ソノーラテクノロジー株式会社は、防音室、防音カバー、
防音壁等の設計製造施工などの「産業防音事業」、無響室、無響箱、
防音検査室の設計製造施工の「音響計測事業」、吸音材、遮音材、断熱材の販売をおこなう「建築音響事業」を主な事業としている会社です。
その技術力は日本屈指で、国内の契約はもちろん海外とも多くの契約をしています。
今回は、そんなソノーラテクノロジー株式会社さんとメールで返答という形でインタビューをさせていただきました。吹き出し型の見出しが質問内容で下がその返答です。また、使用している写真は直接許可をいただきHPから引用しました。
契約の過程で色々な工場へ行かれていると思いますが、
特に大きな音が出やすい工場などはあるのでしょうか。(製品などの種類)
企業が取り組む騒音対策:騒音規正法(第4条)や労働安全衛生規則(65条・65条-2) の対策が多いです。工場では、プレス機や切断機などの工作機械、送風機やコンプレッ サーなどの設備が主な騒音源です。
過去の案件では、特に大きな音は(1)溶射設備、(2)ポン菓子製造機でした。溶射設
備は目の前で雷が発生しているような音で約120dB (A)、 ※溶射設備がどのようなものか
は説明が長くなるため検索して頂ければと思います。 ポン菓子は、原料である米を加熱
し圧力で吹き飛ばして作ります。その際に、爆発音に近い騒音が発生し約130dB(A)でし
た。
工場の騒音対策では、音だけではなく振動の対策も必要な場合があります。テーブルバ
イブレータという装置で、これは型枠に入れたコンクリートに振動を与え脱泡をするもの
ですが、大型の橋梁のパーツを製造するメーカーのテーブルバイブレータは大型かつ複数
台を稼働しており、騒音の他にかなりの振動が発生していたことから、振動への対策も必
要でした。音は空気の振動ですので、振動が騒音の発生源になることもあります。装置の
振動が設置面を伝わって伝わった部分から音が発生します。(太鼓を叩くと皮が震え音になる
イメージが伝わりやすいかと思います。)
創業されてから20年間の中で売上に変化があった時期などはありますか。
2003年創業、2年目から2億円以上の売り上げになりました。以降、売り上げは伸びて いきましたが、リーマンショック、東日本大震災、コロナショックの3つの時期はかなり 影響がありました。
特に工場の騒音対策は、企業にとっては投資ではなく「無駄な出費」 といえ、騒音対策コストは極力避けなくてはならないことから、売り上げがかなり下がり ました。ただ、弊社は騒音対策が主事業ではなく、無響室、無響箱という音響計測用の部 屋や箱がメインの商品ですので、他の騒音対策メーカーと比較すると影響は少なかったと 思います。
業界初の音響性能保証制度を導入したそうですが、そもそも業界自体は以前からある状態で、
と
いうことですか。防音や無響への対策というのはどのくらい前からあったのでしょうか。
正確にはわかりませんが、40年以上前からあったと思います。ただし、防音工事は、建 築会社が行う建築工事の一種でした。我々のような専門メーカーは少なく、防音設備の作 り方、使用する素材は徐々に変化、発展していき、現在では専門会社が音響性能を保証す るというスタイルが一般的です。
難しい依頼など、今までで一番苦労したものはなんですか。
二つ事例を挙げます。
(1)自動車部品の音響測定をするための無響室案件:無響室内を−40°C~+120°Cの範
囲で温度を変え、自動車部品のサイクル運転を行うという案件でした。この設備を作るた
めには、遮音、吸音技術の他に、断熱、空調の高い技術が求められました。温度が変化す
る環境では特に室内の吸音材が膨張して変形しまったり、結露が発生するなどの問題があ
ります。弊社では、この案件に対応するために新たに材料の開発を行いました。弊社は
ユーザーの要望に答えるために防音以外にも多くの技術を保有しています。
(2)超低周波騒音対策:超低周波音は一般的に周波数20Hz以下の音といわれています。
某研究所からクリーンルーム内にある超低周波音を発生する装置の騒音対策を依頼されま
