2-12. 圧力と気圧(2)
先生 さて、圧力の単位だけれど、さっきもちょっと話した『パスカル』。
この言葉、聞いたことがあるかな?
柚莉亜 『ぱすかる』?天気予報とかによく出てくる奴じゃなくて?
一弥 いや、それはヘクトパスカル(hPa)です。パスカルってのは、人の名前ですよ。
先生 その通り。パスカルという単位は、17世紀の物理学者・数学者・哲学者である、パスカルにちなんで名づけられているんだ。彼は……
一弥 確か有名な言葉がありましたよね、『人間は考える葦である……』でしたっけ?
先生 お、そのとおり! 一弥君よく知っていたね。
それに、柚莉亜ちゃんの言うとおり、実は天気予報のとき『○○ヘクトパスカルの低気圧が~』なんて使われている[hPa]は、『100Pa』のことだよ。
先生 低気圧とか高気圧とか、気圧って何かというと、『空気の圧力』なんだ。
先生 気体は、とてもたくさんの目に見えない小さな小さな粒である『分子』で出来ている。
そしてそれらはとても速く飛び回っているんだ。知っていたかな?
一弥 はい。
先生 飛び回っているからぶつかるよね。そこらのもの何にでも、あらゆる向きからぶつかる
半端じゃなく多い、それらから受けた力を、全部合計してみると面に垂直なんだけれどね。
だから、物体は気体から1[m^2]あたりに、どのくらいの"ぶつかった時の力"を受けているのか、 っていうのも圧力で表すことが出来るんだ。
分子の動き
先生 この気体の圧力は、その体積を縮めれば縮めるほど、また、温めれば温めるほど大きくなるという性質がある。 何でだかわかるかな?
柚莉亜 ……わかんないです。
先生 縮めるということは、分子が容器の壁にぶつかる機会が増える、つまり狭い所を大勢で走り回ると何度もぶつかるんだ。
先生 また、『熱力学』という分野で研究されているけれど、その気体の温度は分子の運動の速さによって決められているんだ。
だから、"熱い"="素速く動いている"ほど分子はたくさんぶつかるんだよ。
先生 そして、普通の空気の圧力は『大気圧』と呼ばれている。
その大きさは、『低気圧』が来たり『高気圧』が来たりすると変わるし、上空は空気が薄いので小さくなるけれど、
海面の高さでだいたい1013.25[hPa]というのが標準大気圧として決められている。
柚莉亜 それじゃ、それより気圧が高いと高気圧、で低いと低気圧ということになるんですね。
先生 いや、実はそういうわけでもなくて、例えば周りが1030[hPa]で、その中に1015[hPa]の場所があったなら、そこは低気圧、というように比較して決められているんだけれどね。
柚莉亜 じゃあ、場合によっては965hPaでも高気圧ということもあるんだ……。
一弥 ……965hPaだと台風になりませんか?
柚莉亜 そうじゃなくて、周りが全部、945hPaとか、930hPaとかの猛烈な台風に囲まれていて、その中で言うと気圧が高いことになるよね……。
一弥 普通に考えて、それはありえないのでは……?
先生 はいっ! いいかな?
先生 1013.25[hPa]=1[気圧](国際的には[atm])といったように、[気圧]という言葉は単位としても用いられるんだよ。
注意しなくてはならないのは、空気の分子があらゆる向きに動いていて、あらゆる向きからぶつかるという理由で、 物体は大気から上下左右どの向きにも同じだけの力を受けるということなんだ。
大気圧
先生 さて、大気圧は1013.25hPaと言ったけれど、これがどのくらいの大きさなのか計算してみよう。
先生 さっきも言ったように、1hPaは100Paだよ。
柚莉亜 えっと……1hPa=100hPaだから……。
一弥 単位にパスカルを用いると101300[Pa]ですね……。
柚莉亜 あうぅ、計算遅かった~。
先生 ということは、1[m^2]あたりに……。
一弥 ……大体100000[N]以上の力が掛かっていることになりますね。
先生 そのとおり。1[m^2]=10000cm^2だから、1[cm]角の正方形あたりに約10[N]受けていることになる。
先生 10[N]というと、『重さ(重力)[N]=9.8×質量[kg]』だったから、なんと質量1[kg]の物体の重さと同じくらいになるんだ。
柚莉亜 それじゃ、それが手のひらとかもっと大きいものになると、もっと力を受けていることになるよね?
先生 そうだね。手のひらを10cm×15cmとすると、150kgの人が乗っかっているようなものなんだ。
