ヤングケアラー
現状
このサイトを訪れてくれている方々の中にも「ヤングケアラー」という単語を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。「ヤングケアラー」は「子どもの権利」を脅かしている現状の問題の中でも最も重要度の高いものの一つであり、同時に近年ようやくワードの認知度が徐々に上がり始めてきた問題ではないかと思います。そしてまだまだ実態の調査もあまり進んでいるとは言えない現況にあります。
「ヤングケアラー」とは
「ヤングケアラー」というワードは知っていても、その実情をあまり知らないという人も多いのではないでしょうか。「ヤングケアラー」は、病気や障がいのために家庭生活を満足に送れない親や家族の世話をしていたり面倒を見ている子どもたちのことです。彼らは親に代わって大人と同程度もしくはそれ以上の負担(例えば、食事の調理や買い物、洗濯、家族の看病、生活費のためのアルバイトなど)を日常生活の一日一日で強いられており、日々の勉強や受験、就活などに深く影響が及んでしまうことが懸念されています。そして、残念ながらまだまだ日本では実態の認知度が低く、問題が見過ごされている、軽視されているという節があります。また、当事者である子ども自身が自らの家族を養う責任が当たり前であると感じて周りに相談しなかったり、そもそも自分が「ヤングケアラー」だと気づいていないというケースも往々にしてあります。
実際のデータからわかる、本人の認知度の低さと社会的な認知度の低さ
日本では、2019年に厚生労働省と文部科学省が協力し、全国の中高生への「ヤングケアラー」実態調査を始めました。2020年のデータでは中学2年生の5.7%、高校2年生の4.1%が世話や面倒を見ている家族のメンバーがいると回答しています。つまり、日本の子どもたちのうち、前者では、約17.5人に1人が、後者では約24.4人に1人が「ヤングケアラー」に該当しているということがわかります。しかしながら、同時に自らを「ヤングケアラー」と認識している人は、中学2年生で1.8%、高校2年生で2.3%となっています。このことからも「ヤングケアラー」が自分では認識しづらい問題であるということが理解できるのではないでしょうか。
そして、肝心の「ヤングケアラー」というワードの認知度は、中学2年生で84.2%もの人が、高校2年生では、86.8%もの人がワードの内容はおろか聞いたことすらないと答えています。無論調査した2020年のデータからはすでに約2年以上が経過しているため、現在の本人の認識度や社会的な認知度はいくらか上昇しているとは思います。ですが、それでも問題解決が進んでいない現状から、まだまだ低い状況にとどまっていると考えられます。こういったデータから、「ヤングケアラー」という問題がその深刻性のわりに、日本社会で見過ごされているのだという大きな問題がはっきりと浮き彫りになってきます。
子どもの権利条約では…
子ども権利条約には、個別の条文としては「ヤングケアラー」に関する規約はありません。しかし、様々な条文において、間接的に「ヤングケアラー」のような子どもたちをなるべく生まないような規定があるように思われます。例えば、第27条・第28条・第29条・第31条などの条文が該当します。それらの条文では「ヤングケアラー」であることによって失われがちな「教育をすること」、「休みを持つこと」、「遊びをすること」などに関する権利をしっかりと定めています。上記で挙げた条文は子どもの権利条約一覧のページにありますので、あわせてご参照ください。
改善策
現在の日本において、「ヤングケアラー」はまだまだ認知度が低く、解決に向けたみちのりも遠いものであるように一見見えます。ですがそのような状況の中で、この問題に対する解決策としては、例えば以下のものが考えられると思います。
ワードの認知度自体を上げていく広報活動
上述したように「ヤングケアラー」は当事者である子どもたち自身がその問題性に気づいていないケースが往々にしてあるほか、当事者でない人たちの認知度も低いという現状があります。そこで、「ヤングケアラー」という概念自体の認知度を広げていく広報活動を発展させるということが、現在考えうる中で最も解決に向けて効果的に前進していける策なのではないかと思います。現時点でももちろん広報活動自体は行われていますが、まだまだ効果は今一つで認知度もあまり上昇していない状況にあります。その広報活動を拡大発展させることが肝要です。政府はもちろんのこと、民間企業や団体も連携しながら啓発を行うことが何より重要だと考えます。例えば、テレビCMやテレビ番組、ポスター、パンフレットのような細かいところから徐々に社会全体に概念を浸透させていく感じです。
また、「ヤングケアラー」の子どもたちもそれ以外の子どもたちも同じく通っている「学校」という共通の空間において、社会科の一環として「ヤングケアラー」について教えていくというのも当事者である子どもとそれ以外の子どもが相互に理解しあうことのできる下地を形成することにつながると思います。相互の理解があることによって社会コミュニティの中で「ヤングケアラー」が孤立しないような状況を生み出すことができるのではないでしょうか。
学校で行える対処
他には、学校においてカウンセリング、アンケートといったものを実施し、実態に即したフレキシブルな体制を整えていくことも有効打になると思います。「ヤングケアラー」という問題は当事者である子ども自身があまり周りに相談しない問題であるという一面があるため、そういった子どもに対して心理面からサポートできる環境が社会にあること、信頼して打ち明けることのできる環境があることが重要であると考えます。もちろん、それらを担う教員やカウンセラーが子どもたちのそういった情報を外に漏らさないようなモラルも同時に問われることではあると思います。しかしながら、こうした施策をすることは間違いなく現状よりも多くの「ヤングケアラー」の子どもたちを助けることに繋がり、ひいては彼らに対する社会全体の意識が高まることへと繋がっていくだろうと思います。