人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)

人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem) 今回、私達は人工光合成化学プロセス技術研究組合さんにお話を伺いました。このページでは、取材を通してわかったことをまとめています。

概要

この組合は平成24年、10月3日に設立されました。 この組合が行っている事業の内容は、二酸化炭素と水から、太陽エネルギーを利用し、プラスチック原料などの基幹化学品を製造する、革新的な触媒の開発やそのプロセスの基盤を確立する、というものです。

組合設立の目的

実用化の方向性


取材内容

エネルギー変換効率の向上 エネルギー変換型の固体光触媒については、1960〜1970年代には、二酸化チタン光触媒で、水が水素と酸素に分解されることが知られていました。しかし、エネルギー変換効率は微々たるものでした。酸化チタンはバンドギャップが広く、太陽光の全エネルギーのうちの数%の紫外光しか吸収できないのです。太陽光を効率よく水素に変換するために、新たな光触媒を開発しなければなりません。ここで2つのポイントが重要になります。1つ目は「可視光まで吸収可能であること」2つ目は「吸収した光を効率よく水素へと変換することが可能であること」。しかし、2000年以前は、科学的に安全かつ可視光線まで吸収可能な光触媒は存在しませんでした。

NEDO人工光合成プロジェクト

このプロジェクトは2012年〜2021年まで行われていたプロジェクトのことです。
研究目的 太陽光エネルギーを利用して、
1.光触媒によって、水を、水と酸素に分解
2.分離膜によって、水素と酸素の混合ガスから水素を安全に分離
3.水素と工場排ガス等から取り出した二酸化炭素を原料として、基幹化学品であるC2〜C4オレフィンを製造する基盤技術を開発する



可視光下での水の完全分解による水素製造



100%に近い量子収率で水を分解する光触媒を開発(2020)
この研究によって”100%に近い量子収率で水分解は実現できる”ということが世界で初めて実証されました。代表的な酸化物光触媒であるSrTiO3にRh/Cr2O3からなる水素生成助触媒とCoOOHからなる酸素生成助触媒を光電着法により担持すると、従来と含浸法に比べて水分解
CIS/ナノロッドTa3N5 タンデムセル(2023)
宮崎大学は、人工光合成化学プロセス技術研究組合、東京大学、産業技術共同研究所、信州大学との共同研究により、太陽光を利用して、水を高い効率で分解して酸素を生成できる赤色透明な光電極の開発に成功しました。ナノロッド状の窒化タンタル光電極の特徴は、赤色透明です。開発された窒化タンタル光電極と水素生成用電極を接続した二直列CuInSe2太陽電池を組み合わせることで、2段型の水分解用タンデムセルを構築し、世界トップレベルの太陽光ー水素変換効率10%を達成しました。

最初の試験用光触媒パネル


このガラス窓に大量生産された窒化タンタル光触媒の粉を塗ります。これは「光触媒パネル」と呼ばれ、2019年に軽井沢で、20201年には首相官邸でパネルを用いた水分解を実演しました。


また、2021年には、25×25cmのパネルを1600枚作り、合計100平方メートルでのフィールドテストが実施されました。そこでNEDOは高い評価を受けました。
分離膜
ここからは、水素を安全に分離することのできる分離膜を紹介していきます。 この分離膜では、分子ふるい効果により、サイズの小さい水素のみを選択的に透過させることが可能となります。

現在は、水素の透過量が大きく、酸素に対する水素の選択比が大きい材料を開発中です。 (ゼオライト膜、シリカ膜、炭素膜)

ソーラー水素製造法の特徴

この内、②Zスキーム光触媒シート③単一光触媒シートなど、低コストで光合成が可能なシートでの変換効率が5〜10%に向上すれば、社会実装可能なイノベーションとなり得ます。
CO2回収技術
ここからは近年注目度が高まっている二酸化炭素を回収する技術、「DAC(Direct Air Capture)」について説明していきます。 DACとは、日本では「直接空気回収技術」とも呼ばれています。簡単に言うと、大気中から二酸化炭素を分離して回収する技術のことをいいます。大気中の約0.4%という微量の二酸化炭素を取り出すため、固体や気体に二酸化炭素を吸着、吸収させる、特殊な膜で分離して回収する、冷却してドライアイスにして回収する、など、様々な研究がされています。CO2を回収したあとに貯留するCSSと合わせて、DACとCSSをつなげてDACSSとも呼ばれます。 DACの技術は大きく分けて4つあります。



欧米では、化学吸収法及び化学吸着法の研究開発だけでなく、大規模な実証研究も進められています。日本では、化学吸着法や深冷分離法、分離する際のエネルギーが比較的少なくて済むと期待される膜分離法の研究開発が進められています。 DACの技術に共通する課題として、エネルギーコストの高さがあります。DACの装置に多量の空気を送り込むファンを稼働させるには多くの電気エネルギーが必要です。また、約0.04%しかない大気中のCO2を処理するために、他のCO2分離回収技術よりも強力にCO2と結合する材料が求められています。そのため、材料に吸収、吸着されたCO2をより多く回収するために、多くの熱エネルギーと電気エネルギーを必要とします。 スイスのベンチャー企業であるClimeworks社は、DACの商用化に成功していますが、回収に大量のエネルギーやコストがかかるという点が、本質的な問題点として指摘されています。

Fuel from the Sun : Artificial Photosynthesis

コンテストの概要
・主催:European Innovation Council (EIC)
・競技内容:太陽光と水と二酸化炭素を原料とする機能的な人工光合成プロトタイプ装置を構築し、3日間の運転により、利用可能な燃料を合成すること
・開催地:Joint Research Center Ispra(北イタリア、イスプラ)
・開催日程:2022年6月29日〜7月8日
・優勝賞金:5百万ユーロ
・22チームが応募。書類選考を通過した日英仏の3チームのみが現地競技(GLAND FINAL)に進出
・チーム
 フランス(CEA):水電解で水素を生成し、バイオメタネーションでメタンを合成
 イギリス(ケンブリッジ大学):ペロブスカイト型多層セルでsyngas製造
ARP Chemのシステム概要




受光面積を稼ぐために5m×5mの敷地のうち、5m×4mに光触媒パネルを隙間なく設置。 残りの部分に分離膜とメタネーション装置を設置。
大会3日間の運転状況
・3日間通して安定した運転を継続することができた
・初日は悪天候に見舞われたが、天候が回復すると自動的にメタン製造を再開するrobustなシステムを構築したことで、大きなトラブルにはならなかった。
・2日目、3日目は晴天に恵まれ、STH0.6%程度の安定したパフォーマンスを発揮した。
生成燃料の効果
水素濃縮システムの不調により、十分な設備調整を行うことができず、最大パフォーマンスとはいかなかったものの、評価の上で明らかにマイナスとなる要素なしに72時間の運転を継続し、無事に生成物評価まで終えることができました。
結果
イギリスチームとフランスチームの電子デバイスは構造が複雑で、数10cmサイズのデバイスしか作成できませんでした。それに対し、日本チームは、社会実装を志向した、大面積化が容易な光触媒シートを設計し、メートルサイズのシートを作成しました。これによって太陽光由来の燃料製造が可能であることを実証しました。2022年12月5日にブリュッセルにて本コンテストの受賞セレモニーが開催されました。ARP Chemは全NEDOプロジェクトにおけるソーラー水素技術の成果とCO2メタネーションの知見を組み合わせたシステムで挑み、優勝を収めた。

>取材:関西大学バイオ物質科学研究室