ミスリーディング

事実を用いて情報の受け取り手に誤った印象を植え付けるもの。事実を述べてはいるものの表現方法の工夫により読者の印象を操作する、また読者に誤った事実を信じ込ませることなどが分類される項目です。
 直接的に、誤った情報や事実と異なる情報、嘘の情報を使用しているわけではないため完全な嘘のニュースというには遠いですが、読者が誤った情報を得る可能性が高いという点で注意すべきニュースです。

日本における事例

「ミスリーディング」というものは、たとえ記事の内容が印象を操作するようなものであったとしても、基本的には記事を読んだ情報の受け取り手個人に引き起こされるものです。そのため、その記事が本当にミスリーディングな記事かどうか根拠を示すには、多くの人の意見をアンケートするなどの手間のかかる手法を取らないと難しいでしょう。今までにも恐らく多くのミスリーディングな記事が作られ被害を与えていましたが、そのため にはっきりとミスリーディングだと言える記事は少ないです。今回の事例は、具体的に「ミスリーディング」という単語が用いられはっきりとそう非難された稀有な例であると言えます。

< 大企業が顧客の不安を煽る記事をミスリーディングな内容だと直接記者を非難した事例 >

 記事に話題を取り上げられた企業や個人が記事の内容に苦言を呈す、または記事を書いた社に苦情を入れる。少なくとも日本ではそういったことを日常的にニュースなどで見聞きすることが出来、今までにもそういったことが多くの機会に行われてきました。しかし、その中でも、記事を書いた本人、社の中の個人について企業が言及することでは稀であることから、その記事は企業の怒りを強く買った数少ない事例であるとも言えます。
「楽天、出店企業に顧客情報…中止表明後も1件10円で」(「livedoorNEWS」より引用)
10年前、読売新聞社がこのようなタイトルで新聞へ記事を掲載しました。内容は、インターネットショッピングなどを扱っている企業、楽天がそのサイトを通じて顧客のクレジットカード情報やメールアドレスなど個人情報を抜き取り、他企業に提供したというもの。その記事の中で、著者である新聞記者はこの事例を問題視しており、実際、この記事を読む限り、主観からの感想としては楽天が顧客に無断で情報を抜き取っている、つまり何かしらの不正を犯していると捉えることができてしまいます。
 しかし、この話はそう簡単に終わりません。確かに、楽天が個人情報を顧客から回収したこと自体は紛れもない事実。けれども、楽天が行っていたことは、やむを得ない事情のある企業9社に、限定的かつ厳格に取り扱った情報を提供していることのみ。少なくとも楽天が不正を犯した、という印象は誤っていたということがわかります。そもそも、楽天はサイト内でインターネットショッピングの利用者に注意喚起を掲載しており、顧客に無断で情報を抜き取っている、という印象は全くの誤り、ミスリーディングを引き起こされたものでした。当然、無断で抜き取った、という印象は主観で述べたものであり、記事にそのような事実があるわけでもありませんし、ミスリーディングさせやすくする文章だと断定するには根拠が足りません。しかし、それでも、この記事は多くの人がそう感じてしまうような記事であると、実際に抗議の声が上がっています。

楽天
楽天本社ビル /“写真AC”より引用
この記事が掲載された後、楽天は自社サイトにてこの記事へ向け抗議文を掲載しました。内容は上記の様に、記事の内容を否定し、やむを得ない事情のある企業のみ渡していることと個客に注意喚起を行っていることを述べるもの。そして注目すべき点として、楽天はこの抗議文の中で直接この記事を「ミスリーディングな記事」と批判しています。冒頭にも述べた通り、ミスリーディングな記事か否かの判断は個人の主観が大きく混じるものであるため断定が難しいものであり、それでもミスリーディングな記事だと述べた楽天はこの記事を大きく問題視していると言えます。また、楽天はその抗議文の中で新聞を発行した社だけではなく直接その記事を書いた記者の名前を挙げて批判していることもその根拠となるでしょう。ミスリーディングな記事は、基本的に事実しか述べていないことから被害の小ささ、事態の非重要さを想像されますが、実際には悪意の有無に関わらず大企業の怒りを買ってしまうほどの影響を引き起こす可能性さえあります。

