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騒音は、動物に深刻な影響を与えています。このことは、一般にあまり知られていなく研究も少ない問題です。前ページで述べたように、生物の種類によって聞こえる音は大きく変わります。 これが理由となって、人間からは聞こえないような音でも苦しむ動物が現れるのです。野生動物からペット、家畜まで影響を与えています。ここからさらに細かく見ていきます。
野生動物への影響
繁殖能力
まず、一番深刻ともいえる繁殖能力への問題です。アメリカで鳥類を対象に行った調査では、
騒音が原因となり森林性の鳥22種の巣に生む卵の数が約12%減少、繁殖成功率が約19%減少、抱卵放棄率が約15%増加しています。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
主な理由として考えられるのは、求愛の妨害です。鳥の多くは繁殖期にオスが鳴き、メスを引き付けます(歌でなく踊りをするものもいます)
。これが騒音により妨害され、パートナーを見つけられなくなるということです。
音で求愛するといえば、コオロギもそうです。実は、コオロギを使った騒音の実験が行われています。これは学術誌「Behavioral Ecology」に掲載された科学者3人による
実験で、フタホシコオロギという、交尾の際しっかり音を聞き分け相手を判断するコオロギを使用し、オスから音が出ないようにした上でメスに質が良い音と悪い音を聴かせるというものです。
この実験の結果、質が高い音を聴かせたものは悪い音に比べ半分の時間で交尾が終わり、また悪い音では30%交尾が途中で終わってしまいました。
(参考論文)Anthropogenic noise disrupts mate searching in Gryllus bimaculatus
獲物捕獲能力
続いて、獲物を捕獲する能力への問題です。2016年9月10日、北海道大学と森林総合研究所、カリフォルニア・ポリテクニック州立大学の研究で
交通騒音によりフクロウの獲物を見つける効率が下がることが発表されました。具体的には、宮城県から北海道の103箇所でフクロウを誘引する音を拡声器で流した結果、
フクロウ類の獲物を見つける能力は40~80dBの騒音環境で17~89%減少しました。また、影響の及ぶ範囲も想定より広かったそうです。
(参考論文)Traffic noise reduces foraging efficiency in wild owls
フクロウ類は、夜中に繊細な音を聞き分けて獲物を探します。この能力が、騒音によって妨害されたことでこのような結果になったと考えられます。
これはフクロウだけでなく、様々な動物にも通じることだと思います。
ペットへの影響
難聴
ペットなど身近な動物は特にですが、難聴にもなりえます。人間と同じように先天的なものと後天的なものがありますが、後天的なものだと
動物自身がとても戸惑ったり混乱してしまうことが多いです。もしペットが難聴になってしまった場合には、飼い主の
温かいサポートが必要です。トレーニング次第で、音なしでもコミュニケーションを取れるようになります。
難聴になるメカニズムは人間と同じで聴覚神経への刺激です。動くのを怖がったり飼い主に依存したり、臆病な態度をとった時は
異常がある証拠です。現在、動物の聴力を検査する脳幹聴覚誘発反応(BAER)検査は、一般の病院に浸透しておらず、治療は少ないので動物と寄り添う、また事前に予防することが大切です。
ストレス
また、こちらも人間同様、ストレスをかけてしまうこともあります。猫を飼っている方は、掃除機をかけたときに嫌がるという
経験をしたことがあるかと思います。猫は特に聴覚が発達していて私たちにとっては小さい音もストレスになります。
症状としては、食欲不振や睡眠不足、嘔吐、下痢、毛がハゲるなどです。もしこのような症状が出たときには
静かな環境に整えてストレスを軽減させましょう。それでも症状が続いたら病院に連れていきましょう。
実態
Rachel Buxtonらの研究では、アメリカ全土の森林での騒音は、保護区域の63%にも及ぶエリアで二倍に増えており、
21%のエリアでは10倍に増えているというデータが出ており、輸送、開発、採掘に関連する土地利用などと緊密に関連していると結論づけています。
日本での自然環境下での騒音データは見つかりませんでしたが、都市化は進んでおりアメリカと同じように問題となっているはずです。
ペットへの問題も、数値化することが難しいのですが家庭で使用する家電製品が増えていたり、コロナ禍でペットの需要が
高まったことなどからも苦しむ動物が増えていることは読み取れるでしょう。人間のエゴで動物を苦しませないため、一人ひとりの意識を変える必要があります。
答え 30%のコオロギが途中で交尾をやめた