非視認性ドットコードの印刷

~目次~
視覚に障がいがある方

視覚障がいとは、目が見えない、あるいは見えにくいために日常生活に支障がある状態のことです。 障がいの程度には個人差があります。
全く見えない、明暗の区別ができる、ロービジョン(弱視)などがあります。ロービジョンの中には、視野の一部しか見えない人もおり、中心だけ見える場合や周辺だけ見える場合があります。

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日本では、身体障害者手帳を取得している視覚障がい者はおよそ32万人です。(図1)しかし、実際にはもっと多く、視覚に障がいがある人は約164万人いると推計されています。 この推計数から計算すると、日本ではおよそ75人に1人が何らかの視覚障がいを抱えていることになります。


図1 視覚に障がいのある方の人数

(障害種類別の障害者数をもとに作成)
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視覚障がいのある方が生活で困ること
人は日常の多くの情報を視覚から得ています。そのため視覚に障がいがあると、歩行や交通機関の利用、買い物や外食など、私たちが当たり前にしている行動にも大きな困難が生じます。 たとえば歩行では、信号や障害物の位置が把握しにくく、駅やバス停では機械の操作や乗降のタイミングがわかりにくいことがあります。買い物では商品や値段が確認しづらく、外食では店内の移動やメニューの確認に困難を感じます。 こうした場面では、「青信号になりました」「前の席が空いています」など具体的な声かけや、安全に移動できるサポートが大きな助けになります。

誰もが安心して使える薬パッケージの必要性

薬は健康を守るために欠かせないものですが、パッケージの形や表示が分かりにくいと、思わぬ誤使用や事故につながることがあります。特に高齢者や視覚に障害のある方、外国人などにとっては見やすい表示や開けやすい構造、間違えにくい工夫が不可欠になります。誰もが安心して正しく薬を使えるようにするためには、ユニバーサルデザインの考え方を取り入れた薬パッケージが必要であると考えます。これは安全性の確保だけでなく、自らの健康を管理する「セルフメディケーション」を支えることにもつながります。適切に薬を選び、安心して使用できる環境が整うことで、日常生活の自立や心の安心感が高まり、より主体的な健康づくりが可能になります。

横浜薬科大学 村田先生の研究を取材
PTP包装に適用した『非視認性ドットコードの印刷』について
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~先生について紹介~
現在、横浜薬科大学で研究と教育に携わる村田先生は、もともと病院で薬剤師として多くの患者様と接してきた経験をもとに、薬のパッケージデザインの研究をされています。視覚に不安がある方や手の力が弱い方でも使いやすいパッケージを考えるため、実際の使用に即した視点から研究をされています。 たとえば、視覚障害のある方が自分一人で薬を選べるように、パッケージのアルミ部分に目には見えない特殊な赤外線吸収インクでドットコードを印刷し、専用の機械で読み取ると薬の名前や説明を音声で聞ける仕組みの研究も進められています。こうした工夫は、誰にとっても使いやすい薬のパッケージづくりの一例であり、将来的には法律や基準の改善にもつながる可能性があります。 村田先生の研究は、医療現場の課題を解決し、より多くの人が安心して薬を使えるようにするための重要な取り組みとして注目されています。

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上記の画像は、先生が開発されているPTP包装のアルミ箔部分に非視認性ドットコードを印刷した事例です。左側がアルミ箔部分に非視認性ドットコードを印刷したPTP包装、右側が専用のスキャナになります。アルミ箔部分にスキャナをあてると、医薬品情報(医薬品名、薬効、服用上の注意、主な副作用など)を音声にて確認できるほか、外国語での情報提供も技術的には可能です。こうした工夫により、全盲の方や視覚障がいのある方、外国の方を含め、誰もが安心して薬を使用できるユニバーサルデザインの実現につながっています。

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先生が研究されている、PTP包装のアルミ部分への非視認性ドットコード印刷について、ぜひお話を伺いたいです。

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PTP包装の限られたスペースの中で、多くの情報を非視認性ドットコードに印刷する研究をされているのは、本当にすごいと思いました。視覚に障がいのある方や外国の方も、安心して薬を使用できる環境が実現できると感じました。どんな課題や問題意識から研究に取り組まれたのでしょうか。

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村田先生

PTP包装は錠剤やカプセルを安全に個別包装できる優れた仕組みですが、服薬情報の伝達手段としては十分ではないという課題があります。特に、PTPの表面は非常に小さく文字サイズなど情報表示に物理的な制約があることや、同じような大きさのPTPが多く、視覚に障がいのある患者様にとってどの薬がどのシートか識別しにくい点が、研究の出発点となっています。こうした課題を「非視認性ドットコード」によって解決できれば、患者様がスキャンするだけで服薬情報を得られる仕組みが実現できます。

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服薬支援
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視覚に障がいのある方が実際に専用のスキャナを使うのは、難しくないでしょうか。

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村田先生

確かに「視覚に障がいのある方が実際に専用のスキャナを使うのは、難しいのではないか。」という懸念は 調査開始前にはありましたが、実際、複数の視覚に障がいのある方に協力していただいたところ、 全く問題ないことがわかりました。

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PTP包装以外にも、粉薬の袋やボトル、OTC医薬品の箱など、他の薬のパッケージにも非視認性ドットコードの技術を応用することは可能でしょうか。

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村田先生

ドットコードや専用スキャナはすでに確立した技術であり、様々な分野で応用されていますが、 その他の医薬品パッケージにも適用可能です。

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全ての人が安心して使えるようにするため、技術面やコスト面ではどのような工夫が必要でしょうか。

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村田先生

非視認性ドットコードを普及させるためには、読み取り環境と包材コストの両面に配慮する必要があります。スマートフォン用のコード読取デバイスやアプリが一般化すれば、患者様や薬局での活用が容易になり、市場での普及も加速すると考えられます。専用機器に依存せず、既存のスマホを活かせる点は大きな強みです。

一方、包材コストは製薬企業にとって非常に重要な要素です。医療用医薬品は薬価制度に基づき価格が設定されているため、現時点ではコスト増を商品価格に転嫁するのは難しく、企業努力だけで吸収できるほど単純に安価なものでもありません。

そのため、まずは一般用医薬品(OTC薬品)や情報提供ニーズの高い領域から導入・拡大していくのが現実的です。技術の標準化と製造ラインへの定着が進めば、医療用医薬品にも徐々に広がっていくことが期待されます。

まとめ

今回の取材を通して、服薬支援の新しい仕組みを設計する際に考慮すべき多くの要素を学びました。
具体的には、PTP包装の物理的制約や情報表示の限界を理解し、視覚に障がいのある方でも分かりやすく識別できる工夫の大切さを学びました。また、コストや技術を実際に普及させる際に現実的に考慮すべき課題にも触れることができました。
この仕組みは多くの方にとって必要であり、さまざまな薬のパッケージに応用できる可能性が高く、未来の服薬支援デザイン構想において必要不可欠な要素になると考えます。
利用者の立場を考慮しながら技術を活かすデザインの考え方を学ぶことができ、非常に貴重な取材となりました。

参考文献及び参照日

視覚障害│文部科学省 (参照日:2025年9月24日)

視覚障害とは (参照日:2025年9月24日)

視覚障害について、知っておいていただきたいこと|東京大学多様性包摂共創センターバリアフリー推進オフィス
(参照日:2025年9月24日)

視覚障害とは|公益財団法人関西盲導犬協会 (参照日:2025年9月24日)

最近の有効な医薬品パッケージ-臨床現場の課題を踏まえて-|J-STAGE (参照日:2025年9月24日)