健康被害問題

日本では、5Gの利点ばかりが宣伝され、健康へのリスクについてはメディアなどでもほとんど話題になっていません。しかし、世界に目を向けると、ベルギーなどの一部地域では反5Gの抗議デモが行われ、5Gの導入が一時停止するほど、5Gの健康へのリスクに関して議論になっています。

5Gによる健康への影響で主に懸念されているのは周波数の高い「 ミリ波 ミリ波 30~300GHzの周波数の電波のこと。 」です。ここでは5Gの ミリ波 ミリ波 30~300GHzの周波数の電波のこと。 に対する健康上の懸念をできる限り客観的に見ていきたいと思います。

結論から言うと、5Gが癌などの健康被害の原因になるという根拠はほとんどないのが現状です。

危険な電磁波

健康被害を考えるうえで重要になるのが「周波数」です。電波、 可視光 電磁波の一つ。一般的には紫外線・可視光・赤外線の三つの電磁波の総称とされます。 紫外線 紫外線 電磁波の一つ。周波数は電波の周波数よりは高く、可視光より低い。 などはすべて「 電磁波 電磁波 電場と磁場の変化が連鎖的に伝わる波のこと。 」の一部で、周波数の違いによって分類されます。

電磁波 電磁波 電場と磁場の変化が連鎖的に伝わる波のこと。 のうち周波数の高い「電離放射線」にはX線やガンマ線があります。これらの電磁波はエネルギーが非常に大きく、DNAを損傷するため、発がん性があることが分かっています。

一方、周波数の低い「非電離放射線」には5Gで使用される ミリ波 ミリ波 30~300GHzの周波数の電波のこと。 のほか、 可視光 電磁波の一つ。一般的には紫外線・可視光・赤外線の三つの電磁波の総称とされます。 赤外線 赤外線 電磁波の一つ。周波数は電波の周波数よりは高く、 可視光 電磁波の一つ。一般的には紫外線・可視光・赤外線の三つの電磁波の総称とされます。 より低い。 などが含まれます。非電離放射線は電離放射線よりもエネルギーが小さく、人体への影響は少ないといわれています。ただ、非電離放射線の人体への影響についてはまだ解明されていない点もあります。

メンバーが制作

総務省の見解

日本の 総務省 総務省 日本の行政機関の一つ。日本の社会を支える基本的なシステムを管理しています。 が認めている、携帯電話の電波が与える人体への影響には「熱作用」があります。

熱作用 電波が人体にあたると一部が吸収され、そのエネルギーが熱に変わります。それによって人体の体温が上昇することを熱作用といいます。電波の吸収量が多すぎると、体温上昇によるストレスが発生するなど、人体に有害な影響が表れる可能性があります。
非熱作用 熱作用以外の未知の作用を非熱作用といいます。 総務省 総務省 日本の行政機関の一つ。日本の社会を支える基本的なシステムを管理しています。 は2018年の報告書で非熱作用について、「健康に好ましくない影響 を示す科学的根拠は確立されていない。」[1]としています。ただし同書で、「この未知の作用 による影響が存在する可能性を指摘する研究結果も、限定的ながら報告されている。そのため、熱作用・刺激作用以外の作用の有無について、現在でも世界中で科学的な検証が積み重ねられている。」と述べているため、非熱作用の存在を完全に否定したわけではありません。  

日本では、熱作用から人体を守るために、 総務省 総務省 日本の行政機関の一つ。日本の社会を支える基本的なシステムを管理しています。 が「 電波防護指針 電波防護指針 総務省が定める、電波の人体に対する安全性の基準。 」という規制を設けています。電波の強さの基準値が定められていて、 携帯電話基地局 基地局 インターネットなどのデータを電波に変換してスマホなどに送信するための施設。 などはこの基準値を満たしたものでないと設置できません。この規制は国際的なガイドラインに沿ったもので、基準値を守っていれば安心して携帯電話を使用できるとしています。また、5Gの登場を踏まえ、2018年には高周波数(6GHz~300GHz)について改定されています。さらに5Gについては、 総務省 総務省 日本の行政機関の一つ。日本の社会を支える基本的なシステムを管理しています。 の広報資料で「5Gでは比較的高い 周波数帯 周波数帯域 電波の周波数の範囲のことを周波数帯域と言います。 の電波が使われますが、人体に及ぼす作用が変わるわけではありません。」[2]と述べられています。

