2018年8月13日に私たちは国連大学へ訪問し、地球規模の水文学、世界の水資源の持続可能性に関する研究の第一人者である沖大幹先生にインタビューしました。
国連大学 〒150-8925 東京都渋谷区神宮前5丁目53-70
沖大幹先生は2006年より東京大学生産技術研究所(IIS)教授、2016年より国連大学副学長を兼務されています。水文学、特に気候変動とグローバルな水循環、バーチャルウォーター貿易を考慮した世界の水資源評価などがご専門です。
Q1:日本は経済力があるため輸入によって不足する水を補っていますが、アフリカの国のように日本ほど財力がない国はどのようにして不足する水を補っているのですか?
A1:水も経済力もない国は存在しません。人間が生きていくために必要な食料を生産する上で必要不可欠である水も、水の不足分を補う経済力もない地域には人は集まらず、そもそも国が存在できないからです。
Q2:仮想水を多く輸入することは悪いことですか?
A2:仮想水貿易において問題点は、輸入するものに見合った対価を払っているかどうかということです。食料を生産する時に、水を地下からくみ上げたり農地を開拓したりしているので、環境に影響を与えていると言えますが、それは自国で生産したとしても変わりません。重要なことは、輸入する食材を育てるために影響を与えた環境を修復するための費用を対価として払うことです。しかし、適正な対価が支払われているかどうかを知ることができないのが現状です。
一概に仮想水が多いことが悪いとは言えない。大切なことは、輸入する代わりに、その作物を生産してもらうことで生じる環境汚染を修復するための費用を対価として払っているかということ。
ウォーターフットプリントとは?(用語辞典へ)
ヨーロッパでは原材料の栽培・生産から廃棄・リサイクルまでのライフサイクル全体で、直接的・間接的に消費・汚染された水の量を図る概念のこと。
Q3:ヨーロッパではウォーターフットプリントにもとづいて、生産・消費の過程で使用する水の量が表示されている商品もあるそうですが、このように仮想水に対する取り組みが盛んなヨーロッパに比べて、日本ではあまりそのような取り組みが見られないのはなぜですか?
A3:大きく2つの要因があります。
1.消費者の意識が低い
買い物をする際、消費者が見ている情報は値段、内容量、賞味期限、カロリー程度です。たとえ、環境に関する情報が商品に書かれていたとしても、ほとんどの消費者はその情報を見ません。企業側も消費者が求めない情報を商品に載せません。
2.明確な基準がない
現在、仮想水における明確な国際的指標は存在しません。不明確な指標による掲示は混乱を招くため、導入が進んでいません。また同じ量の水でも、水が豊富な地域と水が不足している地域とでは価値が異なるため、指標を作ってもあいまいになってしまう恐れがあります。
仮想水の問題は企業や国の取り組みだけでは解決できず、私たち消費者側の意識を変えていくことも必要!
Q4:日本は食糧輸入を通して多くの仮想水を輸入しています。日本の自給率を上げれば仮想水は減らすことができますか?
A4:たとえ自給率を上げても、不作の年や災害があればその分収穫量が減り、他の地域から食料を運ぶ必要があるため、完全に自国だけで食料を賄うことはできません。自給率を上げるとともに、他国と互いに自国で生産できないものを輸出し合えるような良いパートナーシップを築くことが大切です。
仮想水は食料生産や貿易に大きく関わる問題なので、仮想水の事だけでなく経済状況や環境への負荷などのほかの面も考慮して活動を進めていくことが大切!
Q5:現在仮想水の問題に対してどんな取り組みが行われていますか?
A5:現在、スペインなどでは海水を真水に変える淡水化技術が行われているところもあります。しかし、海水を農業用水として使用できるまで塩分濃度を下げるにはお金がかかりすぎるため、この技術を用いて生産できる食料はメロンなど高価格で売れるものに限られてしまいます。また、海水と淡水が混じり合った汽水域でも育つ作物の開発や、水の使用量を抑えて食料生産を行う節水農業の開発なども進められています。
降水量などの統計は参考するときには、中国やアメリカなどの国土が広い国ではその中でも場所によって異なる。
水の不足は自然条件だけでなく経済状況や上下水道などのインフラ設備の不足によってもひきおこされているということ。