カラー動画ピクトグラムによる情報伝達の可能性

~目次~
薬の服用における課題

医薬品販売における情報提供・相談対応の遵守状況

厚生労働省「医薬品販売制度実態把握調査(令和5年度)」の結果を整理すると、店舗およびインターネットでの医薬品販売において、情報提供や濫用防止対応、相談対応の資格遵守が確認されました。表1と表2は、主な調査項目と遵守率をまとめたものです。

表1 第一類医薬品

項目 店舗(%) インターネット(%)
文書による情報提供があった 80.3
情報提供内容の理解確認 65.9 94.5
相談に対応した者の資格が薬剤師であった 93.4 80.8

表2 第二類医薬品等・一般用医薬品(第一類を除く)

項目 店舗(%) インターネット(%)
相談に対応した者の資格が薬剤師または登録販売者であった(第二類医薬品等) 93.6 77.2
濫用等のおそれのある医薬品を複数購入した際の対応 80.9 82.1
専門家への相談をせずに購入する際、薬剤師・登録販売者以外の対応における遵守不足の確認あり(一般用医薬品)
(2024年度医薬品販売制度実態把握調査をもとに作成)

医薬品販売において、店舗およびインターネットでの情報提供や濫用防止対応、相談対応の資格遵守には一部課題があります。店舗では文書による情報提供は概ね実施されていますが、購入者の理解度までの具体的な確認は十分に徹底されていない可能性があります。一方、インターネット販売においては、第二類医薬品等の一般用医薬品について、情報提供や内容の理解確認が十分とは言えず、改善の余地があります。また、濫用の恐れがある医薬品を複数購入した際の適切な対応についても、店舗・インターネット双方で一部十分に徹底されておらず、今後さらなる改善が求められます。

服薬忘れ・過量服薬(オーバードーズ)防止に向けた課題

薬の服用における課題のひとつに、適切な用法・用量を守ることの難しさがあります。 表3は、一般用医薬品(OTC医薬品)の中で、乱用が問題となっている主な薬の種類をまとめたものです。これらの薬は本来、症状の緩和や治療を目的として使用されますが、使用方法や目的を誤ることで、依存や深刻な健康被害につながる危険性があります。

表3 乱用されている薬の種類

薬の種類 用途 乱用の特徴・注意点
鎮咳去痰薬
(咳止め)
咳の抑制 高用量で精神作用が現れる場合あり
総合感冒薬
(風邪薬)
風邪症状の緩和 気分変化や解離作用を求めて乱用されることがある
解熱鎮痛薬
(痛み止め)
発熱・痛みの軽減 過量服用で肝障害や胃腸障害のリスク
鎮静薬 不安や緊張の緩和 依存症や眠気の強い副作用の危険
抗アレルギー薬 アレルギー症状の緩和 高用量で中枢神経作用が現れる場合がある
眠気防止薬
(カフェイン製剤)
集中力維持・眠気対策 過量で不安、動悸、睡眠障害のリスク

特に市販薬では、若者を中心に過量服薬(オーバードーズ)が見られ、実際、「過去1年以内に市販薬を乱用した経験がある」と回答した高校生は約60人に1人の割合で存在します。こうした乱用は、意識障害や急性中毒、依存症などの健康被害を引き起こすおそれがあります。
図1は、全国の精神科医療施設で薬物依存症の治療を受けた10代患者における「主たる薬物」の推移を示したグラフです。近年、手軽に購入できる市販薬の乱用が増加傾向にあることがわかります。

図1 全国の精神科医療施設における薬物依存症の治療を受けた10代患者の「主たる薬物」の推移

(わが国における市販薬乱用の実態と課題「助けて」が言えない子どもたちの資料をもとに作成)
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また、高齢者や多剤併用者では、文字が小さい説明書や複雑な服用スケジュールによって、飲み忘れや誤服の可能性も高まります。このため、薬の表示や説明書を誰にでもわかりやすくする工夫や、適切な相談窓口・サポート体制の整備が重要です。

視認性・識別性の問題

薬のパッケージや錠剤の見た目が似ている場合、どの薬かを区別しにくくなります。特に視力の低下した高齢者や視覚障がい者では、誤って別の薬を服用してしまう危険があります。また、用量・用法の表記がわかりにくく、文字が小さいなど「見えにくさ」も課題であり、表示の見やすさや識別性の向上が重要です。


情報理解の困難

医薬品の説明書は専門用語や文字量が多く、内容を理解しにくい場合があります。特に外国人や高齢者では、理解の難しさがより大きくなります。

薬を服用するときは、用量・用法を守ることや服用タイミングを間違えないことが大切ですが、錠剤やパッケージの識別が難しかったり、説明書の専門用語や文字量が多く理解しにくかったりすることがあります。こうした課題を視覚化することで、正しい飲み方を守りやすくなり、安全に薬を服用できるようになります。その方法の一つとして、服用タイミングや注意事項を示すピクトグラムを使うと、誰でもわかりやすく、安全性を高められる工夫が必要になります。

