睡眠とは何か
人間の脳は常に身体のバランスをとり、思考を続け、ホルモンバランスの調整を行って常時過熱状態にあります。そんな脳の疲労を回復させることができる唯一の方法が 睡眠です。また、日中の活動のためのエネルギーを夜のうちに蓄えておくために、進化の過程で生物が獲得してきたものであるとも考えられています。
睡眠の意義
睡眠には、脳の休息以外にもいくつかの役割が存在します。その役割とは、
- 脳をつくる
- 脳を育てる
- 脳を守る
- 脳を修復する
- 脳をよりよく活動させる
の五つです。ちなみにここでの脳は大脳を指しています。
役割 | 概要 |
---|---|
1. 脳をつくる | 主に子供の発達の段階において脳を大きくするはたらきのこと。小さい子供ほど多くの睡眠を必要とするのはこのため。 |
2. 脳を育てる | |
3. 脳を守る | 脳は身体の中で最もエネルギーを消費する器官なので、睡眠によって脳神経細胞「ニューロン」を休ませることで脳を守る。
また、筋肉などの疲労と違い脳の疲労は睡眠でしか回復することができない。 |
4. 脳を修復する | |
5. 脳をよりよく活動させる | 覚醒中に発生する「活性酸素」という毒素を除去することで、脳の働きの活性化を促す。
また、覚醒中にたまっていた処理(記憶の整理)などを終わらせることで脳をよりよく働かせる。 |
睡眠が不足すると……
睡眠が不足すると次のような状態に陥ってしまいます。
- 注意力、やる気、モチベーションの低下
- 作業能力がアルコール摂取時と同等レベルまで低下
- 人の反応速度を鈍らせ、思考力や判断力、意思決定能力、記憶力などを低下させ、ミスや事故の可能性を高くする
このように睡眠不足は、集中力や作業効率を著しく低下させます。一昔前は徹夜してでも勉強量を増やしたほうが成績が上がると考えられていましたが、現在では逆にそれは非効率的だと判明しています。 成績を上げるためには、まずしっかりと睡眠時間を確保する。それが勉強の効率を上げ、成績の向上につながるでしょう。
浅い睡眠と深い睡眠
眠りには深さがあり、浅い睡眠と深い睡眠に分かれています。寝ている間に、その深い睡眠と浅い睡眠が交互に何度も繰り返されており、最終的に浅い睡眠になったタイミングで目が覚めます。そして浅い睡眠が 「レム睡眠」、深い睡眠が 「ノンレム睡眠」と呼ばれているのです。
レム睡眠とノンレム睡眠の違い
レム睡眠 | ノンレム睡眠 |
---|---|
全身の筋肉が弛緩し、体の疲労が回復する。
「身体の休息」と呼ばれる。 |
脳機能が低下し、脳が休まるため脳疲労が回復する。
「脳のリカバリー」と呼ばれる。 |
記憶の整理や学習と密接に関わる。
特にエピソード記憶(いつどこで何をしたか)が定着する。 |
いやな記憶が消去される。
体で覚える(意識せずに覚えられる)記憶が定着する。 |
情緒処理や感情の整理等が行われる。
健全なメンタル維持に密接に関わる。 |
体の組織の修復、筋肉や骨の強化、代謝の正常化が行われる。 |
一晩で20%~25%ほど出現 | 一晩で75%~80%ほど出現 |
レム睡眠
レム睡眠のレム(REM)は「Rapid Eye Movement」の略で、急速眼球運動を行っている状態の睡眠のことです。レム睡眠には以下の三つの役割があります。
まず一つ目が 「身体の休息」です。全身の筋肉が弛緩し脱力状態になることで体が休まるためそう呼ばれます。また、全身の筋肉が弛緩しているため、この状態のときに意識が覚醒すると体を動かすことができません。これが金縛りと呼ばれる状態です。
そして二つ目が 「脳の情報処理」です。レム睡眠中は記憶の整理や定着が行われ、学習に密接に関わります。特にエピソード記憶と呼ばれる「いつどこでだれと何をした」という記憶が固定されるのです。また、大脳が大いに活動しているため、レム睡眠中に見る夢は現実味がある夢であることが多いといわれています。
最後に三つ目、 「脳の思考や感情の整理」です。レム睡眠状態の間に情緒の処理、感情の整理が行われます。睡眠不足による朝のイライラや日中の集中力低下などは、レム睡眠の不足が原因です。
ノンレム睡眠
ノンレム睡眠はぐっすり眠っている状態のことを指します。また、レム睡眠とは違いノンレム睡眠は大脳が休まる睡眠です。入眠直後にの最も深いノンレム睡眠中に海馬から大脳に情報が移動し、記憶が保存されます。
そして 成長ホルモンがたくさん分泌されるのもこのノンレム睡眠中です。そもそも成長ホルモンは身長を伸ばしたり発育発達を促したりするだけでなく、体の組織を回復するためのホルモンでもあります。そのためノンレム睡眠中に筋肉や骨の強化が行われ、体の組織が回復されるのです。また、成長ホルモン以外にも様々なホルモン分泌が活発化することによる代謝の正常化も行われます。
さらに、 いやな記憶が消去され、体で覚える(意識せずに覚えられる)記憶が定着します。いやなことがあったらとりあえず寝るという行為はあながち間違ってはいないのかもしれません。一方の体で覚える記憶は、スポーツのフォームなど、実際に体を動かすことによって染み付く動きなどがそれにあたります。
睡眠時の体温
実は、睡眠には体温の変化が密接に関わっているということをご存じですか。眠そうな赤ちゃんの手を握ったことがある人はご存じかもしれませんが、人間が眠るときには体の表面の温度、つまり皮膚の温度は上昇するのです。
しかし人間の体温は、体の表面温度である。 「皮膚温度」と体の内部の温度である 「深部体温」の二つが存在します。
睡眠時の体温変化
人は眠るときに体温が上がります。しかし、上がるのは表面温度である皮膚温度のみ。入眠時の深部体温は起きている時よりも低くなるのです。逆に、深部体温が下がると眠くなると言うこともできます。そして、寝るときの体温は以下のように変化していきます。
- 体表面の皮膚温度を上げる
- 発汗する
- 体内部の深部体温が下がる
- 眠くなる
このように皮膚温度を上げて汗をかくことで体の内部の温度が下がり、眠気が発生します。そこで、一度体の表面の温度を上げるために非常に効果的なのが 入浴です。温かいお湯にゆっくりと浸かって一度体温を上昇させることで、よりスムーズに入眠することができるのです。しかし、42℃以上のお湯に浸かってしまうと体温が上がりすぎてしまうので注意が必要です。
また、この体温変化のプロセスは身体の自律神経が自動的に行っているので、 ストレスなどで自律神経が乱れていると睡眠不足や体調不良につながります。悩み事や心配事があると寝付けないのは、睡眠が自律神経の影響を大きく受けるからなのです。