一弥 丁度僕が三人乗っかっていることと同じになるんですね。
先生 それでも、なぜ地上の物体は空気につぶされないのか、というと、 簡単に言ってしまえばその力の分と同じだけ、中からも押しているからなんだよ。
柚莉亜 わたしたち自身がそんなに押してるんですか?
先生 そういうことになるね。地上にあるものは押しつぶされないようにはじめからなっているんだ。
逆に、周りから自分を押してくれないと生活できない。
飛行機の中とか、少し気圧が低くなるんだけれもど、耳が痛くなったりしないかな?
一弥 よくあります。
先生 地上にある物体のなかには、周りからの大気圧が無くなると、中からの圧力のせいで破裂してしまうものもある。
柚莉亜 ……でも、そもそも飛行機の中ってなんで気圧が低くなっちゃうんですか?
先生 地表での大気圧1013hPaは、それより上の空気の大気圧が全部プラスされている値なんだ。
上空に行けばそれより上の空気も減るでしょ?それに上空は空気が薄くなる……つまり、空気の分子の数自体が減る。
そういうわけで上空は大気圧が小さいんだ。
飛行機の中の気圧が高いままで、中からの圧力が機体を傷めるもとになると困るので、内部の気圧を少し下げておいてあるんだよ。
柚莉亜 そうなんだ……。
先生 さて、それとは逆に、中からの圧力が無くなって、外から大気圧がかかったままだとどうなるか、を実験してみよう。
先生 まず、缶に水を入れる。それをバーナーで熱して中の水を沸騰させる。すると、缶の中は水蒸気だらけになるよね。
一弥 最初にあった空気はどうなるんですか?
先生 それが、多くが水蒸気に追い出されてしまうんだ。水蒸気は冷えるとどうなるか知っているかな?
柚莉亜 えーと……。
一弥 水になりますね。
先生 すると体積は?
一弥 小さくなります。
先生 そう。状態変化を起こして1/1700に小さくなってしまうんだ。
さて、その熱した缶の口を、水につけてみる。
そうすると、缶の中の水蒸気は一気に水になって、缶の中の気圧はとても小さくなるんだ。
この時、その隙間を埋めようとして何かが入ってくればいいんだけれど、水が吸いあがっていっぱいになるには時間がかかりすぎる。
缶の中から外向きの気圧が小さくなると、1013hPaで外から押される力だけになってしまうので、缶はどうなるか? という実験だ。
柚莉亜 すごい勢いで凹んじゃったね。
先生 そうだね。
先生 また、吸盤が張り付く理由も、大気圧が押しているからなんだよ。
柚莉亜 でも、吸盤の中と外とで同じだけの力で押してるんじゃ、くっつかないよね。
先生 吸盤は、くっついている面との間に気圧の低い部屋を作ろうとする形になっているんだ。
先生 だから、内側から大気圧を押し返す力は弱いので、壁との間に挟まれるんだよ。
柚莉亜 押し返す力より、押される力が強いから、正確には"くっついている"じゃなくて、"周りから押されている"ってことになるんだ……。
先生 そうだね。
先生 さて、話は変わるけれど、次に気圧ということで、『なぜ膨らませた風船の口を結ばず手を離したとき、空気を噴出して飛ぶのか』を考えてみようと思う。
先生 風船の中は気圧が高いよね。
先生 それで口が開いているとなぜ飛ぶんだろう?
一弥 気圧は、高いほうから低いほうに向かって進むという性質があることを聞いた事があります。
ですから、例えば天気図でも、気圧の高い方角から低い方角に向かって風が吹くと……。
先生 空気が進んだだけでは風船は押されないよね。
さっき言った、『あらゆる向きに同じ大きさ』というのがポイントだね。
風船
先生 上下左右にはお互いつりあっているのだけれど、進行方向には前に押す力しか働かないから。
というのが風船が飛ぶ理由なんだよ。
先生 それと、圧力を図にするときは分かりやすくするために、受けている面に矢印の先端をくっつけて表すことが多いので、注意してね。
まとめ

・物体が単位面積あたりに受ける力の大きさを圧力といい、[N/m^2]のことをパスカル[Pa]という単位で表す。

・単位面積あたりの『気体の分子がぶつかって受ける力』も圧力。

・空気の圧力は大気圧という。

・標準大気圧は1013.25[hPa]であり、あらゆる向きにはたらく。

・標準大気圧の大きさは圧力の単位になっていて、[気圧]と表す。

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