海洋生物への問題

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原因

　実は水中は空気中よりも密度が高いためよく音が伝わります。空気中で秒速340mなのに対して水中は1500mです。 よって、地上では感じていない音でも遠くの海まで届いている可能性があります。

　海中騒音の主な原因は船舶からの音です。海中騒音が問題となったのが近代化して船舶の往来が増加してからだというのにもうなずけます。 また、洋上風力発電などの工事時の音や海に近い工場の音なども原因となることがあります。これらの音は10~1000Hzという魚類が聞きやすい音域で、 さらに海に遮蔽物がないことから広範囲に影響を及ぼします。

　そして、近年では水中での絶え間ないソニックテスト(音波深傷試験)も大きな原因になっていると言われています。 ソニックテストは、超音波を利用して構造物の作りや素材を知るもので、海中でも使われることがあります。 自然保護活動や米国の核実験についてのデータ収集などを行っている自然資源防衛協議会のNRDCは、地震波方式による資源探査をやめさせるために米連邦政府を相手取り訴訟を起こしていたりもします。

影響

　そんな海中騒音は、生物にどんな影響を与えているのでしょうか。

鯨類

まずは鯨類です。鯨類は、クジラやイルカのなかまことで みなさんご存知の通り超音波でコミュニケーションをとっています。また、コミュニケーションだけでなく、餌の捕獲やしっかり泳ぐのにも 音は必要不可欠です。しかし騒音によって、音が聞こえづらくなる、さらには聴力を失ってしまうイルカも発見されています。

　具体的にどのように影響を受けるのか、イルカに対して行った実験があります。まず、水中にボタンを２つ設置し、それらを 二頭に同時に押してもらいます。次に、二頭を開放する時間を変えて押してもらい、これによってコミュニケーションを取りながら押しているということがわかります。 そして、水中で騒音を流したとき、騒音レベルとボタンを押す成功率の相関を調べました。すると、騒音が大きくなるにつれてイルカの声も大きく、長くなり、 さらにはボディランゲージを使いだしました。騒音に対抗してコミュニケーションをとろうと図ったのです。しかしこれにも限界があり、 成功率は85%から62.5%まで下がりました。

　また、香港に生息するイルカは、過去15年間で80%減少しました。この理由も騒音だと言われています。 ウー氏のチームは、2016年からこのイルカが減少した海域の10カ所で音響モニタリングを実施し、船のスクリューや海底掘削、 産業トロール船などによって発生するさまざまな騒音が原因で、イルカがコミュニケーションできる可聴範囲が最大で45%縮小していることを発見しました。

　このように、コミュニケーションの妨害をはじめとして、騒音は鯨類に多大な影響を与えているのです。

魚類

＜コミュニケーション妨害＞

　続いて、魚類への影響です。実は魚たちも声を出します。声帯がなくても条鰭類（現生の魚類の大部分にあたる2万6,891種）は音を出せることが明らかになっています。
（参考論文）Evolutionary Patterns in Sound Production across Fishes

　魚の音によるコミュニケーションはイルカなどと比べてまだ不明瞭な点が多いですが、コミュニケーションをとっている種がいることは明らかです。例えば、コイチやシログチは繁殖期に雌雄が別々の鳴き声を交わし パートナーを決めます。スケトウダラやモンツキダラは雄が声で雌を寄せ付け、興奮状態にさせます。このように、魚も音を使って生きています。ならば、騒音で影響を受けると考えるのも当然でしょう。
（参考論文）Sound Production by Adult Haddock, Melanogrammus Aeglefinus, in Isolation, Pairs and Trios

　騒音は、魚の聴覚を狂わせ、行動異常を起こさせたり繁殖や産卵を妨害しています。

＜ストレス＞

　また、コミュニケーションの妨害だけでなく、ストレスを与え病気への免疫が低下することもあります。 マイアミ大学ローゼンティール・スクールの研究によると、音楽フェスがあった時実験室で飼っていたアンコウの血中のコルチゾール（ ストレスによって分泌されるホルモン）の値が急上昇したと発表されています。驚くべきことに4~5倍にも増えていました。そしてこの時水中の音の大きさは、7~9dB増加していました。
（参考論文）Impacts of a local music festival on fish stress hormone levels and the adjacent underwater soundscape - ScienceDirect

　生き物は基本的にストレスを感じると免疫が低下し病気にかかりやすくなります。魚にも様々な病気があり、発症しやすくなります。 以下の表は魚の主な病気とその症状です。