風刺・パロディとは

フェイクニュースにおける風刺・パロディとは、ユーモアをもって嘘の物語をあたかも真実のように表現しているもののことを指します。他の例とは違って、明確な悪意を持たずに作られることが多く、必ずしもフェイクニュースとして認識されるわけでもありません。しかし、冗談のつもりで流したものが真実だと認識されてしまい、その情報を受け取った人を意図せず騙してしまう可能性もあるため、避けた方が良い行為でもあります。

日本における事例

「ウィンザー効果」というものがあります。本人から直接評価されるよりも第三者を介して評価を伝えられた方が評価の信憑性が増すという心理効果を表す言葉で、評価を伝える第三者と評価される人物の繋がりが薄いほど評価する側にとって評価する利益が薄くなるため、信憑性が高いと感じる場合が多いです。

< 1973年 豊川信用金庫事件 >

 高校生が友達に言った他愛もないジョークが勘違いされ拡散し、大きな取り付け騒ぎが起こった事件。
 事の発端は豊川金庫に就職が決まった高校生がその話を友人にしたときに、その高校生の友人が「信用金庫は(強盗が来るかもしれないから)危ないよ」とからかったことです。単にこのこと自体はただの冗談でしかなかったため大事ではなかったものの、このことを真面目に受け取った高校生が家族に「信用金庫は危ないのか」と相談しました。
その後、不安になった高校生の家族は他の人物に相談し、その人物がまた他の人物に、というように噂として広がっていきました。さらに、話が広がるたびに話の内容が「危ないのか」「危ないらしい」「危ない」と断定口調に変化していき、偶然も重なることで噂は瞬く間に広範囲に広がっていきました。そして「信用金庫が危ない」という話はいとも簡単に「豊川信用金庫が潰れる」という話に直結し、噂を信じた人々が銀行から預金を大量に引き出したことで最終的に20億円もの預貯金が引き出されるパニックへと広がってしまいました。

お金
お金イメージ /“PIXADAY”より引用
この事件の注目すべき点は、当事者である豊川信用金庫が否定しても噂が消えることはなく、むしろ疑惑を加速させる結果になったこと。上で紹介したウィンザー効果のように、当事者の利益が絡む評価に比べ第三者から伝わってきた評価は例え間違っているとしてもより多くの人物に信じられやすい傾向があります。そのため、一度広まってしまったフェイクニュースはその評価を当事者が否定しようと容易に取り消すことはできません。

海外における事例

冗談のつもりで言ってみたものが勘違いされてしまった場合、冗談を言った側に悪意がない場合が多いです。特にTwitterなどのSNS上で冗談を言ったとき現実とは違い文字の上では正確なニュアンスが伝わりづらいため、受け取る側が冗談ととらえられず深刻な問題となってしまう場合もあります。その場合、知人同士なら冗談だと笑い飛ばすような会話でもSNS上では炎上が起こってしまい、当人の現実での生活にまで大きな影響を与えてしまうケースもあります。

< ほんの冗談のつもりで投稿した文章が世界中で非難され、人生が破滅してしまった事例 >

 

アフリカに向かう。エイズにならないことを願う。冗談です。言ってみただけ。なるわけない。私、白人だから!」(「東洋経済オンライン」より引用)
これは、とある大手企業に勤めていた女性が何気なくTwitterに投稿した文章を日本語訳したものです。この女性は特に黒人を差別しようと投稿したわけではなく、むしろ白人である自分に対する自嘲の意味も込めてこの文章をツイートしました。また、彼女を知っている人物がこのツイートを見たのならば本気ではないというのがすぐに分かったはずでした。実際、投稿されて数十分は反応も薄く、彼女はそのまま飛行機に乗り込みました。
 しかしその後、そのツイートは膨大な量拡散されました。彼女のTwitterには彼女を批判するツイートが集まり、彼女の勤め先の会社は「あまりに非常識」とツイートし彼女が飛行機に乗っていることを伝えました。さらに、彼女が乗っている飛行機の現在位置までもがリアルタイムで中継され、着陸する飛行場へ赴き撮影する人物まで現れました。

飛行機
飛行機イメージ /“PIXADAY”より引用
   彼女のツイートは見る人によっては傷つけられてしまう悪質なものでもありましたが、多くの人に貶められるほどのものでもありません。しかし事実彼女はツイートを削除した後もネット上に名が残り、新しい職を探すのにも苦労していました。現実であったら冗談としか受け入れられないような話も、不特定多数に公開するSNS上では真に受ける人も多いということも、意識しなくてはいけません。

まとめ

 

風刺、パロディに関わるフェイクニュースは、他のグレードと違って唯一悪意無くフェイクニュースが作られることのあるものです。なので意図せずフェイクニュースを流してしまった人物も被害者となってしまうことも多くなり、特にSNSなどに残してしまった場合それが長い間ネット上に残ってしまう可能性が高くなります。また、「ウィンザー効果」のように当人がいくら否定しようと拡散されてしまった偽の事実が信じられ続けてしまうことが多いため、一度拡散されてしまったフェイクニュースを完全に消去することは非常に難しいです。
 さらに、上に挙げた事例のように、友人間や知り合い同士なら通じる冗談が多くの人々に拡散されフェイクニュースとなってしまうことも多いです。その原因となってしまうのは「拡散」という行為であり、特にSNSなどで深く考えずに赤の他人に拡散したものを受け取った相手が深く考えてしまうことが冗談からくるフェイクニュースの主な原因となっています。そのため、人に何かを紹介する際、またSNSなどで拡散する際にはそれに限られた話だけではないですが、一度深く考えてから行動することが現代のインターネットが蔓延る社会で必要なことだと認識できます。

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