない値を無毒性量とします。
③それを100(安全係数と呼ばれるもの)で割ったのが、1kg当たりの1日に人間が摂取しても安全な量(許容一日摂取量)です。
④さらに、その農薬が環境中に残る量を調べます。このデータから人体にも、環境中にも影響の少ない値(最大残留基準値)が決められます。
三森国敏「農薬は安全なのか」、食品の安全を守る賢人会議『食品を科学する』、大成出版社より作成
このように農薬の使用できる上限量は、人間に害が及ぶ可能性がある量の100分の1と決められています。さらに残留する量は、使用される量よりも少ないので、私たちが口から摂取する可能性のある量は、わずかで、人間に影響を及ぼす量ではありません。
しかし、計算方法がわかっても、実際にどの程度厳しく基準が設定されているか実感しづらいと思います。
そこでもしも私たちが普段から食べている食品の安全性を農薬の基準で評価するとどうなるか見てみましょう。
畝山智香子『ほんとうの『食の安全』を考える』より作成
まずは許容一日摂取量をタマネギで求めてみた表を見てください。本来許容一日摂取量は農薬や食品添加物のみで出され、一般の野菜では定められません。しかし仮に求めてみると一日あたりの許容摂取量は約25mgとなりほとんど全く食べれなくなってしまいます。このように食品そのものよりも付加される物の安全基準はとても高いことが分かります。さらに農薬ではこの数値から最大残留基準値を出すので更に少ない量となります。
ここで、最大残留基準値も出したい所ですが、タマネギは農薬ではないので残留しないため求めることができません。 そこで次にジャガイモの例から、残留基準値を求めた表を見てください。ジャガイモにはソラニンなどの有毒な物質が含まれています。表のように計算すると、ジャガイモの残留基準値は、8ppmとなります。これが、もしジャガイモが農薬だったら設定されている基準値です。しかし、実際にジャガイモに含まれているソラニンの量は90-320ppmで基準を大幅に上回っています。このようなことからも、残留農薬の基準の方が食品そのものよりも安全基準の設定が厳しいことが分かります。
普通の食品を例に数値を出して比較してきましたが、少しは農薬の基準の厳しさを実感できたでしょうか?