ピクトグラムとは

ピクトグラム(Pictogram)とは、絵や図を使って言葉を使わずに情報を伝えるための記号のことです。文字を読めない人でも、国籍や年齢に関係なく一目で内容を理解できるよう、形や色がシンプルにデザインされています。公共施設(駅・空港・病院・博物館など)や商業施設、交通機関などで広く使用されており、私たちの生活に欠かせない存在となっています。 日本では、1964年の東京オリンピックで案内用ピクトグラムが本格的に導入され、外国人にも分かりやすい表示として高く評価されました。これをきっかけに、国際的なイベントや公共空間を中心にピクトグラムの利用が広がっていきました。

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ピクトグラムの起源をたどると、人類最初の絵とされる洞窟壁画にまでさかのぼることができます。ものの形を描いて意味を伝えるという点で、メソポタミアの楔形文字(くさびがたもじ)、エジプトの象形文字(ヒエログリフ)、中国の甲骨文字などが、ピクトグラムの原型と考えられています。 国際的にピクトグラムが注目されるようになったのは、1920年代に登場した「ISOTYPE(アイソタイプ)」がきっかけでした。アイソタイプは、オーストリアの教育者オットー・ノイラートらによって考案された、言葉を使わずに社会や経済の情報をわかりやすく伝えるための視覚記号の体系です。数や統計など複雑な情報も、単純で見やすい図を用いることで直感的に理解できるよう工夫されています。 この仕組みにより、誰にでも理解できる視覚表現が可能となり、のちのピクトグラムやユニバーサルデザインの考え方にも大きな影響を与えました。表4では、ピクトグラムとアイソタイプの特徴を比較してまとめています。

表4 ピクトグラムとアイソタイプの特徴比較

項目 ピクトグラム アイソタイプ
目的 ピクトグラム 情報をシンプルに伝える
(例:トイレマーク、非常口表示)
アイソタイプ 社会や統計などのデータを、数量的にわかりやすく表す
表現方法 一つのアイコンで意味を完結させる 同じ形を繰り返して、数量や関係性を示す
使用環境 日常生活や公共の場所、国際イベントなど 出版物や教育資料
社会的説明や政策発表の場
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すべての人にやさしい服薬情報の新提案

薬の適切な服用には、情報伝達が非常に重要です。文字だけの情報では理解が難しい場合があるため、カラー動画ピクトグラムを活用した新しい方法を提案します。カラー動画ピクトグラムは、動きや色彩を用いて情報を直感的に示すことで、服薬手順や用量、注意事項をより分かりやすく伝えることができます。この手法は、薬パッケージや個包装の袋、お薬手帳のシール、購入時の店頭表示や値札にQRコードを設置することで、購入前から正しい服薬情報を得られる環境を作ることが可能です。

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また、購入・服用履歴の管理を組み合わせることで、どのくらい薬を使っているかを把握しやすくなり、過量服薬や飲み忘れのリスクを減らすことにもつながります。この方法により、「誰でも簡単に間違えずに用法・用量が分かる」ことを目標として、購入から服用まで一貫して理解しやすい情報提供を実現する新しい提案です。

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和歌山大学・原田先生の研究を取材

『生成AI×カラー動画ピクトグラム』について

大学院生の方とも交流しました

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~先生について紹介~
和歌山大学システム工学科でデザイン工学を専門とする先生は、誰にでも理解できる情報伝達デザインの研究に取り組まれています。その一例が、ピクトグラムをカラー動画化して情報を正確に伝える手法の開発です。動画では必要最小限の要素で動作や場面を表現することで意味の誤認を防ぎ、文化や宗教の違いも考慮したデザインが可能です。この手法は論理的なデザインプロセスと科学的な実験を組み合わせて制作され、国際イベント向けのピクトグラム改善などにも応用されています。

生成AIを活用して動画ピクトグラムを作成する研究に取り組まれている、大学院2年生の方にもお話をお伺いしました。
表5では、大学院生から伺った内容をもとに、生成AIを活用してカラー動画ピクトグラムを作成する際のステップを整理しています。

表5 -生成AIを活用したカラー動画ピクトグラムの作成ステップ-

ステップ 内容 方法・ツール
1. 準備 対象者・使う場面・伝えたい情報を決める
2. 静止画
ピクトグラム作成
  • 文字を入力して作成 ✏️
  • 参考画像を入力して作成 🖼️
  • 画像を編集して作成 ✂️
無料で作成可能
3. 動画
ピクトグラム作成
  • 直接文字を入力(制御しづらいので非推奨) 📝
  • 始まりの画像を決めて動かす ▶️
  • 始まりと終わりの画像を決めて動かす ⏩
無料または有料ツールを使用
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上記の画像は、実際に大学院2年生の方が生成AIを活用して作成された『食前に薬を飲む』カラーピクトグラムです。①は薬を飲む直前、②はコップを机に置く、③はご飯を食べるシーンを表しており、これらを「始まりと終わりの画像」として設定することで動画ピクトグラムを作成する手順の例となります。

