選挙権拡大の歴史

現在では、一定の年齢に達すれば当たり前に得られる権利のように思える選挙権ですが、実は現在のように至るまで長い歴史があります。
国民はどのようにして選挙権を獲得していったのでしょうか。一緒に見ていきましょう。



現在の選挙法に至るまで


明治23年(1890年) 制限選挙

日本で初めての選挙として、「第一回衆議院議員総選挙」が実施されました。
これをもって、日本における近代的選挙法が始まりました。
有権者は、「満25歳以上、直接国税15円以上を以上を納める男子」のみでした。

当時は、投票するには国税を納める必要がありました。令和の現在と明治ではお金の価値が違うため、当時の15円で、お米を300kgも買うことができます...!
また、25歳以上しか投票できず、女子は投票する権利を持ちませんでした。

ひとことメモ

*有権者が「満25歳以上」であった理由
「成年に達したものは治産の能力もありまた兵役の義務も背負っているので、選挙権を与えても差し支えない」が、「二十歳はまだ学校に在籍しているか、 あるいは学校を卒業したばかりの時期で思想もまだ定まっていないため、政治上の大権を与えるべきではない」といった判断のため。


このような厳しい条件のため、当時の有権者数は約45万人、人口の約1%しかいませんでした。

選挙権獲得のために

こうした制限選挙を大きく変えるきっかけとなったのが、1918年(大正7年)の米騒動と、その翌年のパリ平和会議を契機として大衆化した普通選挙制度の獲得運動、いわゆる普通運動でした。
社会的地位、財産、納税、教育、信仰、人種、性別などによって選挙権を制限せず、成年の男女に等しく選挙権を認めるよう選挙法の改正が主唱されました。


ひとことメモ

*米騒動
米価の暴騰によっておこった全国的な民衆の暴動。各地で群衆が米商人や大商人などを襲う暴動が2か月近くも続いた。政府は警察や軍隊を出動させ、安い外国米を輸入するなどして騒動を静めた。



当時の女性は…

参政権どころか、政治結社(政党)への加入も、政治集会への参加も治安警察法で禁止されていました。そのため、女性からはこうした制限の撤廃を求める声が上がり、 政治的・社会的権利の獲得を目指す請願運動が高まりを見せました。1920年代には、平塚らいてう、市川房江などが設立した新婦人協会が運動を広げ、 1922年に、政治集会への女性の参加を認める部分改正が実現しました。


納税要件の撤廃

こうした民衆の強い要求を受けて、衆議院議員選挙法の改正が行われ、1919年(大正8年)には、有権者は、 「満25歳以上、直接国税3円以上を治める男子」に変わり、 さらに、1925年(大正14年)には、「満25歳以上のすべての男子」に変更されました。 こうして、年齢制限は変更されずに、納税要件が撤廃されました。そのため、当時の有権者数は1,200万人、人口の約20%にまで増加しました。


 
完全な普通選挙の実現

その後の1945年(昭和20年)では、戦後となり、衆議院議員選挙法が改正され、女性の参政権を認め、満20歳以上のすべての国民が選挙権を有する「完全な普通選挙」が実現されました。 男女平等となり、同時に年齢要件も引き下げられました。(当時の有権者数は約3,700人、人口の約50%でした。)



70年ぶりの選挙権年齢の引き下げ

2015年(平成27年)に、選挙権年齢が満20歳以上から満18歳以上に引き下げられました。
選挙権年齢の引き下げは、実に70年ぶりのことです。



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(表はメンバーが作成)




なぜ18歳に引き下げられたの?


理由は主に3つあります。



若者の声を届きやすくするため

少子高齢化が進むなかで、日本の未来を生きていく若い世代に、現在、そして未来の日本のあり方を決める政治に関与してもらいたいからです。
今日本は、少子高齢化のために高齢者の人口が減っています。
このため若年層の有権者数が少ないことにより、若い世代の意見が国や地方の政治に反映されにくいことになります。

例として、年金問題に着目してみましょう。
今の年金問題は、若者が納付している年金保険料が高齢者に支払われる方式です。
将来若者が減っていく時代には、年金は破綻するか、給付が大幅に減ると予測されています。
若者の私たちからしたら、これは解決したい問題ですよね?
しかし、年金問題に意見しようとしても、現在ではその意見の影響がとても少なくなってしまう可能性があります。
人口を比べると、20歳代は1,268万人、60歳代は1,836万人となっていて、その差は1.45倍となっています。
そのため、20歳代の「年金システムを見直して欲しい」という声は、年配の人たちの声と比べてとても小さくなってしまっています。
そこで、選挙権を18歳に引き下げることで、約240万人の18歳・19歳が20歳代の応援に加わると、60歳代の人数とほぼ同じになり、 「声の大きさ」はあまり変わらなくなり、幅広い意見が政治に反映できます!

このようなことから、若い世代の意見がもっと政治に反映されるように選挙権年齢を引き下げ、より多くの若い人たちが選挙で投票できるようにしたそうです。



世界の傾向に合わせるため

199の国と地域の中で、選挙権が18歳以下の国はなんと、176ヶ国もあります!!
(そのうち、最低年齢は16歳!…オーストリア・ブラジルを含む6カ国)
また、先進5カ国であるG5(日本・アメリカ・イギリス・フランス・ドイツ) のうち日本だけが遅れていました。
(現在ではG7(G5+カナダ・イタリア)の全ての国が選挙権年齢は18歳としています)

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(表はメンバーが作成)


なんと、被選挙権年齢において、イギリスでは18歳、キューバでは16歳からなんです。
”学生議員”も世界各国では誕生しています!!



憲法改正のために必要な国民投票の年齢である18歳に合わせるため

実は、国民投票では、18歳以上が投票できるようになっているんです。
※国民投票…日本国憲法を改正するかどうかを決める時に行われるもの
日本の最高法規である憲法を改正するか否かを18歳で決めることができるのに、 議員を選ぶ権利である選挙権は20歳からだというのはおかしいのではないかと考えられたからです。



参考文献

・政府広報オンライン「若者の皆さんあなたの意見を一票に!」 https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201602/1.html#firstSection
・川崎市「日本の選挙権拡大の歴史」 https://www.city.kawasaki.jp/910/page/0000018982.html
・日本共産党「戦前の女性は集会参加も禁止されたって?」 https://www.jcp.or.jp/akahata/aik2/2003-01-29/2003-0129faq.html
・酒田市「日本の選挙制度の歴史」 https://www.city.sakata.lg.jp/kurashi/senkyo/school.files/senkyoseido.pdf
・JACAR Glossary「Japan’s Wartime and Postwar Periods Recorded」 https://www.jacar.go.jp/english/glossary_en/tochikiko-henten/qa/qa27.html
・NHK 選挙WEB「今さらだけど…なんで「18歳選挙」?」 https://www.nhk.or.jp/senkyo/chisiki/ch18/20170105.html
・Gakkenキッズネット「*こめそうどう【米騒動】」 https://kids.gakken.co.jp/jiten/dictionary02500966/
・NDL「Digital Collections」 https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9578222_po_077907.pdf?contentNo=1




〜確認クイズ!〜
Q.完全な普通選挙が実現したのは何年?
正解!
1945年に、女性の参政権が認められ、「満20歳以上のすべての国民」が選挙権を有する「完全な普通選挙」が実現しました。
不正解…。もう一度確認してみよう!