した。その研究所は様々な防音メーカーに声をかけたがどこも対応が出来ないと断られた
ようです。なぜなら、超低周波音は技術的に非常に遮音が困難だからです。(遮音は高周
波音になればなるほど容易です。)弊社は超低周波音の遮音技術を保有していましたので
対応することが出来ました。
世界の企業とも契約しているそうですが、
やはり世界へ輸出している日本の会社は
少ないのでしょうか。
また、世界的に見ても優れている技術はどのような部分でしょうか。
同業専門会社で世界中で活躍している企業はありません。弊社の創業2003年から10年 間では、無響室の業界では日本の技術力がトップでした。弊社は2009年に欧州進出を計 画しており、ドイツのシュトゥットガルトの展示会に出展しました。その際に、無響室 メーカーが7社ほど出展していましたが、どこもレベルが低く、弊社の無響室は過剰ス ペックであり市場規模は大きいながら需要にマッチしないと断念しました。その後、無響 室の規格であるISO3745が2012年に改訂されたことにより、日本と同等クラスのスペック が求められることになり、7社あった無響室メーカーは3社に淘汰されました。現在では、 世界的な主要無響室メーカーは弊社を含め4社であると思います。弊社が世界のメーカー と比較して優れている技術については、遮音、吸音技術、また軽量、薄型でコンパクトで ある点です。
製品はどのくらいの大きさのパーツから組み立てられるのでしょうか。
また、輸送はどう
しているのでしょうか。
防音設備はテーブルの上に置けるくらいのものから、学校の体育館くらいの大きさのも のまであります。部屋形状ですと、一般的なドア一枚くらいの大きさのパネルをパズルの ようにボルトで組み立てて作ります。
それぞれのパーツは工場で製作し、分解した状態で 梱包輸送します。日本国内であれば、トラックに乗せて運送します。海外ですと、コンテ ナに載せて輸出します。
今後の需要や事業の見通しとして、なにか考えていることはありますか。
企業は静音技術に力を入れています。企業が作る自動車や家電製品は今後どんどん静か
になっていくでしょう。そのため、静かな製品の音を測るために、より静かな測定環境が
求められていきますので、より高い遮音、吸音の技術開発を行う必要があります。自動車
であれば、EV車のように静かな車があります。動力が静かな音であれば、付随するタイ
ヤの摩擦音、エンジン音、ギアの音などのトランスミッション系の音も静かにしなければ
なりません。
工場の騒音対策は、音の可視化技術機器(音源探査システムなど)の発達により、どこ
でどのように音が発生しているのかが視覚的にわかるようになってきました。騒音対策の
ための音響調査分析が容易になりました。
音響計測、騒音対策いずれもこれからの業界であり、求められるスペックとともに需要
は高まっていくと予想されます。アクティブノイズコントロール、真空構造による音の遮
断を活用するなど、防音メーカーは技術、製品開発を常に行っていかなくてはなりませ
ん。
今後弊社に必要なこと(他の製造業にも当てはまるところはあります)は、蓄積された
技術の継承、アップデートです。同業他社では、技術者が後任に技術継承ができていない
状態で高齢化により退職してしまい、技術者がいなくなってしまったという例がありま
す。防音の専門知識や技術は、学問としてだけではなく、各社に独自のノウハウがありま
すし、膨大で難しい内容です。新入社員が5年間勉強しても全てを網羅することは出来な
いでしょう。弊社では、独自の専門知識をデータベース化しプログラムとしてアウトプッ
ト出来るシステムを構築中です。(日英対応)いずれは疑似AI化=AI先生を作るつもりで
す。AI先生が各プロジェクトに参加することで、よりよい提案もできるようになりますし
技術、製品開発の効率化にも繋がります。
まとめ
防音については日本一といってもいい素晴らしい会社に取材できたこと、心より感謝します。 ポン菓子製造時に大きな音がなるなど、現場にいるからこそわかることが知れてとても興味深かったです。 また、業界としての実態や今後どのようになっていくか、この日本の素晴らしい技術を守る大切さを知れました。