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服薬支援
チーム

先生がご研究されているデザイン工学のひとつとして、カラー動画ピクトグラムは、薬を服用する際の補助的な手段として有効ではないかと考えました。そこでお伺いしたいのですが、先生の視点から見て「人に伝わるデザイン」とは具体的にどのようなものでしょうか。

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原田先生

私の専門はデザイン工学の中でも「情報デザイン」や「製品企画デザイン」の領域にあります。もともとは自動車メーカーでデザイナーとして企画や造形を担当しており、現在は、人に情報をいかにわかりやすく伝えるか、また使いやすい製品や仕組みをどのように設計するかという観点から研究を進めています。

ピクトグラムの研究は、そうした情報デザインの一分野として位置づけています。視覚的に情報を伝えるという考え方は、デザイン工学において非常に重要な要素のひとつです。

私が取り組んできたピクトグラムの研究は、社会における「伝わるデザイン」のあり方を探る一環として実施したもので、ピクトグラムそのものの専門家というよりは、情報を整理し、効果的に伝えるための手段としてピクトグラムを活用してきた、という立場になります。

今回取材依頼をいただいた「カラー動画ピクトグラム」も、その延長線上にある取り組みだと感じています。静止画では伝えにくい動作や手順を、色と動きを組み合わせて直感的に理解させる方法として、薬の服用支援などにも有効な可能性があり、まさに「人に伝わるデザイン工学」の実践例といえるでしょう。

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服薬支援
チーム

どのようなときに主にカラーピクトグラムは使われるのでしょうか。

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原田先生

カラーピクトグラムは、文字だけでは伝わりにくい情報を誰でも直感的に理解できる手法で、主に食品分野で「やけどに注意」「電子レンジ不可」などの注意喚起や、使用原料、健康志向、アレルギー、産地情報などの表示に活用されます。言語や文化に依存せず、外国人や高齢者、視覚や認知に制約のある方にも情報を伝えやすくするため、食品以外の分野でも幅広く利用されています。

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服薬支援
チーム

生成AIを用いてカラー動画ピクトグラムを作成できると伺いましたが、細かな色使いや動きの表現についても、生成AIで十分に再現可能でしょうか。

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大学院生

生成AIを用いてカラー動画ピクトグラムを作成することは可能ですが、細かな色使いや秒数の指定はある程度コントロールできます。一方で、人物や物の微細な動作の制御についてはまだ難しく、完全に意図通りに再現するのは現状では困難です。そのため、細かい動作や手順を正確に表現したい場合には、AI生成の動画をベースに手作業で補正するなどの工夫が必要になります。

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服薬支援
チーム

動画ピクトグラムは、どの程度ユーザーに理解されやすいと考えますか。

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原田先生

動画ピクトグラムは、静止画と比べて動きや手順がわかりやすいため、ユーザーの理解度が高くなります。実際、調べてみると動画ピクトグラムは静止画より分かりやすく、動きや手順がすぐに理解できることがわかっています。

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服薬支援
チーム

私たちは、薬のパッケージにQRコードをつけて読み取ると、ARでカラー動画ピクトグラムが見られる仕組みを作れば、たくさんの方が手軽に購入できるOTC薬品に使えるのではないかと思ったのですが、こうしたアイデアは有効だと思いますか。

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原田先生

一部の方には非常に分かりやすく、服薬支援として有効である可能性が高いと考えます。特に若い世代やスマートフォンに慣れた方には、直感的に情報が理解できる利点があります。 ただし、高齢者やスマートフォン操作に不慣れな方が使いこなせるかどうかは課題です。 また、AR動画を利用した情報提供は便利ですが、表示内容の誤解や操作ミスによる服薬ミスが発生した場合、製造物責任(PL)の観点からリスクが生じることも考慮する必要があります。 あくまでも二次的なものとして、AR動画の導入により、購入前の情報提供や服薬の正しい手順の啓発、相談のきっかけ作りといった付加的な効果も期待できるのではないかと思います。

まとめ

私たちは、情報を伝える手段には視覚的・動的な表現が非常に効果的であることを改めて理解しました。カラー動画ピクトグラムを用いることで、複雑な服薬手順や注意事項も直感的に伝えられる一方で、利用者の年齢や操作スキルによって差が出ることにも配慮する必要があると気づきました。また、情報デザインの観点から、色や動き、見せ方を工夫することで情報の理解度に大きな影響を与えることも学び、デザインは「かっこよさ」だけでなく、相手にきちんと伝わることが最も重要であると実感しました。これは、服薬支援デザインにおいて非常に重要な視点であると感じました。

参考文献及び参照日

「医薬品販売制度実態把握調査」の結果を公表します│厚生労働省 (参照日:2025年10月6日)

わが国における市販薬乱用の実態と課題「助けて」が言えない子どもたち (参照日:2025年10月8日)

「ピクトグラム」とは?│TOPPAN BiZ (参照日:2025年10月8日)

ピクトグラムとは?│神栄ホームクリエイト株式会社 (参照日:2025年10月8日)

ユニバーサルデザインとしてのピクトグラム│TOPCON (参照日:2025年10月8日)