実験を続ける理由、研究の本質とは―――――コータローより
The source of knowledge is experience
この言葉は、僕がこれまで研究を続けてきた理由を表している、アインシュタインの言葉です。僕の将来の夢は宇宙飛行士。宇宙に行きたいという、強い想いがあったからこそ実験を続けています。
僕は現在、プロペラの研究をしています。プロペラと宇宙開発。この二つを繋げているのは流体力学という学問です。この研究をすることによって、少しでも宇宙開発に手を触れたいと考えていますが、どんな研究をするにあたっても、結局、その根底にあるものは、好奇心なのです。
身の回りに起こる不思議な現象を「なんで?」と思い、自分でもそれを経験してみることで好奇心を満たしていく。とにかく経験を重ねて、それを自分の糧にすること。これが、研究の本質だと思っています。
宙(そら)を目指す
2012年にコータローはTHE SPACE HANGOUTというJAXA
とgoogle が共同で行うイベントに参加し、当時国際宇宙ステーションに滞在していた星出彰彦宇宙飛行士と会話した事で、宇宙飛行士になるという夢を持つことになった。
コータローは一昨年にフロリダ州のケネディ宇宙センター、今年はヒューストンのジョンソン宇宙センターに行く機会があった。そこではNASAの技術者から夢を追いかけることの大切さを学んだという。
通訳などいない状況で英語力をフルに出し切って会話をしたが、彼らは拙い英語でも聞き取ってくれ親切にアドバイスをしてくれたのだ。その中でも、アポロ計画に携わっていたDavidは、「何かに躓いたら、なぜ自分にはできないのか、それを一生懸命考えることが大事だ」と話してくれた。それはコータローが実験をしていて、思ったような結果が出ずに自暴自棄になりかけた時に背中を押してくれる一言だという。
ディンプルにヒントを得てプロペラを考える(コータローさん)インタビュー
研究の目的
ゴルフボールには何故ディンプルが付いているのか?ディンプルの効果を学びプロペラの加工に応用すれば、扇風機の性能を上げ、省エネにつなげることができるのではないかと考えたのが、この研究を始めるきっかけとなった。プロペラは陸海空を問わず、幅広く活用されている。環境問題や省エネは、これからの時代を生きる上で避けられないテーマである。
この研究を進めることによって流れを理解し、省エネ、静穏、冷却効果の増大などに優れたプロペラの考案につなげていきたい。
研究の方法と結果
簡易風洞を自作して空気の流れを撮影し、
レイノルズ数を計算する
結果…簡易風洞の実験におけるレイノルズ数は、ゴルフボールとピンポン球に大きな差はなかったが、流れを撮影した実験では、ゴルフボールの「剥離」が遅れていることを可視化することができた。
5つの仮説に従って模型用プロペラを加工し、風速を計測し、流れを観察する
仮説@ プロペラにディンプルのような凸凹を付けることで、風速を上げられるのではないか。
仮説A 航空機や自然界をヒントに特殊加工をすることで、風速を上げられないか。
仮説B プロペラから放出される風は、プロペラの表面積が減ると少なくなるのではないか。
仮説C プロペラの加工を曲線にすれば、その線に沿って空気が流れ、強力かつ広範囲に風を送れるのではないか。
仮説D 仮説@で加工したプロペラよりも凸凹(溝)を浅くすること
で、空気抵抗が減り、風の直進性、拡散性ともに向上するのでは
ないか。
詳しくはこちら(図の拡大) uchuu-din.pdf へのリンク
グラフからもわかるように、各地点で複数のプロペラがノーマルプロペラの風速を超えた。30pではエッジに切れ込みを入れたF,50p地点では両面に浅い縦溝を掘ったO-cとP-aは、どの地点でもまんべんなく風速が大き く、目的にあったプロペラを考える際のヒントになると考えた。
流れを見ると、大きい風速を記録したプロペラは、いずれもプロペラから風が吐き出された時の
直進性が強い。50p・70p地点でも大きい風速を記録したプロペラは、風の勢いが遠くまで持続していることがわかる。一方、風速が小さいプロペラは、煙がすぐに
拡散し、直進方向に勢い良く風が届いていないことが読み取れる。
研究の方法と結果B
計測した風速をもとに、プロペラが送り出す風の風量を求め、プロペラの性能を数値化する。
結果
右上のグラフは、すべての地点の風量がノーマルを超えたプロペラの風量を示したグラフである。30p地点の風量は、表面をヤスリでこすったD-aが最も多かったが、D-aは70p地点の風量が少ないため、グラフには入っていない。風量の計算にはx軸だけでなく、z軸の風速も使用するため、1地点の風速が大きいだけでは風量は多くならない。どの地点でもまんべんなく風量が多くなったのは、浅い縦溝を裏面に掘ったO-bと両面のO-c、浅い横溝を両面に掘ったP-cだった。
実験中
@風速・風量が大きいプロペラの表面で、何が起きているのか?煙法による可視化に取り組む
ディンプルや浅い横溝は加工した溝や穴に沿って煙が流れ、プロペラから空気が離れる地点に渦ができている
のがわかる。この実験によって、風速・風量を上げるためには、どのように空気が流れれば良いのか見極めたい。
A 出力(風速)だけでなく、入力(電力)も計測することで、プロペラの効率を考える。
Bプロペラの裏(吸い込み側)と表(放出側)の空気の流れの関係を実験によって解明する。
考察
○ 風量の計算にはz軸の数値が関係している。風量を増やすためには直進性だけでなく拡散性も必要なのではないか。
○ 直進性の溝を掘ったプロペラは、プロペラから距離が離れるほどに風速が小さくなるが、曲線の溝を掘ったプロペラの中には、風速の減少があまり見られないものも存在した。これより、曲線を用いた加工の有効性を考えるべきだと思った。
○ 30p地点ではノーマルプロペラと加工プロペラの風速に大きな差はないが、プロペラからの距離が遠いほ ど、加工プロペラの風速が上回った。これより、遠くにも風を受けたい扇風機などにおいては、プロペラ表面へ の加工が有効なのではないか。
○ プロペラ表面の撮影により、風速を上げるためには空気がどのように流れれば良いかが見え始めた。この点を追求し、流れと風速の関係を解明したい。
○ この研究によって、プロペラ表面に適切な溝を掘ることにより、加工しないプロペラよりも風速、風量ともにアップさせることが可能なことがわかってきた。さらに研究を進め、省エネ・環境保全につながるプロペラを追求していきたい。
上記の記事は2015年11月にコータロー様(取材時高校1年生)より取材しました。