海外における事例

フェイクニュースは、時に意図せず作り出されてしまうこともあります。そしてその可能性があることで、その情報が悪意を持って作られたものか否か判別する必要が生じます。特にミスリーディングという項目に関しては、事実をもとにして作られるために、ただ言葉足らずで作られたものなのか、それとも最初から情報の受け取り手の印象を操作する目的で作られたかによってそのニュースへの見方が大きく変わるため、判別が難しいです。

< アメリカの報道官の発表と実際の空母の行動が異なっていた事例 >

 一般的に、「国家」としての発表が少しでも嘘を孕んでいる、つまりフェイクニュースであるということは殆どないでしょう。発表は多くの人が吟味して考えたもので、国民や他国からの信用を失うわけにもいかず、なにより嘘をつく理由がありません。故に、その発表を疑う人はいないでしょう。しかし、そんな国家からの発表でも、意図せずフェイクニュース、特にミスリーディングであったと受け取られてしまうこともあります。そして、正しいと信じ込まれている「国家」という存在からのミスリーディングは多くの影響を引き起こしてしまいます。
 今からおよそ4年前のこと、アメリカ海軍は、航空母艦カールビンソン(Carl Vinson)号がシンガポールから北上し西大西洋に向かうよう命令されたと発表しました。当時、北朝鮮が核実験の兆候を見せていたことから、アメリカがカールビンソン号を北朝鮮に圧力を加えるため送ったと解釈され、朝鮮半島を中心に緊張状態を引き起こしました。実際、当時の大統領、トランプ氏もそれを示唆する発言をしています。しかし、その発表とは裏腹に、カールビンソン号はその後西太平洋とは逆方面のインドネシア方面に向かい、暫くインド洋に留まっていました。

空母
空母イメージ /“PIXADAY”より引用
 これだけを見ると、インドネシアに向かう事を偽ってアメリカは発表した、つまりアメリカがフェイクニュースを公表したとみることが出来ます。実際、アメリカ国内外でこの件の波紋が広がっており、アメリカの報道官がこれに答える事態になりました。それに対して、当時のアメリカの報道官であるショーン・スパイサー氏は、艦隊が朝鮮半島に向かっていることは事実だが、すぐに向かうとは言ってはいない。早く向かってはいないが、朝鮮半島に事実上向かっているという趣旨の回答を行いました。
 これを受け世論は、この発表はフェイクであり、ミスリーディングを引き起こす悪質なものであると批判しました。実際、当時のネット上の記事ではその意見が多々見受けられます。多くのその記事の中では、アメリカが作為的に悪意をもってミスリーディングを引き起こすような発表を行ったとされています。しかし、冒頭の通り、「ミスリーディング」という項目はフェイクニュースの中でも、悪意を持って作られたか否かの判別、さらにはそもそもそれがミスリーディングを引き起こすか否かの判別がかなり難しいものです。実際、確かに発表の内容は朝鮮半島にすぐ向かう、と受け取りやすいものですが、報道官が主張した通り、発表された事柄は全て事実であることも間違いありません。ただし、例え作為的であろうとそうでなかろうとこの発表が多くの人を混乱させたのは事実であり、可能であれば避けるべきことであったのは間違いありません。

まとめ

 

事例を挙げた説明の中で述べた通り、「ミスリーディング」という項目の最も特徴的な点は、判別が難しいこと。個人の主観によって判断が異なり、また何より嘘を付いている訳ではない場合が多いため、悪意の有無やミスリーディングか否かを断定することは出来ません。故に、ミスリーディングな記事と呼ばれているものでも、それらの境界が曖昧であり、影響や被害の少ないものも存在します。しかし、それでも少なからず被害を被っている情報の受け取り手は存在するため、情報を開示する側としては可能な限り避けるべき行為であることは間違いありません。また、影響や被害の少ないミスリーディングなニュースも存在すれば、反対に影響力の大きなニュースも存在します。そのようなニュースは時に、日本における事例の様に、多くの人々や規模の大きな団体の怒りを買ってしまう程大きな事態を引き起こしてしまうまでのミスリーディングを引き起こされる場合があり、情報を開示する側、受け取る側ともに注意が必要です。

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