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自然への獣害


獣害による自然環境に与える被害は深刻で広範囲に及んでおり、生態系のバランスを大きく崩す原因となっています。


植生への影響


シカによる食害は、森林の下層植生に甚大な影響を与えています。
例えば、日光国立公園では、シカの採食圧により、かつて豊かだった林床植生がほぼ消失してしまいました。
これにより、地表を覆う植物が失われ土壌流出が進行し、森林の水源涵養機能が低下しています。
また、希少植物の絶滅リスクも高まっており、尾瀬国立公園では、ニッコウキスゲやオゼソウなどの高山植物がシカの食害により激減しています。

生物多様性の低下

植生の変化は、その場所に生息する昆虫や小動物の生息環境にも大きな影響を与えます。
例えば、長野県の八ヶ岳山麓では、シカの食害により下層植生が失われた結果、地表性昆虫の種数と個体数が大幅に減少しました。
これは、昆虫を餌とする鳥類や小型哺乳類の減少にもつながっています。

森林生態系の変化

イノシシによる土壌の攪乱も深刻な問題です。
九州や中国地方の森林では、イノシシが地面を掘り返すことで、土壌構造が変化し、在来植物の生育に悪影響を与えています。
また、この攪乱により、外来植物の侵入・定着が促進されるケースも報告されています。

水域生態系への影響

アライグマなどの外来種は、水辺の生態系にも大きな影響を与えています。
北海道では、アライグマによるザリガニやカエルの捕食が確認されており、在来種の個体数減少が懸念されています。
また、琵琶湖周辺では、アライグマによるイシガイ類(二枚貝)の捕食被害が報告されており、これらの二枚貝に依存する魚類の繁殖にも影響を与える可能性があります。

樹木への被害

シカやクマによる樹皮剥ぎは、森林に深刻な被害をもたらしています。
北海道の知床半島では、エゾシカによる樹皮剥ぎにより、ミズナラやイタヤカエデなどの広葉樹が枯死する被害が発生しています。
これにより、森林の構造が変化し、鳥類昆虫類の生息環境にも影響を与えています。

希少種への影響

小笠原諸島では、外来種ヤギによる食害が深刻な問題となっています。
ヤギは在来の希少植物を食べ尽くし、絶滅危惧種であるムニンノボタンシマホザキランなどの個体数を激減させています。
これにより、これらの植物に依存する固有の昆虫類も危機に瀕しています。

生態系サービスへの影響

害獣による自然への被害は、人間社会にも間接的な影響を及ぼします。
例えば、奈良県の大台ヶ原では、シカの食害により森林の水源涵養機能が低下し、下流域の水質悪化水量の減少が懸念されています。
これは、農業用水生活用水の確保にも影響を与える可能性があります。

外来種による生態系の攪乱

マングースやアライグマなどの外来種は、在来種を捕食することで生態系のバランスを崩しています。
沖縄本島では、マングースの捕食により、ヤンバルクイナやケナガネズミなどの固有種が絶滅の危機に瀕しています。
これらの種は長い進化の過程で島の環境に適応してきたため、外来種の侵入に対する防御能力が低く個体数の回復が困難な状況にあります。

土壌環境の変化

イノシシやアナグマによる土壌の掘り返しは、森林の土壌環境を大きく変えています。
例えば、兵庫県の六甲山系では、イノシシの掘り返しにより、表土が流出し、土壌の保水力が低下しています。
これにより、雨水の地下浸透が妨げられ、表面流出が増加することで、土砂災害のリスクが高まっています。

生態系の連鎖反応

害獣による一つの種への影響は、生態系全体に連鎖的な影響を及ぼします。
例えば、長野県の上高地では、カモシカによるコメツガの食害が増加しています。コメツガの減少は、この樹木に依存するキバシリなどの鳥類の生息にも影響を与え、さらにはこれらの鳥類を捕食する猛禽類の生息にも影響を及ぼす可能性があります。
これらの被害は、単に一つの種や一つの地域の問題ではなく、生態系全体のバランスを崩し、長期的には生物多様性の喪失生態系サービスの低下につながる深刻な問題です。
害獣対策を考える際には、単に農作物被害の防止だけでなく、自然生態系全体への影響を考慮した総合的なアプローチが必要となります。
また、外来種対策生態系の復元など、長期的な視点での取り組みも重要です。



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