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"日本独自の天然藍染めの染液作りと発酵技術を学ぶ"


阿波藍天然灰汁発酵建 蛙印染色工芸株式会社


http://tennen-aizome.com/

【場所】埼玉県八潮市  【見学日】2019年4月5日

日本独自の製造方法で作られた染液を使って染色したものを「天然藍染め」と呼びます。
化学薬品は一切使用せず、植物の蓼藍(たであい)や自然界の原料だけを発酵させ、布や糸を藍色に染色します。
私たちは発酵について深く調べるまで、染液作りに発酵技術が欠かせないとは知りませんでした。
日本の風土・気候・文化など、条件がうまく重ならなければこのような方法は生まれなかったかも知れません。
先人の知恵と努力で受け継がれてきた「天然灰汁発酵建(てんねんあくはっこうだて)」についてご紹介します。


天然灰汁発酵建の特長



室町末期〜江戸時代に最盛期を迎えた天然灰汁発酵建は、自然界の原料だけで染液が作ります。
職人の高い技術と手間はかかりますが、化学薬品不使用なので肌にやさしく、色素を出し切った染液とすくもは畑の肥料に再利用でき、環境にやさしいことが特長です。
この発酵建にこだわる理由をインタビューしたところ「藍の奥深い色の美しさを引き出すことが何より魅力なのです。だから大変でも続けられます。」とおっしゃったことが印象的でした。


豆知識@


開国後の日本を見て「ジャパン・ブルー」と称賛した人がいました。
明治初めに来日したイギリス人科学者、ロバート ウィリアム アトキンソン(東京開成学校、東京大学理学部で教えた日本酒の醸造や染料・鉱物に関する研究者)です。
歌川広重「東海道五捨三次」や葛飾北斎「冨獄三十六景」の浮世絵に、藍色の服を着た庶民やのれんなどが多く描かれています。アトキンソンは藍色が溢れる日本の日常風景がとても印象的だったのでしょう。



染液原料の日本一の産地は徳島



2019年3月9日放送のNHKブラタモリ【#128阿波踊り】は徳島が舞台でした。
江戸時代、暴れ川と呼ばれた吉野川は台風のたび洪水と氾濫をくり返したことで、肥沃な土が下流域に運ばれました。幸い蓼藍は7月中に収穫するため被害を受けませんでした。
このように、吉野川流域の地形の特徴を利用することで良質な蓼藍(阿波藍)が栽培でき、染液の素のすくも作りを本格的にできる農家が多くありました。

さらに吉野川の水運のおかげですくもは兵庫や大阪、名古屋、江戸へ船で運ぶことができました。
徳島のすくもは品質の高さから「本藍」、その他は「地藍」と呼ばれるほど別格で、藍農家は富を得ました。
徳島は日本一のすくもの産地となり、阿波踊りを経済的に支える程の富豪が多く存在したそうです。


豆知識A


なぜ江戸時代に藍染めが大流行したのか?

藍染めには優れた防虫・殺菌・消臭作用があり、商人の衣服や庶民の普段着に重宝されました。
安価なうえ、何度洗っても深みのある藍色が退色しにくく、風合いが保たれたため人々に広く普及しました。


すくもを「発酵建」すること



染職人はこのすくもで染液作りをしますが、すくもに含まれる青く発色する成分「インディゴ」は不溶性のため、何もしなければ染色できません。 まず甕(かめ)の中で灰汁(熱湯と木灰(きばい)を混ぜ合わせた後の上澄み)、発酵の栄養源となるふすま(小麦外皮)、すくも、石灰、清酒を混ぜ発酵させます。
この発酵建の工程ですくものインディゴを水溶性にすると染料の完成です。


こちらの工房で染めた2種類のエプロンを見せていただきました。
写真@は化学繊維の糸、写真Aは木綿の糸で縫ったものです。
藍染液は化学繊維には染まらないので、写真@のように糸だけ染まらず白いままだということが分かりました。



まとめと感想


天然藍染は日本独自の伝統工芸品です。近年では、藍染の魅力を知った外国人が藍染製品を買い求めることが多くなったそうです。発酵を調べるうちに天然藍染の歴史と工法を知り、まるで江戸時代にタイムスリップしたような感覚になりました。

世界は今、持続可能な循環型社会を目指し、自然にやさしいことは重要なキーワードです。
日本にはこのような発酵技術が存在し、頑なに受け継がれてきました。
微生物が発酵する力で自然本来の色が美しく引き出されます。
地球環境を守りながら安心して暮らしていくためには、これからも様々な微生物の力がさらに必要になるのではないでしょうか。



参考資料

日本放送出版協会 日本の藍 伝承と創造