バイオ医療の未来>CRISPR/Cas9

最先端「クリスパー・キャス(CRISPR/Cas)」

みなさんは「CRISPR/Cas9」という言葉を最近よく耳にしませんか?このCRISPR/Cas9は2020年ノーベル医学生理学賞を受賞した画期的な技術です。 ゲノム編集の最先端CRISPR/Casを見ていきましょう。

日本人研究者の発見

1987年、石野良純教授が大腸菌のDNAゲノムの中に奇妙な並び方をした塩基配列を発見しました。同じ32塩基の塩基配列が4つの塩基を挟んで5個並んでいたのです。 しかもそれぞれが"TCCCCGC----GCGGGGA"(-はランダム)という特殊な配列をしていました。 その後、大腸菌以外にもこのような配列が発見されました。またこれらの塩基配列の近くには、必ず同じタンパク質をつくるための遺伝子が存在することもわかりました。 そしてこの特殊な塩基配列とそれに付随する遺伝子は、CRISPR/Casと呼ばれるようになりました。しかし、CRISPR/Casが何を意味するかは不明でした。

細菌の免疫システム

様々な細菌の塩基配列を調べていくと、特殊な塩基配列CRISPRの間のスペーサー配列が細菌に感染するウイルス由来であることが判明しました。ここで、もしかしたらCRISPR/Casは 細菌の免疫システムなのかもしれないという仮定がたてられ、細菌が一度ウイルスに感染するとそのウイルスのDNAの「PAM」と呼ばれる部分の近くをスペーサー配列に取り込まることが研究でわかりました。 さらに研究を進めていくとCRISPRはcrRNAというRNAに転写されることがわかりました。このcrRNAは一度感染したウイルスのDNAと塩基対をつくり、役割が不明だったCasを誘導することがわかりました。 しかもこのCasはウイルスのDNAを切断することがわかりました。なんとCasはヌクレアーゼ(DNA切断酵素がこの1種)だったのです!

最先端のゲノム編集技術に

さらに研究を重ねていくとcrRNAがウイルスDNAを切断するときの標的となるPAMにCasを誘導するには「tracrRNA」という別のRNAが必要だということがわかりました。 では、Cas、crRNA、tracrRNAはどのようにウイルスのDNAを切断するのしょうか?下の図を見てください。

たとえば化膿連鎖球菌という菌からつくられるCRISPR/Cas9を例に説明すると、Cas9、crRNA、tracrRNAはまず先ほどのPAMを探します。そしてその周辺のDNAと、前に感染したときに 取り込んだDNAで塩基対を形成します。そして20塩基にわたり塩基対が形成された時のみCas9がウイルスDNAを切断します。
ジェニファー・ダウドナ博士とエマニュエル・シャルパンティエ博士はウイルスから取り込むDNAを切断したい箇所のDNAに取り換えることでこれをゲノム編集技術に 落とし込みました。
CRISPR/Cas9以前に開発されたZFNとTALENはタンパク質で塩基配列を認識していたのに対し、CRISPR/Cas9はDNAで塩基配列を認識するので単純明快かつ簡単に切断個所を決めることができます。

CRISPR/Cas9は今までのどの遺伝子操作の技術よりも画期的でこれによって遺伝子治療がより容易になっていくでしょう。

CRISPR/Cas9はつい最近ノーベル賞を受賞しましたね。

参考文献 書籍

  • 岩波科学ライブラリー 難病にいどむ遺伝子治療
    (小長谷正明、岩波書店・2016年 11月9日)
  • トコトンやさしい ゲノム編集の本
    (宮岡佑一郎、B&Tブックス 日刊工業新聞社・2019年 3月19日)
  • ゲノム編集の光と闇-人類の未来に何をもたらすのか)
    (青野由利 ちくま新書・2019年 2月10日)
  • マンガでわかるゲノム医学
    (水島-菅野純子 著 羊土社・2018年 8月5日)
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