ホームへ
飼う前に へ移動買う前に へ移動Quiz へDiscussion へ

飼う前に チェックリスト

犬や猫が飼えなくなると

鳥・虫・魚を手放すと

ストーリー:オレはブラックバス

オレはブラックバス

「じゃあ、元気でがんばって!」
そう言って、男の子はぼくを川に放した。
釣った時は手をたたいて喜んでいたのにな。

オレはブラックバス。
おじいちゃんはアメリカ人…魚。
おじいちゃんはよくこう言っていた。
「オレが住んでいたミシシッピ川はな、ビックないいところだ。たくさんの仲間がいてよくパーティーなんかしたものだ。」
そして、ぼくは決まってこう言った。
「日本の方がいいに決まっている。水はこんなにきれいだし、つり人はぼくたちをもてはやす。ぼくたちは人気者だもん。」
おじいちゃんはぼんやり上を見つめて 「うーん、どうかな?もし、何か困った事があったら、太平洋を渡ってミシシッピ川に行くんだぞ。」
と、言っていた。
すっかり忘れていたおじいちゃんの言葉。


このまま忘れていたかったな。
男の子に放されるまで、おれは人気者だと思っていた。
いつだって釣り人は、
「やったぁ、ブラックバスだ!」
「これはいい形だ!」
仲間を釣上げるたびに喜んでいた。
オレは少し調子にのっていたかもしれない。
「仲良くしてよ。」
「ちゃんとすみわけを守ろうよ。」
「ぼくたちは、元からいるんだぞ。」
在来魚の言うことに耳をかたむけず、
「オレたちの方が強いんだぞ。」
と、ばかりにいばってきた。
実際にオレたちは、強かった。
どんどんすみかを広げ在来魚を追いやった。
強い者が勝つ。
あたり前の事じゃないか。
今では在来魚が減り、オレたちブラックバスが大きな顔をして住んでいた。


あの日、男の子に放されて、不思議な気持ちになった。
このオレをいらないなんて。
さらにその頃から、人間の態度がいっぺんした。
川の前の看板をふと見ると、こんな事が書いてあった。
「在来魚を守るために 外来魚を追い出そう!」
次々と仲間を釣上げる釣り人たち。
もうだれも、オレたちをかっこいいと思う
人はいなかった。
「やったぁ!十五匹退治したぞ。」
そんな声がひびいた。
在来魚たちはそんな様子を遠くから静かに
見ていた。
オレたちは外来魚だけど、日本で生まれ日本で育った。
オレの故郷はミシシッピ川じゃない。
ここで仲間を増やして暮らしていく!
この先もずっとずっと。
遠くの外来魚たちをにらみつけてやった。


ある日、オレは、釣り人にキャーキャーも てはやされる夢を見て、うっかり釣り針を くわえてしまった。
釣り針から逃げようと下へ下へもぐっていった。
しかし、はずれるどころか、ますます深くささった。

「助けて~。」
生まれて初めてオレは弱音を吐いた。
おじいちゃんの言葉を思い出したが、太平洋を渡って、ミシシッピ川に行けるはずがない。
終わりだ・・・。
そう思った時、釣り糸をかみ切ろうとしてくれる魚が現れた。
在来魚たちだ。
歯をこすり合わせ、血をにじませながらかみきってくれた。
釣り糸はプツンと音を立てユラユラ二・三回ゆれたあと、ゆっくりと」上がっていった。

「ありがとう。」
生まれて初めてオレは、お礼を言った。
在来魚たちは口々に言った。
「よかったね。」
「すみわけさえ守ってくれれば、仲良くできると思うよ。」
オレは何も言えず頭を下げたままだった。
「君たちブラックバスは何も悪くない。連れてきたのは人間だから。」

その夜、オレは川の仲間を集めて言った。
「ミシシッピ川はな、ビックないい所だ。
パーティーだってするんだぜ。」
そして、オレたちブラックバスは太平洋を
目指してゆっくりと泳ぎ始めた。

オレはブラックバス。
自分の意志で、ミシシッピ川を目指している。

おしまい (メンバーによる創作ストーリー)