社会的養護
現状
社会的養護とは
社会的養護とは、保護者のいない児童や、保護者が養育するのに適していないと判断された児童、また養育が困難な家庭に子どもの権利を保証できるような公的支援を提供する制度のことを指します。では具体的に、社会的養護とはどのような支援を行っているのでしょうか。
この法律で、児童福祉施設とは、助産施設、乳児院、母子生活支援施設、保育所、 児童厚生施設、児童養護施設、知的障害児施設、知的障害児通園施設、盲ろうあ児施設、 肢体不自由児施設、重症心身障害児施設、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設 及び児童家庭支援センターとする。
1947年に制定された児童福祉法(第7条)には、社会的養護を行っている児童福祉施設が定義されています。近年、DVや虐待の増加による家庭の環境の変化から、社会的養護の観点が多様化しており、障害等のある児童や貧困で生活の難しい家庭、虐待で複雑化した家庭など、様々な要因により社会的養護を必要としている層が存在していることから、それぞれに適した支援を行うために専門性の高い施設がいくつも設置されています。
家庭養護と施設養護
社会的養護には様々な施設が存在することがわかりましたが、支援を行っているのは施設だけではありません。
上記の児童福祉法で定義されている施設で行われる社会的養護を施設養護と呼びますが、そのほかに、一時的に政府が認めた家庭で子どもを養育する「里親」(里親は、社会的養護を受けている子どもの最善の選択肢とされています。また、虐待を受けて育った子どもなど、養育が難しいと判断された場合には、「専門里親」と呼ばれる研修を受けてより厳しい審査を通った家庭に委託されることになります。)、正式に家族として子どもを育てる「養子縁組」(養子縁組には2種類あり、「普通養子縁組」と「特別養子縁組」です。普通養子縁組は、戸籍上は養子と表記され、離籍することが可能ですが、特別養子縁組は完全な実子として表記され、通常の家庭と同じ扱いをされます)などの制度は、本来の家庭に近い環境であることから、家庭養護と呼ばれています。児童福祉法に「児童が心身ともに健やかに養育されるよう、より家庭に近い環境での養育の推進を図ることが必要」とあるように、子どもにとって最善な養育環境は「本来の家庭」であり、より家庭に近い環境、つまり「家庭養護」を子どもに与えられることが最善の選択とされています。近年は施設養護にも家庭養護のような環境を取り入れる動きが始まっており、小規模のグループでのケアを地域に分散させて行うことで、施設内での家庭養護を実現する家庭的養護を行う児童養護施設が増えてきています。
社会的養護の課題
「家庭養護」が最善であると言われているのにも関わらず、現状は施設での養育が8割を占めています。なぜ施設での養育が主になってしまっているのでしょうか。
まず、児童相談所の社会的養護における負担がとても大きいことが挙げられます。児童相談所は、虐待の疑いの通告や経済的理由などで家庭での養育ができないという理由で送られてきた相談に対応し、相談所が保護が必要かどうかを調査、そして判断します。それに応じて、相談所は親への指導や子どもの一時的保護、他の施設と連携して「施設養護」が必要なのか、里親などの「家庭養護」が可能かの検討をします。また、社会的養護を行うまでにも、施設の環境が子どもにとって最善であるかの調査、里親制度では、応募のあった家庭が里親にふさわしいかの検査と里親になるために必要な研修を実施します。これらの業務を全て児童相談所が管理しており、それに加えて相談所の職員不足という問題が重なり、一つの機関では十分に対応することが困難という課題があります。
そして、そもそも「家庭養護」に必要な里親や養子縁組の志願が日本は少ない傾向にあります。日本は国民への里親制度・養子縁組の認知度が低く、それに伴って志願者の数も少なくなっています。また、日本は実親の親権が強いため、実親が許可しなければ子どもは里親制度を利用できません。これは実親に虐待を受けていた児童も同様であり、施設養護の割合が多い理由でもあります。
改善策
児童相談所の社会的養護における負担を改善
他の先進国では、児童相談所のような公的機関だけでなく、民間の機関も協力して里親委託等の業務を行っています。日本の民間機関には専門的な業務を行える職員が少ないため、児童相談所の職員数拡大に加え、民間機関の職員育成も行う必要性があります。近年では日本も自治体が里親制度の支援を行う動きが始まっています。
養子縁組・里親制度の改善
里親委託率などが高い国では、国の社会的養護に対する予算が日本と比べて高い傾向にあります。日本では社会的養護に充てる費用はGDPの0.02%と言われており、アメリカ・カナダの130分の1となっています。改善には、政府の社会的養護に対する予算増額、そして里親制度に対する正しい理解・認知度の向上が求められます。また、日本では里親制度などには月に数万円の援助費が保証されているのにも関わらず、特別養子縁組の制度で子どもと生活するようになった家庭には、十分な支援がされていません。特別養子縁組も社会的養護の一つであり、社会が子どもを育てる義務があることから、養子縁組への支援を行うことは子どものためにも必要であるといえます。