目次
国際的な動き
EU
2012年2月に船舶起因の音により水中騒音が上昇し、海洋生物に影響を与えていると発表。2020年をターゲットに商船からの水中騒音の規制導入を検討。
また、膨大な文献をレビューし数か年にわたるプロジェクトを立ち上げ、影響評価方法や基準の策定を進めています。
各国は2020年までにクジラ類等の海洋生物の保護を目的とした、水中騒音に係る規制導入を講じることが義務付けられていました。
船舶からの水中騒音低減方策を業界に提供するとともに、騒音低減に関する規制(ガイドライン)案を作成。内容として騒音予測システムの開発、実船騒音計測、水中騒音に関する規制案作成がある。
キャビテーション(気泡)による水中騒音を低減する方策を検討。内容としてキャビテーション騒音予測モデルの開発、実船騒音計測、キャビテーション騒音低減技術の開発がある。
AQUO プロジェクトの成果を基礎とした新たな EU 共同研究開発プロジェクト
2018 年6月に開始された欧州の国際共同研究開発プロジェクト
フルスケールのプロペラからの騒音と振動を予測する数値的及び実験的手法の改良、シングルスクリュー及びツインスクリューを持つ様々なサイズ及び速力の船舶からの騒音と振動を軽減するための実際的な提案を行う。
IMO(国際海事機関)の動き
1970 年代に船内の空気伝播騒音に関する検討に着手し、
1981 年に総会決議 A.468「船内の騒音レベルに関するコード」を採択しました。
2014年には「海洋生物への悪影響に対処するための商船からの水中騒音の低減に関するガイドライン」(非強制ガイドライン)を承認しており、
ガイドラインの主な内容としては水中騒音を計測するための主な規格、設計時に検討すべき事項、運航する際に検討すべき事項などです。
CBT(生物多様性条約)
2010年から水中騒音の影響に係る検討を開始しました。各国に対し、人為起源の水中騒音による海洋生物への悪影響を避けるために必要な措置を講じることを要
請。2016年の会合において各国による取組状況を共有し対策を取ることが合意されていて、規制策についての議論が活性化されました。
ISO(国際標準化機構)
水中騒音に関する規格の作業部会が活動しています。
2010年にロンドンのISO総会において専門委員会ISO/TC43「音響」内に小委員会SC3水中音響」の設置を決定し、
水中音響の標準化作業を開始しました。
NOAA(海洋大気庁)
海産哺乳類に限ってだが内耳へのトラウマが残る音暴露レベル基準を公表していますが、
魚類を含む多くの海洋生物に対する基準は制定されていなく、国際的な合意もできていない状況です。
海洋生物への影響を最小限に抑えるよう慎重な監視や緩和策を行っています。
WWF
過去15年間で80%も減少している香港のイルカ問題に対してイルカの生息域での建設工事の禁止、海
岸の修復、違法漁業の取り締まり、フェリーの速度制限や航行回数の削減などの騒音対策を提唱している。
国内の動き
笹川平和財団海洋政策研究所が2020年5月14日に第170回海洋フォーラム
「もう一つの見えない危機~海の中の騒音問題~」を開催しました。
これは海運や海上交通、海洋鉱物資源探査、海洋エネルギー開発を初めとした海洋のあらゆる分野で発生している
騒音および海中騒音を取り巻く状況、魚介類などの海洋生物と海洋環境への影響、国内外の研究動向を踏まえ日本や関係国・機関が検討すべき課題や今後求められる取組みについて、水中生物音響学の視点から報告されたを行った
ものです。
・騒音暴露レベルに対する行動と生理反応の定量化。日本では特に水産有用種
・水中音の計測ガイドラインの策定、現状の騒音マップと騒音源の可視化
・騒音影響による生態系サービスの増減量見積もり。個々の生物種への影響と分布や個体数の変動
・騒音対策による社会的コストと利益の見積もり
・効果を最大化する社会変革の許容レベルの提言
以上の5つの作業が必要になり特に、水中音の計測ガイドラインについては現在海洋音響学会の研究部会が検討中で、今後の課題解決に向けて動いているようです。
各国での動き
アメリカ
アメリカ全体では、ほとんどの海洋種は米国海洋漁業局(NMFS)によって管理されています。
そして、海洋エネルギー管理局(BOEM)は、大陸棚外土地法(Outer Continental Shelf Lands Act)に基づき、水中騒音の影響を規制する権限を持っています。
MMFSは、海中哺乳類の聴力喪失の基準なども発表しています。
絶滅危惧種法では、2018年にハワイ諸島の島嶼部に生息するニセゴンドウの重要生息地が定義され、
連邦政府機関は、騒音レベルがニセゴンドウの重要生息地の利用や占有を損なわないようにすることが義務付けられています。
アカウミガメ、タイセイヨウチョウザメ、ミナミハンドウクジラなど、その他のケースでは、水中音響は移動、回遊、採餌を阻害するストレス要因として
議論されています。
またマグナソン・スティーブンス漁業保存管理法では、連邦政府によって管理されている約1,000種のライフステージ
(魚が産卵、繁殖、摂餌、または成熟するまでの生息域を含む) にわけられていて、必須魚類生息地への影響を最小化または防止しなければならないとされています。
海洋環境に対するすべてのストレス要因の影響を評価することが義務付けられており、これには音響による影響も含まれます。
これを受け国立海洋保護区プログラムなどは、米国東海岸沿いの現在の音風景の変化を検出するため、モニタリングステーションのネットワークを通じて水中音を監視する取り組みを主導しています。
豪州
国家海洋石油安全環境管理庁(NOPSEMA)が、作業時間の 95%の時間、1000m の距離において騒音レベルが 160dB SEL を越えてはならないと規定しました。 ちなみに他の多くの国でも、オフショア産業活動の開始以前に環境への影響に関する申告を要求しています。
カナダ
2014 年の IMO 勧告に続き、カナダ運輸省は民間船舶からの騒音の調査を複数の専門企業に委託しました。2019年にロンドンのIMO本部において、この分野における国際的な専門家を招聘した会合を主催しました。
西岸では、バンクーバー港が、シャチを始めとする哺乳類の保護プログラム「ECHO」を積極的に推進しており、このプログラムの一環としてバンクーバー港で2か所のモニタリングステーションを設置し、周辺海域の騒音レベルを記録しています。
専門家達の試み
海の生物を守る一策として音源または保護したい領域の周囲に、硬くて重い防音壁を作る方法があるがおそらく費用が高くなってしまうことに対し、
音響の専門家たちは防音壁の代わりに気泡を使える可能性があるとみて音波を吸収・反射する「空気のカーテン」を試す実験を始めています。
シアトルで開かれた米国音響学会において、テキサス大学オースティン校のウォクナー(Mark S. Wochner)らによって低周波音を吸収・反射するには直径10cm以上の大きな気泡が必要になるのだが、水中を自由に浮
上している気泡の場合10cm以上の大きな気泡は自然に壊れて小さな泡になってしまう。
そこで気泡を大きなまま維持するため薄いゴムで泡を包み、それらを風船のようにひもでつないだ壁を実験室の水槽に入れて実験したところ、
44デシベルの遮音効果があったと発表された。
だが、水上からやってくる音を遮ることはできても海底から伝わってくるこれらの音は遮断されないとのことで、ワシントン大学の音響学者ダール(Peter Dahl)はそうした音も遮音できる方法を見つけるため、下から伝わってくる音の特性を解析している。
答え 国際海事機関