取材|Re-Architect

取材

私たちは専門的な知見を取り入れるため、田辺新一先生に取材しました。

田辺新一先生のプロフィール

田辺新一さん

田辺先生は早稲田大学創造理工学部建築学科で建築環境学を研究しておられ、省エネ性と快適性を両立した脱炭素社会の実現と、すべての人が心身ともに健康で充実した生活をおくるための研究を行っています。

私たちはこうした田辺先生の研究が私たちの研究をより深めると考え、田辺先生に

①各国で様々な再生可能エネルギーの手法が取り入れられているが、田辺先生はコスト、効率、導入の容易さなど、具体的な観点を踏まえた場合、現状の日本ではどのような手法が最も適していると考えているか。

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②日本の気候(高温多湿な夏や冬の寒さ)を考慮した住宅において、エネルギー消費を抑えつつ快適性を高める上で、田辺先生は「暑さ」「寒さ」「湿気」のどの要素への対策を最も重視されているか。

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③再生可能エネルギーを活用した家を今後日本でさらに普及させるためには、技術的な課題とは別に、どのような取り組み(例:政策的支援、コストの削減、国民の意識の改革など)が特に必要だと考えているか。

以上の3問を質問させて頂きました。以下は田辺先生に頂いた回答です。

①再生可能エネルギーとして日本で最も適した手法について

日本では、太陽光発電とヒートポンプの組み合わせが最も効率性の高い手法だと考えています。太陽光発電については、日本は平地が少ない国であり、平地面積あたりの太陽光発電容量はすでに世界一となっています。その一方で、山林を切り開いて太陽光パネルを設置するケースも増え、森林環境や景観の悪化といった課題が顕在化しています。したがって、今後は工場・ビル・住宅の屋根といった既存の建築物上の設置を最大限進めることが重要だと考えています。ただし、構造的な荷重の問題、屋根防水には注意が必要です。日本人研究者が発明したペロブスカイト太陽電池は、軽量でフィルム状にでき、建物への適用範囲が大きく広がる可能性があるため、今後の普及が大いに期待されます。また、太陽光以外にも風力や地熱は日本で重要な再生可能エネルギーであり、地域特性に応じた導入が必要です。

②日本の住宅における快適性と省エネの両立のために、特に重視すべき点について

家庭部門のエネルギー消費のうち、約4分の1が暖房に使われています。したがって、断熱性能を高めて暖房負荷を削減することが、省エネと快適性向上の両方に最も大きな効果をもたらします。冷房は全体の約3%と割合は小さいものの、近年の酷暑や海面水温の急激な上昇により、夏の暑さと湿度の問題は深刻化しています。いずれの季節においても、断熱、遮熱(特に夏の日射遮蔽)、外皮性能の総合的な向上が快適性と省エネルギーを両立するための基本であり、最も重要な対策です。

③再生可能エネルギーを活用した住宅を普及させるために必要な取り組みについて

ご指摘のように、政策的支援、コストの低減、国民の意識改革、いずれも重要であり、どれか一つでは十分ではありません。とりわけ日本では、新築戸建住宅の31%に太陽光発電が搭載されるようになり、国民の意識はこの10年で大きく変わってきました。政策支援や技術進展により初期費用が下がったことも、普及を後押ししています。今後は、既存住宅の断熱改修や設備更新を促す制度、太陽光・蓄電池のさらなる低価格化、快適性と健康性の向上を同時に実現する省エネ住宅の価値の周知が重要であると考えています。

取材のまとめ

田辺先生からご教示いただいた内容拝読し、太陽光パネルも設置場所によっては森林破壊につながりうるというご指摘から、環境破壊とコストの軽減の両立がいかに難しいかを改めて理解いたしました。 また、建築は環境配慮だけでなく、地域の特性に合わせたアレンジが重要であることに深い気づきを得ました。私たちは「環境に良い建築」ばかりに目を向けていましたが、どの地域に建てる家なのかまで考えて設計する必要があるという視点は、自分には欠けていたものだと痛感しました。 加えて、これまでの再生可能エネルギーだけでなく、断熱・遮熱性能の向上によって省エネルギー化を図るという視点は非常に新鮮で、大変参考になりました。