WHOの見解

WHOは、2014年に更新した電磁界と健康についてのファクトシートで、「携帯電話が潜在的な健康リスクをもたらすかどうかを評価するために、過去20年間に多くの研究が行われてきました。現在まで、携帯電話の使用による健康への悪影響は確認されていません。」[3]との見解を述べています。また、15年以上の期間にわたる長期的な影響に関するデータが不足しているため、WHOはさらなる研究を推進していくと述べています。

[3] World Health Organization (WHO). Electromagnetic fields and public health: mobile phones(メンバーが翻訳)(参照 2020-10-22) https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/electromagnetic-fields-and-public-health-mobile-phones

ムクドリ大量死事件

2018年11月「オランダのハーグでの5G実験中に数百羽の鳥が死亡した」という内容の投稿がSNSで拡散され話題となりました。しかし、フェイクニュースの検証を行うアメリカの「 Snopes Snopes.com フェイクニュースや都市伝説などの事実検証を行うアメリカ合衆国のオンラインサイト。 」は5Gによる ムクドリ ムクドリ 鳥類スズメ目の科。多くの種が群れで生活し、果実や昆虫を餌にします。 大量死について、「False(誤り)[4]と判定しています。

Snopes Snopes.com フェイクニュースや都市伝説などの事実検証を行うアメリカ合衆国のオンラインサイト。 によると、オランダのハーグにある公園で337羽の ムクドリ ムクドリ 鳥類スズメ目の科。多くの種が群れで生活し、果実や昆虫を餌にします。 と2羽のハトが死亡しているのが発見されたことは事実です。また、公園の近くの地域で5Gの通信テストが行われていたことも事実です。しかし、決定的な矛盾は、それぞれの出来事が起こった期間が一致しないということです。鳥の大量死は2018年の10月~11月にかけて、5Gの通信テストは4か月も前の6月に行われています。これらは、全く関係のない事実を結び付けたデマだと考えられます。

[4] Snopes.com. Did a 5G Cellular Network Test Cause Hundreds of Birds to Die?(参照 2020-11-5) https://www.snopes.com/fact-check/5g-cellular-test-birds/

新型コロナウイルス感染拡大は5Gの影響!?

「5Gの電波が人間の免疫システムを抑制し、新型コロナウイルスの感染を拡大させている」という内容の陰謀説がSNSなどで次々に投稿されました。アメリカのABCニュースによると、2020年4月には、その陰謀説をもとに、 5G基地局 基地局 インターネットなどのデータを電波に変換してスマホなどに送信するための施設。       の破壊を扇動する投稿がFacebookで出回りました[5]。実際に、イギリスでは5Gの電波塔が放火される事件が複数発生しました。しかし、電波が免疫を抑制するという主張の証拠は全く存在しません。この説は全くのデマと言っていいでしょう。

[5] ABC News. Feds warn of attacks related to bogus COVID-19 conspiracy theory(参照 2020-11-6) https://abcnews.go.com/US/feds-warn-attacks-related-bogus-covid-19-conspiracy/story?id=70721145

まとめ

このように、今のところ健康に影響があるという明確な根拠はありません。しかし5Gが全くの無害であると証明されたわけでもありません。5G ミリ波 ミリ波 30~300GHzの周波数の電波のこと。 と人体の関係については、これからまだまだ研究・調査が必要とされます。私たちも新たな情報に注視する必要があります。

このページの制作にあたり、私は電波の人体への有害性を前面に訴える書籍をいくつか読みましたが、どれも 電磁波 電磁波 電場と磁場の変化が連鎖的に伝わる波のこと。 に関する専門的知識を持たないジャーナリストなどが著したものでした。世の中には、新しいものに対して漠然とした不安を感じ、根拠のない情報を広めようとする人がいます。逆に、お金のために、人々に不利益な情報を隠し、有益な情報だけを宣伝する人もいるかもしれません。情報があふれる現代で、一つの考え方に偏るのではなく、様々な立場の人の意見を聞き、自分自身で吟味して判断する必要があります。